語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>殺されゆく弱者

2012年03月10日 | 震災・原発事故
 今回の災害でも、被害を最も受け、いわば殺されたのは社会的弱者だ。強い者しか生きていけない社会は、災害時にはそれがあからさまに現れる。
 支援の必要な人たちには、行き場も居場所もなかった。一部の人々の懸命な努力で何とか生命をつなぎとめているが、いまなお行政の支援は十分ではない。

<例1>障がい者
 被災地での「障がい者」の死亡率は、健常者の2倍にのぼる。「障がい者」の生活は、地震を生き残った後も苛酷だった。
 (a)やっとのことで避難所にたどり着いた聾唖者は、「無口な人」と思われたまま、体調の悪化を伝えることができず、事切れた。
 (b)集団行動が難しい発達障害児は、車の中での生活を強いられた。避難所を出たら、「逃げた」と言われて、物資が供給されないケースもあった。
 (c)てんかん児は、薬が切れたあと発作を起こし、命の危険にさらされた。当初、必要な薬を入手することは不可能に近かった。
 (d)こだわりの強い自閉症の子どもは、環境が変わったため、食事が喉を通らず衰弱し、まったく排便しなくなった子どももいた。

<例2>高齢者
 夜中に徘徊する認知症の高齢者たちは、介助者から先に疲弊して倒れていった。疲労が虐待に繋がるケースもあった。

<例3>女性
 (a)DV
   女性への暴力的な言動が被災地で増えた。
   仕事も財産も誇りも失った男たちは、「酒を飲む」か「家族に当たる」か「寝ている」か、の状態になった。
   父親が荒れて子どもが恐怖に怯え、毎日泣きながら眠り込む。女性が離婚を申し出ると、夫から、自分の荷物を家中のゴミと一緒に送りつけられた。女性は、鬱を発症した。
   仮設住宅では、パーソナルスペースはなく、逃げ場がない。「夫が一服するために部屋を出るときだけが生きている心地がする」女性もいる。
   一時金が出ると、多くの男たちが酒場に向かった。一家単位での支払いは女性を苦しめることになった。

 (b)性暴力
   早い段階から報告された。若い女性の隣にわざと寝る男性。女性が寝場所を変えても、ついてきて隣に寝る。隣にこないで、と言うと、「どこで寝ようがオレの買ってだろ」と開き直る。
   過去の震災や停電などによる性暴力被害のフラッシュバックに悩む被害者が多数存在することも、今回明らかになった。

<例4>外国籍女性
 被災地には、外国籍(フィリピン、韓国、中国、ベトナム、タイなど)の「妻」が少なくない。多言語による情報はほとんどなく、たとえ役所から提供されても届かなかった。
 外国籍女性のDV保護率は、日本人女性の6倍だ。失業率は40%以上。この数字に、今回の被災が重なったのだ。
 被災地5県で生活し、仕事をしていた外国籍住民は91,147人(2011年3月15日現在)。うち、行方不明者の数は把握されていない。身元が確認されたのは、23人の死亡者だけだ。
 震災直後には流言飛語が飛び交い、外国籍住民は避難所の片隅で肩を寄せ合って小さくなっていた。 

 真の復興とは、殺さない、殺されない社会を作ることだ。
 被曝した人を抜きにして、電力の未来を語るべきではない。原発の是非を問う住民投票は、被害者の手によってなされるべきで、利益を享受している者たちの手で行われるべきでない。
 そして復興は、地元を知り抜いている地方自治体の主導の下に行われるべきだ。特別なニーズを抱えている構造的弱者にとっては、そこにしか命綱はない。だが、復興の要となる自治体職員は疲弊しきっている。なぜこうなってしまったのか。

 以上、辛淑玉(人材育成コンサルタント)「殺されゆく弱者 非常時に表れる差別意識 ~震災で噴き出した歪み(上)~」(「週刊金曜日」2012年3月2日号)に拠る。
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