1981年6月7日、イスラエル空軍はバグダッド近郊に建設中のオシラック原子炉を空爆し、完璧に破壊した。イラクの原爆生産を阻むためである。表だった外交的努力、裏面の謀略活動を重ねたあげくの、最後の手段であった。
イラクと交戦状態が続いていた。サダム・フセインの目的はイスラエルの破滅そのものにはなくて、イスラエルの破滅を手段としてアラブ世界の盟主となる点にあった。イ・イ戦争やクウェート侵入も、こうした目的から出てきた戦略の一つである。
フセインの野望からすると単なる一手段にすぎなくとも、当のイスラエルにとっては、死活の問題であった。この小国は、原爆一発で滅び去る。フセインの冷酷さは、つとに周知の事実で、国内の最高権力者にのしあがるまで粛正につぐ粛正をおこなった。抵抗するクルド族には、生物兵器すら使用している。
かくて、原子炉破壊ということになったのだが、兵の派遣は論外であった。空爆しかない。しかし、イスラエルとイラクの間にはシリア、ヨルダン、サウジアラビアがたちふさがる。航続距離が長すぎる。折りあしくイランの空爆が失敗し、対空兵器が強化された。ただでさえ、イラクは中東最大規模の戦闘機を保有しているのだ。
最終的には、機外に油槽を増設したF-16が8機(爆撃)、F-15が6機(護衛)の構成で作戦が実施された。損失はゼロであった。
クラウゼヴィッツが指摘するように、戦争は政治の延長である。この作戦はごく限定された局地戦であるがゆえに、かえってこの真理が明確に浮き上がる。
本書は、一見エンターテインメントふうな訳題であるが、軍事的、技術的な解説も怠りないれっきとしたルポタージュである。事の性質上、イスラエル側に立って記述されているが、史料的価値は十分にある、と思う。
ちなみに、A・J・クィネル『スナップ・ショット』の背景となっているのは、この作戦である。
□ダン・マッキンノン(平賀秀明訳)『あの原子炉を叩け!』(新潮文庫、1983)
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イラクと交戦状態が続いていた。サダム・フセインの目的はイスラエルの破滅そのものにはなくて、イスラエルの破滅を手段としてアラブ世界の盟主となる点にあった。イ・イ戦争やクウェート侵入も、こうした目的から出てきた戦略の一つである。
フセインの野望からすると単なる一手段にすぎなくとも、当のイスラエルにとっては、死活の問題であった。この小国は、原爆一発で滅び去る。フセインの冷酷さは、つとに周知の事実で、国内の最高権力者にのしあがるまで粛正につぐ粛正をおこなった。抵抗するクルド族には、生物兵器すら使用している。
かくて、原子炉破壊ということになったのだが、兵の派遣は論外であった。空爆しかない。しかし、イスラエルとイラクの間にはシリア、ヨルダン、サウジアラビアがたちふさがる。航続距離が長すぎる。折りあしくイランの空爆が失敗し、対空兵器が強化された。ただでさえ、イラクは中東最大規模の戦闘機を保有しているのだ。
最終的には、機外に油槽を増設したF-16が8機(爆撃)、F-15が6機(護衛)の構成で作戦が実施された。損失はゼロであった。
クラウゼヴィッツが指摘するように、戦争は政治の延長である。この作戦はごく限定された局地戦であるがゆえに、かえってこの真理が明確に浮き上がる。
本書は、一見エンターテインメントふうな訳題であるが、軍事的、技術的な解説も怠りないれっきとしたルポタージュである。事の性質上、イスラエル側に立って記述されているが、史料的価値は十分にある、と思う。
ちなみに、A・J・クィネル『スナップ・ショット』の背景となっているのは、この作戦である。
□ダン・マッキンノン(平賀秀明訳)『あの原子炉を叩け!』(新潮文庫、1983)
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