原題の「がん戦争」のほうが本書の意図を正確に伝えている。人間対がんの戦争という意味もあるが、より具体的に言えば「がんを予防あるいは抑制しようとする者」対「がんの予防措置を妨げる者」との戦いである。
著者は科学史家であり、終始科学的なデータと科学者の意見に即して議論を進めている。科学的考察によって浮き彫りにされるのは、社会的政治的要因である。
今や「がんの原因はほぼわかっている」と著者はいう。発がん物質の古典的な例をあげれば、煙突のすす、精錬作業からの煙、パラフィン、ウラン鉱山内部の空気、アニリン染料、X線、コールタール、アスベストなど。これらは、大気、飲料水、食料品を介して人間の体に入り込む。
世界保健機構によれば、がん全体の二分の一は、もっとも工業化の進んだ国(世界人口の五分の一)で発生している。
「がんはだいたい予防できる」とも著者はいう。喫煙者が禁煙すれば、肺がん発生率を下げることができる。
だが、生活習慣や食生活の改善と異なって、環境破壊の改善は容易ではない。産業界は、がんの危険を隠蔽し、曖昧にし、逆宣伝をおこない、予防措置を先送りにしてきた。がん研究にも投資したが、それは治療に対してであり、予防に対してではなかった。
政治もこれに加担した。その端的な例がレーガン政権である。国防費をふくらませる一方で、大企業に露骨に梃子いれした。労働安全衛生や環境に係る規制を大幅にゆるめ、これらの業務に携わる政府職員の言動を検閲したのである。本書は、一章をさいて、レーガン政権による「がんの政治学」の歪みを剔抉している。
「がんの政治学」をはね返して本書が提言する予防対策は、21世紀の日本の対がん戦略に資するだろう。
□ロバート・N・プロクタ(平澤正夫訳)『がんをつくる社会』(共同通信社、2000)
↓クリック、プリーズ。↓
著者は科学史家であり、終始科学的なデータと科学者の意見に即して議論を進めている。科学的考察によって浮き彫りにされるのは、社会的政治的要因である。
今や「がんの原因はほぼわかっている」と著者はいう。発がん物質の古典的な例をあげれば、煙突のすす、精錬作業からの煙、パラフィン、ウラン鉱山内部の空気、アニリン染料、X線、コールタール、アスベストなど。これらは、大気、飲料水、食料品を介して人間の体に入り込む。
世界保健機構によれば、がん全体の二分の一は、もっとも工業化の進んだ国(世界人口の五分の一)で発生している。
「がんはだいたい予防できる」とも著者はいう。喫煙者が禁煙すれば、肺がん発生率を下げることができる。
だが、生活習慣や食生活の改善と異なって、環境破壊の改善は容易ではない。産業界は、がんの危険を隠蔽し、曖昧にし、逆宣伝をおこない、予防措置を先送りにしてきた。がん研究にも投資したが、それは治療に対してであり、予防に対してではなかった。
政治もこれに加担した。その端的な例がレーガン政権である。国防費をふくらませる一方で、大企業に露骨に梃子いれした。労働安全衛生や環境に係る規制を大幅にゆるめ、これらの業務に携わる政府職員の言動を検閲したのである。本書は、一章をさいて、レーガン政権による「がんの政治学」の歪みを剔抉している。
「がんの政治学」をはね返して本書が提言する予防対策は、21世紀の日本の対がん戦略に資するだろう。
□ロバート・N・プロクタ(平澤正夫訳)『がんをつくる社会』(共同通信社、2000)
↓クリック、プリーズ。↓