語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【映画談義】『es(エス)』

2010年02月25日 | □映画
 2月26日の『心理学で何がわかるか』で集団の圧力に係る実験にふれたが、集団内の役割、社会的地位が人間の行動におよぼす影響を調べたのが1971年のスタンフォード大学の実験だ。
 『es(エス)』の原題は『実験(DAS EXPERIMENT)』」で、このスタンフォード監獄実験に着想を得ている。

 実験では、大学内に模擬刑務所を仮設し、公募した被験者20名を無作為に2つのグループ及び看守と囚人に分け、ロール・プレイを行わせた。
 当初2週間の予定だったが、立案者にとっても意外な、あまりにも非人間的な行動が生じて、6日間で中止になった。以後、こうした実験は禁止されている。

 映画は、実際の実験にほぼ忠実にはじまる。
 短時日のうちに囚人役の被験者たちは受動的傾向、卑屈なまでも服従的傾向を露わに示すようになった。情緒不安定、鬱状態を示す被験者も生じた。
 他方、看守役の被験者は次第に支配的傾向、攻撃的傾向の度を増し、実験者が課した規則を踏みにじって人権侵害、身体的暴力から殺人まで犯すに至るのである。
 たとえば、囚人番号77を割り当てられた主人公タレク(モーリッツ・ブライプトロイ)が、実験だから、と思って遠慮なく看守の体臭を「臭い」と嘲ると、看守役の被験者は実験者の眼のとどかない場面を作りだして、タレクをバリカンで丸坊主にし、さらに彼が着用する服で便器の大便を拭わせ、「おまえは臭い」と嘲笑するのであった。
 かくて、暴動が起こり、最終的には2名の死者をふくむ多数の死傷者が発生する。

 映画『es』には、スタンフォード監獄実験にはなかった虚構がある。たとえば殺人、あるいはレイプ。
 ドイツ人の徹底癖のあらわれだろうか。
 監督はオリヴァー・ヒルシュビーゲル、主演はモーリッツ・ブライブトロイ。
 2001年モントリオール国際映画祭最優秀監督賞、2001年ババリアン映画賞最優秀監督賞・最優秀撮影賞・最優秀脚本賞、2001年ドイツ映画賞最優秀観客賞・最優秀金賞、2001年ベルゲン映画祭最優秀観客賞を受賞したほか、各賞にノミネートされた怪作である。

□『es(エス)』(独、2001)
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