語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>「安全値」の恣意的な操作と内部被曝

2012年03月02日 | 震災・原発事故
(1)「安全値」の恣意的な操作
 「安全神話」の根拠となった線量「安全値」は恣意的に操作されてきた。
 1966年、米国「オークリッジ国立研究所」は、広島・長崎両原発投下時の「放射線量」について、暫定的な計算値を発表した。それと人体被害を付き合わせたのがT65D(Tentative 65 dose=1965年につくられた暫定値)だ。現在使用されているICRPの「民間人1mSv/年」もこれに依拠する。
 ところが、T65Dの計算根拠は一切示されていない。この計算が誤っていれば、「権威ある国際基準値」は崩れさる。

 米国「ローレンス・リバモア研究所」を始め、T65Dの定説を覆すデータを次々に明らかにした。
 同研究所によれば、(a)広島・長崎での中性子量はT65Dの計算値よりはるかに少ない(広島1/10、長崎1/6以下)。(b)人体被害をもたらしたのは中性子よりγ線である。
 10倍多く見積もっていたのだから、導き出される安全値はT65Dの1/10量に下げなくてはならないはずだ。つまり、安全値は0.1mSv/年ということだ。

 ビッツバーグ大学教授(当時)の世界的な疫学者トーマス・マンクーゾは、米国原子力委員会の依頼を受け、1964年からハンフォード原子力施設(リッチモンド)労働者を調査し、1977年に報告した。
 マンクーゾ報告書によれば、原子力産業で働く労働者は、一般の労働者に比して10倍、20倍も癌になりやすい・・・・。
 米国は、ただちにもみ消しに走った。研究はオークリッジ研究所に交代させ、集めたデータは持ち去り、研究費を止めた。研究の不備を唱える反論キャンペーンを繰り返し、遂にマンクーゾは米国にとって「好ましからぬ人物」のレッテルが貼られた。米国は、「差し迫った危険はない There is no immediate danger」宣伝にやっきとなった。
 どこかで聞いた宣伝だ。「直ちに健康には影響しない・・・・」
 今使われている安全値の「線量体系」自体、「さしあたって」の目安なのだ。

(2)内部被曝 ~ペトカウ効果~
 運営費を原子力産業が出している国際放射線防護委員会(ICRP)は、「内部被曝」をずっと軽視し続けてきた。
 ICRPは、初めの2年を除き、内部被曝部門を廃止し、主に外部被曝を扱っている。広島・長崎の被曝認定も、原則、外部被曝(一次放射線)だけで判断してきた。
 しかし、現実には、広範囲の人たちが誘発放射線(二次放射線)を浴び、フォールアウトや黒い雨を浴び、外部・内部被曝を起こしていた【注1】。
 マンクーゾ報告書がショックを与えたのは、内部被曝の危険性を指摘したからだ。そして、フクシマの危険性も、外部被曝以上に内部被曝にある。

 A・ペトカウは、1972年、ホワイトシェル研究所(カナダ)で、まったくの偶然から大発見した。放射線による細胞膜破壊の実験中、誤って実験材料を放射性ナトリウムが混じった水の中に落とした。すると、15.6Svの放射線を58時間照射しなければ破壊できなかった細胞膜が、0.00001Svの放射線を12分浴びるだけで破壊されたのだ。実験を重ねた結果、「放射時間を延ばせば延ばすほど細胞破壊に必要な線量は少なくて済む」ことが確認された。つまり、体内に入った放射性物質は、微量であっても体内に留まれば簡単に細胞膜を破壊するのだ【注2】。

 今日では、次のことはよく知られている。体内に入った放射性物質は活性水素を発生させることによって細胞膜を破壊し、遺伝子の二重螺旋構造の鎖を切り裂く。その結果、誤った遺伝情報の再合成が繰り返され、障害や癌が発生する。
 「切り裂き」は、細胞分裂の激しい器官(骨髄・腸粘膜・生殖器・甲状腺など)ほど深刻だ。子どもや妊婦が危ないのも同じ理由だ。

 【注1】「【震災】原発>米国の低線量内部被曝 ~ペトカウ効果~
 【注2】松井栄介『見えない恐怖--放射線内部被曝』、旬報社、2011

 以上、中澤正夫「原爆と原発 ~「フクシマ」が我々に突きつけたもの」(「障害者問題研究」No.4 vol.39 Feb.2012)のうち「5 核による汚染について ~その2 原発について~」に拠る。
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