(1)「総報酬割の導入」による国民負担増
「社会保障・税一体改革大綱」(2012年2月17日閣議決定)では、後期高齢者支援金と介護納付金の算定方法における「総報酬割の導入」がうたわれている。
仮にこれが導入されれば、復興増税における所得税増税(年0.3兆円、25年計7.5兆円)を上回る規模の負担増となる可能性がある。
(2)後期高齢者医療制度・前期高齢者給付費の財源 ~現行~
(a)日本の医療保険制度・・・・組合健保・協会けんぽ・共済組合・国保・後期高齢者医療制度の5つ、約3,500の保険者。
(b)後期高齢者医療制度の財源・・・・①高齢者自らの保険料、②公費、③現役健保(組合健保・協会けんぽ・共済組合・国保の総称)からの後期高齢者支援金。
(c)前期高齢者(その多くは国保に加入)の給付費の財源・・・・①高齢者自らの保険料、②被用者健保(国保を除く現役健保)からの前期高齢者納付金。
(3)後期高齢者支援金・前期高齢者納付金の算定方法 ~現行~
(a)後期高齢者支援金・・・・3分の2は「加入者割」(被保険者数に基づいて算定)、3分の1は「総報酬割」(給与水準に基づいて算定)。総報酬割があることで、相対的に平均年収の低いB健保の負担が軽くなっている【注1】。
(b)前期高齢者納付金・・・・全額「加入者割」。ちなみに、基礎年金拠出金も加入者割。
(4)後期高齢者支援金・前期高齢者納付金の算定方法 ~「大綱」の案~
(3)-(a)は全額、総報酬割となる。この結果、組合健保は1,300億円、共済組合は800億円の負担増となり、他方、協会けんぽは2,100億円の負担減となる(政府試算)。
ここまでなら、相対的に給与水準の低い協会けんぽを組合健保と共済組合が救済する、という改革だ。被用者健保間の助け合いの強化、能力に応じた負担、という意味では一定の意義を有する。組合健保、共済組合の1人当たり平均年収が、それぞれ434万円、511万円であるのに対し、協会けんぽは335万円と顕著な差があるからだ(2009年度)。
(5)隠された意図 ~国庫補助の削減~
「大綱」には明記されていないが、厚生労働省の審議会における事務局の説明では、(4)による協会けんぽの負担減に伴い、同額の協会けんぽ向け国庫補助(一般会計の社会保障関係費の一部)が削減される。
この場合、協会けんぽにとってはプライスマイナスゼロで、ちっとも助けにならない。そして、組合健保と共済組合の負担増だけが残るのだ。
結局、総報酬割の導入は、協会けんぽに対する国庫補助2,100億円を組合健保と共済組合へ付け替える作業だ。政府の本音は、一般会計の社会保障関係費の抑制にある。
復興増税における所得税増税3,000億円は、わが国の全課税世帯が負担し、かつ、25年の期間限定だ。他方、2,100億円は組合健保と共済組合の計1,929万世帯(2009年度)に的が絞られ、しかも恒久的な負担増だ。
(6)介護保険への総報酬割導入
総報酬割は、介護保険における介護納付金にも導入される。「大綱」は、現行の加入者割から総報酬割への変更をうたう。それによって、組合健保と共済組合の納付金負担が計1,600億円増え、その分協会けんぽの納付金負担が減るものの、同額の協会けんぽ向け国庫補助が削減される。
後期高齢者支援金と同じ構図だ。やはり、協会けんぽに対する国庫補助の組合健保と共済組合への付け替えだ。
1,600億円は、「社会保障・税一体改革成案」において、計1.2兆円の社会保障の「重点化・効率化」の一部として計上されているが、一般会計という庭先のごみ(国庫補助1,600億円)を、組合健保と共済組合という隣の庭に掃き出しているだけ、と表現した方がふさわしい。
(7)本音を隠す政府
かくて、組合健保と共済組合の負担増は、後期高齢者支援金+介護納付金=2,100億円+1,600億円=3,700億円となる。
復興増税のスキーム策定の際には、収入階級別の家計の負担額が試算された上、毎年度の負担平準化を図るため、増税期間が当初案の10年から25年に延長されるなど、具体的な議論が展開された。
他方、所得税増税を上回る規模となる「総報酬割の導入」に関しては、国民に真の狙いを開示していない。医療保険の保険料も、国民負担である点において税と同じだ。だから実質増税なのだが、政府は公平や重点化・効率化といった美辞麗句のオブラートで包み込み、その真の意図を国民に説明していない。「大綱」には、総報酬割導入の目的は公平のため、としか書かれていない。「介護費用を公平に負担する観点から、介護納付金の負担を医療保険者の総報酬に応じた按分方法とすること(総報酬割の導入)を検討する」
【注1】<例>後期高齢者支援金9億円をA健保・B健保の2健保組合が拠出、A健保・B健保とも加入者は1,000人、平均年収それぞれ700万円・300万円と仮定する。(ア)加入割・・・・6億円 → A健保もB健保も3億円ずつの負担。(イ)総報酬割・・・・3億円 → A健保2.1億円(3×7/10)、B健保0.9億円(3×3/10)。(ア)+(イ)=A健保5.1億円、B健保3.9億円。
【注2】より正確には、健康保険法第153条において国庫補助の割合は16.4%から20%のレンジで示されており、具体的な率は政令で定められる。
以上、西沢和彦(日本総合研究所調査部主任研究員)「健康保険料・「総報酬割の導入」の背後に隠された実質増税の思惑 ~西沢和彦の税と社会保障抜本改革入門【第10回】 2012年3月13日~」(DIAMOND online)に拠る。
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「社会保障・税一体改革大綱」(2012年2月17日閣議決定)では、後期高齢者支援金と介護納付金の算定方法における「総報酬割の導入」がうたわれている。
仮にこれが導入されれば、復興増税における所得税増税(年0.3兆円、25年計7.5兆円)を上回る規模の負担増となる可能性がある。
(2)後期高齢者医療制度・前期高齢者給付費の財源 ~現行~
(a)日本の医療保険制度・・・・組合健保・協会けんぽ・共済組合・国保・後期高齢者医療制度の5つ、約3,500の保険者。
(b)後期高齢者医療制度の財源・・・・①高齢者自らの保険料、②公費、③現役健保(組合健保・協会けんぽ・共済組合・国保の総称)からの後期高齢者支援金。
(c)前期高齢者(その多くは国保に加入)の給付費の財源・・・・①高齢者自らの保険料、②被用者健保(国保を除く現役健保)からの前期高齢者納付金。
(3)後期高齢者支援金・前期高齢者納付金の算定方法 ~現行~
(a)後期高齢者支援金・・・・3分の2は「加入者割」(被保険者数に基づいて算定)、3分の1は「総報酬割」(給与水準に基づいて算定)。総報酬割があることで、相対的に平均年収の低いB健保の負担が軽くなっている【注1】。
(b)前期高齢者納付金・・・・全額「加入者割」。ちなみに、基礎年金拠出金も加入者割。
(4)後期高齢者支援金・前期高齢者納付金の算定方法 ~「大綱」の案~
(3)-(a)は全額、総報酬割となる。この結果、組合健保は1,300億円、共済組合は800億円の負担増となり、他方、協会けんぽは2,100億円の負担減となる(政府試算)。
ここまでなら、相対的に給与水準の低い協会けんぽを組合健保と共済組合が救済する、という改革だ。被用者健保間の助け合いの強化、能力に応じた負担、という意味では一定の意義を有する。組合健保、共済組合の1人当たり平均年収が、それぞれ434万円、511万円であるのに対し、協会けんぽは335万円と顕著な差があるからだ(2009年度)。
(5)隠された意図 ~国庫補助の削減~
「大綱」には明記されていないが、厚生労働省の審議会における事務局の説明では、(4)による協会けんぽの負担減に伴い、同額の協会けんぽ向け国庫補助(一般会計の社会保障関係費の一部)が削減される。
この場合、協会けんぽにとってはプライスマイナスゼロで、ちっとも助けにならない。そして、組合健保と共済組合の負担増だけが残るのだ。
結局、総報酬割の導入は、協会けんぽに対する国庫補助2,100億円を組合健保と共済組合へ付け替える作業だ。政府の本音は、一般会計の社会保障関係費の抑制にある。
復興増税における所得税増税3,000億円は、わが国の全課税世帯が負担し、かつ、25年の期間限定だ。他方、2,100億円は組合健保と共済組合の計1,929万世帯(2009年度)に的が絞られ、しかも恒久的な負担増だ。
(6)介護保険への総報酬割導入
総報酬割は、介護保険における介護納付金にも導入される。「大綱」は、現行の加入者割から総報酬割への変更をうたう。それによって、組合健保と共済組合の納付金負担が計1,600億円増え、その分協会けんぽの納付金負担が減るものの、同額の協会けんぽ向け国庫補助が削減される。
後期高齢者支援金と同じ構図だ。やはり、協会けんぽに対する国庫補助の組合健保と共済組合への付け替えだ。
1,600億円は、「社会保障・税一体改革成案」において、計1.2兆円の社会保障の「重点化・効率化」の一部として計上されているが、一般会計という庭先のごみ(国庫補助1,600億円)を、組合健保と共済組合という隣の庭に掃き出しているだけ、と表現した方がふさわしい。
(7)本音を隠す政府
かくて、組合健保と共済組合の負担増は、後期高齢者支援金+介護納付金=2,100億円+1,600億円=3,700億円となる。
復興増税のスキーム策定の際には、収入階級別の家計の負担額が試算された上、毎年度の負担平準化を図るため、増税期間が当初案の10年から25年に延長されるなど、具体的な議論が展開された。
他方、所得税増税を上回る規模となる「総報酬割の導入」に関しては、国民に真の狙いを開示していない。医療保険の保険料も、国民負担である点において税と同じだ。だから実質増税なのだが、政府は公平や重点化・効率化といった美辞麗句のオブラートで包み込み、その真の意図を国民に説明していない。「大綱」には、総報酬割導入の目的は公平のため、としか書かれていない。「介護費用を公平に負担する観点から、介護納付金の負担を医療保険者の総報酬に応じた按分方法とすること(総報酬割の導入)を検討する」
【注1】<例>後期高齢者支援金9億円をA健保・B健保の2健保組合が拠出、A健保・B健保とも加入者は1,000人、平均年収それぞれ700万円・300万円と仮定する。(ア)加入割・・・・6億円 → A健保もB健保も3億円ずつの負担。(イ)総報酬割・・・・3億円 → A健保2.1億円(3×7/10)、B健保0.9億円(3×3/10)。(ア)+(イ)=A健保5.1億円、B健保3.9億円。
【注2】より正確には、健康保険法第153条において国庫補助の割合は16.4%から20%のレンジで示されており、具体的な率は政令で定められる。
以上、西沢和彦(日本総合研究所調査部主任研究員)「健康保険料・「総報酬割の導入」の背後に隠された実質増税の思惑 ~西沢和彦の税と社会保障抜本改革入門【第10回】 2012年3月13日~」(DIAMOND online)に拠る。
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