心理学で何がわかるか。
たとえば、集団の圧力に屈すると、行動にどのような歪みが生じるかがわかる。
1951年、米国のアッシュは、集団における同調性の実験をおこなった(本書pp.211-213)。
7~9人の被験者グループに、2枚のカードを示す。カードAには一本の線が描かれ、カードBには長さの異なる3本の線1、2、3が描かれている。そして、被験者にBの3本のうち、Aと同じ長さの線は1から3のうちどれですか、といった質問をする。
あるグループにおいて、1回目の試行では全員が同じ回答だった。2回目も全員同じ回答だった。3回目、波乱がおきた。6人の回答に、一人が異議をとなえたのである。彼は不信感に満ち、驚愕していた。続く試行も3回目と同じく一人を除いて7人が全員同じ回答をしたが、その一人はだんだん狼狽え、あまり異議をとなえなくなり、最後には当惑の笑みを浮かべて他の者と同じ回答をおこなった。
他のグループにおいても、同様な結果がみられた。
じつは、当惑した人だけが本当の被験者で、他の者はサクラ(実験協力者)なのであった。
要するに、被験者は、サクラの集団的圧力に屈し、同調してしまったのである。
グループの中にサクラがいないとき、誤答は1%未満だが、サクラが7名いると、誤答は36.8%にのぼった。
ちなみに、サクラが1名だと同調性はおこならないが、サクラが2名だと誤答は13.6%、サクラが3名だと31.8%にものぼった。
ただし、サクラが4名以上になっても誤答は増加しなかった。つまり、集団の圧力がもっとも高まるには、サクラが3名いれば十分なのである。
パートナーの影響はどうか。
サクラをパートナーに、そのパートナーは第6回目の試行までは正しい回答を行うようにしたところ、被験者は、多数のサクラが誤答した場合にも、27人中18人の被験者は、多数に抗して、パートナーとともに正しく回答した。しかし、7回目以降、サクラのパートナーが裏切って、他のサクラと同じく誤答をすると、被験者の誤答も急速に増えた。
・・・・冒頭の設問、心理学で何がわかるか、にたち戻ると、アッシュの実験からは、大衆心理の基礎構造がわかる。
ここから、誤った意見をもつ多数の中で、正しい少数意見を貫くのがいかに難しいか、ということもわかる。
わかったことから、何か事をおこなうにはまず一人の同志を見つけるにしくはない、といった議論を展開することができる。
なお、集団の圧力は、ふつうの人をして、個人ではおこなわないような非人間的行動に駆りたてることもある。それを検証したのが、いわゆるアイヒマン実験である。この実験のさわりは、本書をご覧いただきたい。詳しくは、本書のあげる参考文献を参照していただきたい。
本書全体の特徴を整理して、しめくくろう。
第一、全体として辛口の語りぶりで、新書だからといって気がぬけない。もっとも、どのページにも軽いユーモアが感じられるから、読みやすい。
第二、タイトルは入門書だが、事例が豊富であり、参考文献は最新の文献をふくめて紹介しているから、初級者のみならず中級者も読むに値する。
第三、事例は検証可能な実験が中心であり、かつ、検証可能な実験に即して議論をすすめている(こうした議論を教育や臨床の現場でどう活かすかは別の議論になる)。
第四、実験の推計学的厳密さを重視し、推計学的厳密さに耐えない実験についてはその結論の受け入れを保留している。
□村上宣寛『心理学で何がわかるか』(ちくま新書、2009)
↓クリック、プリーズ。↓
たとえば、集団の圧力に屈すると、行動にどのような歪みが生じるかがわかる。
1951年、米国のアッシュは、集団における同調性の実験をおこなった(本書pp.211-213)。
7~9人の被験者グループに、2枚のカードを示す。カードAには一本の線が描かれ、カードBには長さの異なる3本の線1、2、3が描かれている。そして、被験者にBの3本のうち、Aと同じ長さの線は1から3のうちどれですか、といった質問をする。
あるグループにおいて、1回目の試行では全員が同じ回答だった。2回目も全員同じ回答だった。3回目、波乱がおきた。6人の回答に、一人が異議をとなえたのである。彼は不信感に満ち、驚愕していた。続く試行も3回目と同じく一人を除いて7人が全員同じ回答をしたが、その一人はだんだん狼狽え、あまり異議をとなえなくなり、最後には当惑の笑みを浮かべて他の者と同じ回答をおこなった。
他のグループにおいても、同様な結果がみられた。
じつは、当惑した人だけが本当の被験者で、他の者はサクラ(実験協力者)なのであった。
要するに、被験者は、サクラの集団的圧力に屈し、同調してしまったのである。
グループの中にサクラがいないとき、誤答は1%未満だが、サクラが7名いると、誤答は36.8%にのぼった。
ちなみに、サクラが1名だと同調性はおこならないが、サクラが2名だと誤答は13.6%、サクラが3名だと31.8%にものぼった。
ただし、サクラが4名以上になっても誤答は増加しなかった。つまり、集団の圧力がもっとも高まるには、サクラが3名いれば十分なのである。
パートナーの影響はどうか。
サクラをパートナーに、そのパートナーは第6回目の試行までは正しい回答を行うようにしたところ、被験者は、多数のサクラが誤答した場合にも、27人中18人の被験者は、多数に抗して、パートナーとともに正しく回答した。しかし、7回目以降、サクラのパートナーが裏切って、他のサクラと同じく誤答をすると、被験者の誤答も急速に増えた。
・・・・冒頭の設問、心理学で何がわかるか、にたち戻ると、アッシュの実験からは、大衆心理の基礎構造がわかる。
ここから、誤った意見をもつ多数の中で、正しい少数意見を貫くのがいかに難しいか、ということもわかる。
わかったことから、何か事をおこなうにはまず一人の同志を見つけるにしくはない、といった議論を展開することができる。
なお、集団の圧力は、ふつうの人をして、個人ではおこなわないような非人間的行動に駆りたてることもある。それを検証したのが、いわゆるアイヒマン実験である。この実験のさわりは、本書をご覧いただきたい。詳しくは、本書のあげる参考文献を参照していただきたい。
本書全体の特徴を整理して、しめくくろう。
第一、全体として辛口の語りぶりで、新書だからといって気がぬけない。もっとも、どのページにも軽いユーモアが感じられるから、読みやすい。
第二、タイトルは入門書だが、事例が豊富であり、参考文献は最新の文献をふくめて紹介しているから、初級者のみならず中級者も読むに値する。
第三、事例は検証可能な実験が中心であり、かつ、検証可能な実験に即して議論をすすめている(こうした議論を教育や臨床の現場でどう活かすかは別の議論になる)。
第四、実験の推計学的厳密さを重視し、推計学的厳密さに耐えない実験についてはその結論の受け入れを保留している。
□村上宣寛『心理学で何がわかるか』(ちくま新書、2009)
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