【事例】
・A社は、B社との継続的な商品供給契約に基づいて、B社にA社の商品を継続的に販売している。
・契約では、売買代金は月締めの銀行振り込みによる支払いとしており、
具体的には、月末締めの翌々月15日支払いとしていた。
・A社は、昨年に入った頃からB社の支払いが次第に遅れがちとなってきたため、その対策を講じようとしていたが、
同年4月10日、B社の資金繰りが窮迫し、取引先金融機関に緊急融資を依頼しているとの情報を得た。
・A社のB社に対する売掛金債権は、4月10日現在で、
・4月15日支払い分(2月分)が500万円、
・5月15日支払い分(3月分)が300万円
ある他、未払いとなっている3月15日支払い分(1月分)が150万円ある。
・B社が資産として有するほとんどの不動産には、金融機関を担保権者とする担保権が設定されており、
以前にB社が福利厚生施設として利用していた不動産のみが遠隔地に無担保のまま残っている程度である。
・B社が取引先に有する売掛金等の債権についても、同時に同額以上の買掛金等の債務を負っているものが多く、
A社の債権回収の原資と見込める資産としてはあまり期待できない状況にある。
【問題】
01. 保全処分の機能を説明しなさい。
02. 仮差し押さえについて、その要件や効果、手続きを含めて説明しなさい。
03. A社がB社に有する債権を回収する手段として、どのようなものが考えられるか、簡潔に説明しなさい。
04. A社は、2月分および3月分の売掛金債権についても、(3)で挙げた手段で回収できるか、説明しなさい。
【解答例】
01.
・保全処分とは、判決取得前の段階において、将来の強制執行のために債務者の資産を確保しておく手段ないし
手続きである。
・売掛金等の金銭債権について、債務者から任意の支払いが受けられない場合、最終的には提訴して勝訴判決を取得し、
その判決に基づいて債務者の資産を差し押さえて換価する必要がある。
・しかし、提訴した場合、通常、判決の取得までには相当の期間を要する。
・その間に、債務者が第三者にその資産を処分等してしまうと、勝訴判決を取得しても、
差し押さえるべき債務者の資産が存在しないこととなり、債権を回収することが極めて困難になる。
・そこで、判決取得前の段階でも、将来債務者の資産について強制執行することを可能にするため、
民保法に保全処分についての規定が設けられている。
02.
・保全処分のうち、金銭債権を保全するため、債務者の財産の処分に一定の制限を加える手続きを仮差し押さえという
(法20条1項)。
○要件
・仮差し押さえは、
(1)被保全債権(金銭債権)および
(2)保全の必要性
(債務者の財産の現状を維持しておかなければ、後日強制執行をすることが不能または著しく困難となる恐れ)
がある場合に認められる処分である。
○効果
・仮差し押さえが認められると、債務者がこの差し押さえの執行後になした処分等を、仮差押債権者に対抗できなくなる。
・例えば、不動産に仮差し押さえがなされ、その旨の登記がなされた場合、その後、当該不動産が第三者に
譲渡等されても、仮差押債権者は、本案での勝訴判決をもとに、当該不動産に強制執行を申し立てられる。
・また、債権に仮差し押さえがなされ、その旨が通知された場合、仮差し押さえがなされた債権の債務者(第三債務者)は
その後になした債権者(仮差押債権者との関係では債務者)に対する弁済等を仮差押債権物に主張できず、
当該仮差押債権者にさらなる弁済(二重弁済)を強いられる(法50条1項、民法481条)。
○手続き
・仮差し押さえの手続きは、まず、裁判所に仮差し押さえを申し立て、仮差し押さえ決定を取得し
(仮差し押さえ決定は裁判所(書記官)から、第三債務者、次いで債務者に送達される)、
その後、目的物に応じた執行手続きをする。
・仮差し押さえの審理は迅速性を旨とするため、その要件については証明ではなく疎明で足りる(法13条2項)。
・しかし、その結果、債務者に損害が生じる可能性があるため、その担保として保証金
(または裁判所が相当と認める有価証券)を供託等すべきこととされるのが通常である(法14条1項、4条1項)。
03.
・まず、A社は、B社が取引先金融機関に緊急融資を依頼したとの情報の真偽を確かめるとともに、
債務の弁済についてB社と協議を持つことが肝要である。
・B社は、A社にとって継続的な取引先であり、協議によって債権を任意に回収できれば、それが望ましい。
・訴訟等の手段による回収に要する時間と費用も節約できる。
・しかし、協議による任意の弁済が期待できない場合、訴訟等の強制的な手段による回収に踏み切らざるを得ない。
・その場合、B社の資産に対する仮差し押さえを事前にする必要がある。
・仮差し押さえの対象としては、まず、B社の有する無担保の不動産を対象とする。
・また、金融機関を担保権者とする担保がすでに設定されている不動産でも、
その余剰部分についてA社は権利行使できるので、余剰部分の有無については慎重に検討する必要がある。
・さらに、B社の債権については、反対債権があるものはその相殺適状の有無等を調査の上、仮差し押さえをすることによる
取引先への信用不安の発覚というマイナスの要素等も勘案して、その適否を慎重に検討しなければならない。
・なお、仮差し押さえの場合、他の債権者よりも早く仮差し押さえをしたとしても、
他の債権者に優先して弁済を受けられるわけではないので注意が必要である。
04.
・2月分の売掛金の支払期日は4月15日、3月分の売掛金の支払期日は5月15日であり、
いずれも4月10日現在、期限が到来していない。
・そこで、期限未到来の債権の被保全債権となるかが問題となる。
・まず、債務者が支払いを一度でも遅延すれば、債権者は他のすべての債権についても債務者の期限の利益を
失わせられるという、期限の利益喪失条項が約定されていることがある。
・仮に、A社とB社の間にこのような約定があれば、3月15日支払い分の売掛金が未払いとなっているのだから、
A社は、B社に、約定に基づいて、B社が期限の利益を喪失していることを前提に、
すべての売掛金債権を被保全債権とする方法が考えられる。
・次に、期限の利益喪失条項がないとしても、
期限未到来の債権を被保全債権として、仮差し押さえをすること自体は否定されていない。
・ただし、期限が未到来であることから、保全の必要性(緊急性)についての裁判所の判断が厳しくなる可能性はある。
【参考】
民事保全法 - Wikipedia
・A社は、B社との継続的な商品供給契約に基づいて、B社にA社の商品を継続的に販売している。
・契約では、売買代金は月締めの銀行振り込みによる支払いとしており、
具体的には、月末締めの翌々月15日支払いとしていた。
・A社は、昨年に入った頃からB社の支払いが次第に遅れがちとなってきたため、その対策を講じようとしていたが、
同年4月10日、B社の資金繰りが窮迫し、取引先金融機関に緊急融資を依頼しているとの情報を得た。
・A社のB社に対する売掛金債権は、4月10日現在で、
・4月15日支払い分(2月分)が500万円、
・5月15日支払い分(3月分)が300万円
ある他、未払いとなっている3月15日支払い分(1月分)が150万円ある。
・B社が資産として有するほとんどの不動産には、金融機関を担保権者とする担保権が設定されており、
以前にB社が福利厚生施設として利用していた不動産のみが遠隔地に無担保のまま残っている程度である。
・B社が取引先に有する売掛金等の債権についても、同時に同額以上の買掛金等の債務を負っているものが多く、
A社の債権回収の原資と見込める資産としてはあまり期待できない状況にある。
【問題】
01. 保全処分の機能を説明しなさい。
02. 仮差し押さえについて、その要件や効果、手続きを含めて説明しなさい。
03. A社がB社に有する債権を回収する手段として、どのようなものが考えられるか、簡潔に説明しなさい。
04. A社は、2月分および3月分の売掛金債権についても、(3)で挙げた手段で回収できるか、説明しなさい。
【解答例】
01.
・保全処分とは、判決取得前の段階において、将来の強制執行のために債務者の資産を確保しておく手段ないし
手続きである。
・売掛金等の金銭債権について、債務者から任意の支払いが受けられない場合、最終的には提訴して勝訴判決を取得し、
その判決に基づいて債務者の資産を差し押さえて換価する必要がある。
・しかし、提訴した場合、通常、判決の取得までには相当の期間を要する。
・その間に、債務者が第三者にその資産を処分等してしまうと、勝訴判決を取得しても、
差し押さえるべき債務者の資産が存在しないこととなり、債権を回収することが極めて困難になる。
・そこで、判決取得前の段階でも、将来債務者の資産について強制執行することを可能にするため、
民保法に保全処分についての規定が設けられている。
02.
・保全処分のうち、金銭債権を保全するため、債務者の財産の処分に一定の制限を加える手続きを仮差し押さえという
(法20条1項)。
○要件
・仮差し押さえは、
(1)被保全債権(金銭債権)および
(2)保全の必要性
(債務者の財産の現状を維持しておかなければ、後日強制執行をすることが不能または著しく困難となる恐れ)
がある場合に認められる処分である。
○効果
・仮差し押さえが認められると、債務者がこの差し押さえの執行後になした処分等を、仮差押債権者に対抗できなくなる。
・例えば、不動産に仮差し押さえがなされ、その旨の登記がなされた場合、その後、当該不動産が第三者に
譲渡等されても、仮差押債権者は、本案での勝訴判決をもとに、当該不動産に強制執行を申し立てられる。
・また、債権に仮差し押さえがなされ、その旨が通知された場合、仮差し押さえがなされた債権の債務者(第三債務者)は
その後になした債権者(仮差押債権者との関係では債務者)に対する弁済等を仮差押債権物に主張できず、
当該仮差押債権者にさらなる弁済(二重弁済)を強いられる(法50条1項、民法481条)。
○手続き
・仮差し押さえの手続きは、まず、裁判所に仮差し押さえを申し立て、仮差し押さえ決定を取得し
(仮差し押さえ決定は裁判所(書記官)から、第三債務者、次いで債務者に送達される)、
その後、目的物に応じた執行手続きをする。
・仮差し押さえの審理は迅速性を旨とするため、その要件については証明ではなく疎明で足りる(法13条2項)。
・しかし、その結果、債務者に損害が生じる可能性があるため、その担保として保証金
(または裁判所が相当と認める有価証券)を供託等すべきこととされるのが通常である(法14条1項、4条1項)。
03.
・まず、A社は、B社が取引先金融機関に緊急融資を依頼したとの情報の真偽を確かめるとともに、
債務の弁済についてB社と協議を持つことが肝要である。
・B社は、A社にとって継続的な取引先であり、協議によって債権を任意に回収できれば、それが望ましい。
・訴訟等の手段による回収に要する時間と費用も節約できる。
・しかし、協議による任意の弁済が期待できない場合、訴訟等の強制的な手段による回収に踏み切らざるを得ない。
・その場合、B社の資産に対する仮差し押さえを事前にする必要がある。
・仮差し押さえの対象としては、まず、B社の有する無担保の不動産を対象とする。
・また、金融機関を担保権者とする担保がすでに設定されている不動産でも、
その余剰部分についてA社は権利行使できるので、余剰部分の有無については慎重に検討する必要がある。
・さらに、B社の債権については、反対債権があるものはその相殺適状の有無等を調査の上、仮差し押さえをすることによる
取引先への信用不安の発覚というマイナスの要素等も勘案して、その適否を慎重に検討しなければならない。
・なお、仮差し押さえの場合、他の債権者よりも早く仮差し押さえをしたとしても、
他の債権者に優先して弁済を受けられるわけではないので注意が必要である。
04.
・2月分の売掛金の支払期日は4月15日、3月分の売掛金の支払期日は5月15日であり、
いずれも4月10日現在、期限が到来していない。
・そこで、期限未到来の債権の被保全債権となるかが問題となる。
・まず、債務者が支払いを一度でも遅延すれば、債権者は他のすべての債権についても債務者の期限の利益を
失わせられるという、期限の利益喪失条項が約定されていることがある。
・仮に、A社とB社の間にこのような約定があれば、3月15日支払い分の売掛金が未払いとなっているのだから、
A社は、B社に、約定に基づいて、B社が期限の利益を喪失していることを前提に、
すべての売掛金債権を被保全債権とする方法が考えられる。
・次に、期限の利益喪失条項がないとしても、
期限未到来の債権を被保全債権として、仮差し押さえをすること自体は否定されていない。
・ただし、期限が未到来であることから、保全の必要性(緊急性)についての裁判所の判断が厳しくなる可能性はある。
【参考】
民事保全法 - Wikipedia