1972年9月5日、ミュンヘンのオリンピック村をPLO主流派「ファタハ」に属する「黒い九月」が襲った。イスラエルの選手、役員11名が銃または手榴弾によって殺害された。
ゴルダ・メイア首相はモサドの一員、アフナーに密命をくだす。ミュンヘンの事件に責任のあるテロリスト、11名の抹殺である。
5名の特命チームによるザ・ミッション、すなわち人間狩りが開始された。西ヨーロッパに潜行し、9名を斃した。
だが、アフナーは任務に幻滅した。3年間に近い心労があった。それだけではない。依然としてテロリズムの嵐は吹き荒れている。自分たちの仕事がいかほどの抑止力となっただろうか、という疑惑が胸裏に湧いた。加えて、自分たちだけがマン・ハントの特命を受けたチームではない、という事実がわかった(リレハンマー事件)。
チームもその存在が敵方に知られ、仲間が一人一人暗殺されていき、3名を喪った。潮時であった。
作戦終了の通知を受けて引き上げると、意外なことにアフナーは英雄として迎えいれられた。工作管理官は「次の任務がある」と告げた。アフナーは、もうたくさんであった。ニューヨークで妻子とともに平穏に暮らしたかった。工作管理官は執拗であった。銀行に手をまわして、アフナーが貯金していた3年間の報酬を封鎖し、「命に従えば返す」と脅した。
拒否し、無一文となったアフナーは、名を変え、妻子とともに合衆国に移住した。
本書は、アフナーの告白をもとに、ジャーナリストの著者があらわした。告白が事実か否かを調査し、巻末の「取材ノート」で検証している。アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)ノンフィクション部門受賞。スピルバーグ監督映画『ミュンヘン』の原作。
当時のモサド長官ツビ・ザミルは、「ゲリラ暗殺は報復ではなく、次のテロ発生を防ぐ目的だった」とコメントするが、暗殺工作を否定していない。
イスラエルの対テロ政策の一端、そして一人のエージェントと彼が率いるチームの活動が主題だが、スパイ組織の人を人として扱わない(骨の髄まで利用しつくす)側面も遠慮なく描いて、読者をして肌寒く感じさせる。
□ジョージ・ジョナス(新庄哲夫訳)『標的は11人 -モサド暗殺チームの記録-』(新潮文庫、1986)
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ゴルダ・メイア首相はモサドの一員、アフナーに密命をくだす。ミュンヘンの事件に責任のあるテロリスト、11名の抹殺である。
5名の特命チームによるザ・ミッション、すなわち人間狩りが開始された。西ヨーロッパに潜行し、9名を斃した。
だが、アフナーは任務に幻滅した。3年間に近い心労があった。それだけではない。依然としてテロリズムの嵐は吹き荒れている。自分たちの仕事がいかほどの抑止力となっただろうか、という疑惑が胸裏に湧いた。加えて、自分たちだけがマン・ハントの特命を受けたチームではない、という事実がわかった(リレハンマー事件)。
チームもその存在が敵方に知られ、仲間が一人一人暗殺されていき、3名を喪った。潮時であった。
作戦終了の通知を受けて引き上げると、意外なことにアフナーは英雄として迎えいれられた。工作管理官は「次の任務がある」と告げた。アフナーは、もうたくさんであった。ニューヨークで妻子とともに平穏に暮らしたかった。工作管理官は執拗であった。銀行に手をまわして、アフナーが貯金していた3年間の報酬を封鎖し、「命に従えば返す」と脅した。
拒否し、無一文となったアフナーは、名を変え、妻子とともに合衆国に移住した。
本書は、アフナーの告白をもとに、ジャーナリストの著者があらわした。告白が事実か否かを調査し、巻末の「取材ノート」で検証している。アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)ノンフィクション部門受賞。スピルバーグ監督映画『ミュンヘン』の原作。
当時のモサド長官ツビ・ザミルは、「ゲリラ暗殺は報復ではなく、次のテロ発生を防ぐ目的だった」とコメントするが、暗殺工作を否定していない。
イスラエルの対テロ政策の一端、そして一人のエージェントと彼が率いるチームの活動が主題だが、スパイ組織の人を人として扱わない(骨の髄まで利用しつくす)側面も遠慮なく描いて、読者をして肌寒く感じさせる。
□ジョージ・ジョナス(新庄哲夫訳)『標的は11人 -モサド暗殺チームの記録-』(新潮文庫、1986)
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