「なにが書いてあるの?」
「14世紀のことだ」
彼は黙っていた。薪の端から樹液が流れ出て下の熱い灰の中に落ちた。
「なんで1400年代のことを書いた本を読むの?」
「1300年代。20世紀が1900年代であるのと同じだ」
ポールが肩をすぼめた。「だから、なぜそんなことについて読むの?」
私は本をおいた。「当時の人々の生活がどんなものだったか、知りたいのだ。読むことによって、600年の隔たりをこえた継続感を得られるのが好きなのだ」
*
『初秋』に出てくる会話である。スペンサーは、両親から放任されている子どもを預かり、二人して自然の中で暮らす。シンプルな生活の一夜、少年が尋ね、スペンサーが答える場面である。
継続感とは、14世紀のどこかの社会にスペンサーもまた属している、という感覚だろう。
試みに、わが国の、たとえば田中優子『江戸の想像力』をひもといてみるとよい。継続感が感じられるならば、あなたは江戸の住民の資格をもつ。
スペンサーは、「自立というのは自己に頼ることであって、頼る相手を両親からおれに替えることではないんだ」などと子どもに教えさとす独立自尊の男だが、ある共同体への(その共同体が過去のものであっても)帰属感とすこしも矛盾しない。むしろ、目前にはない共同体への帰属感をもつことで、独立の意識はより堅固になるのかもしれない。
ロバート・ブラウン・パーカーは、米国マサチューセッツ州出身の作家。1973年、『ゴッドウルフの行方』でデビューし、スペンサー・シリーズ第4作『約束の地』でMWA賞最優秀長編賞を受賞した。2010年1月18日没。
【参考】ロバート・B・パーカー(菊池光訳)『初秋』(早川書房、1982。後にハヤカワ・ミステリ文庫、1988)
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「14世紀のことだ」
彼は黙っていた。薪の端から樹液が流れ出て下の熱い灰の中に落ちた。
「なんで1400年代のことを書いた本を読むの?」
「1300年代。20世紀が1900年代であるのと同じだ」
ポールが肩をすぼめた。「だから、なぜそんなことについて読むの?」
私は本をおいた。「当時の人々の生活がどんなものだったか、知りたいのだ。読むことによって、600年の隔たりをこえた継続感を得られるのが好きなのだ」
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『初秋』に出てくる会話である。スペンサーは、両親から放任されている子どもを預かり、二人して自然の中で暮らす。シンプルな生活の一夜、少年が尋ね、スペンサーが答える場面である。
継続感とは、14世紀のどこかの社会にスペンサーもまた属している、という感覚だろう。
試みに、わが国の、たとえば田中優子『江戸の想像力』をひもといてみるとよい。継続感が感じられるならば、あなたは江戸の住民の資格をもつ。
スペンサーは、「自立というのは自己に頼ることであって、頼る相手を両親からおれに替えることではないんだ」などと子どもに教えさとす独立自尊の男だが、ある共同体への(その共同体が過去のものであっても)帰属感とすこしも矛盾しない。むしろ、目前にはない共同体への帰属感をもつことで、独立の意識はより堅固になるのかもしれない。
ロバート・ブラウン・パーカーは、米国マサチューセッツ州出身の作家。1973年、『ゴッドウルフの行方』でデビューし、スペンサー・シリーズ第4作『約束の地』でMWA賞最優秀長編賞を受賞した。2010年1月18日没。
【参考】ロバート・B・パーカー(菊池光訳)『初秋』(早川書房、1982。後にハヤカワ・ミステリ文庫、1988)
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