語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>いまだ収束せず ~米国が恐れる「核燃料火災」~

2012年03月11日 | 震災・原発事故
 米国の原子力技術者アーニー・ガンダーセンは、インターネットの動画で、3号機の爆発において使用済み核燃料プールで即発臨界が起こった可能性について解説している。今は爆発の原因を厳密に特定するのは困難な段階だが、上向きのベクトルで劇的な爆発が起こったこと、爆発位置の偏りを考えると、核燃料プールで不慮の臨界が起こった、と考えるのが自然だ。
 4号機の核燃料プールは、今も日本列島を物理的に分断するほどの力を持っている。震災時、このプールに炉心数個分の使用済み核燃料が入っていた。大気圏内で行われた過去の核実験で放出された総量に匹敵するほどの放射性セシウムが眠っている。
 恐ろしいことに、核燃料プールは遮蔽されていない。放射性物質が漏出し続けている。まさに「格納されていない炉心」だ。今は水で冷やしているが、プールにひびが入るなどして水位が下がり、冷却できなくなると、温度が上がって燃料棒の鞘であるジルコニウム合金が発火する。こうなると、もはや水では消火できない。核燃料が大気中で燃える。人類の誰も体験したことのない恐ろしい状況になる。今回の事故とは桁違いの膨大な放射性物質が出てくる。大惨事だ。
 震災直後、日本では1、3号機の爆発に気をとられていたが、米原子力規制委員会(NRC)は、この事態を非常に心配していた。
 ボロボロの4号機の燃料プールがガラッと崩れて、核燃料がバラバラと飛び散る事態も心配で、科学にとって未知の事態になる。今のところ、燃料プールに亀裂が入っただけで済んでいる。

 事故現場は、大規模な余震に再び襲われる可能性が高い。福島原発の前に70kmを超える「双葉断層」が横たわっているからだ。阪神・淡路大震災のエネルギーの8倍に相当するM7.9の内陸直下型地震が起こるおそれがある。
 過去を振り返れば、大地震の後には、再び大きな地震が起こることが多い。2004年、インド洋大津波を引き起こしたインドネシアのスマトラ島沖のM9.1地震の3ヵ月後にはM8.6の地震が起こった。
 余震がとても怖い。地殻が大変化した日本では、どこでも大地震が起こり得る時代が続く。すべての原発を今すぐ廃絶しないといけない。

 溶けた核燃料は、圧力容器から漏れて、その下のコンクリートの床に落ちた。メルトダウンした高温の核燃料が、コンクリートの土台も溶かして地中にめり込んだ可能性がある。溶け落ちた核燃料の温度が非常に高くなっていたと思われるからだ。昨年7月16日付けの茨城の地元紙「常陽新聞」によれば、気象庁気象研究所(つくば市)で、モリブデンやテクネチウムを大気中で検出した。4,000度異常の超高温でしか気化しない物質が、170km離れた筑波まで飛んできたのだ。それほど高温の核燃料は、コンクリートを突き抜けるのではないか。
 核燃料が1ヵ所に集中して落ちていれば。他方、広がって落ちれば、全体の温度は徐々に下がっていく。そうすれば抜け落ちない。どういう形状で落ちたかで変わってくる。現時点では、誰も確認できない。
 しかし、突き抜けていても、いなくても、格納容器からは既に大量の汚染水が漏れている以上、問題ではない。

 日本では何故かセシウムのことしか議論しない。モリブデンやテクネチウムが飛んでいるとは、それより沸点の低いプルトニウムやウランなども放出されている、ということだ。しかし、議論すらしていない。

 ガンダーセンが福島の子どもが履いた靴を測定すると、放射線量は靴底より靴紐のほうが高かった。結び目に溜まりやすいのだろう。セシウム以外の放射性物質も検出した。
 スリーマイル島原発事故では、11年後の1990年になって、やっと大量の放射能が漏れていたことが分かった。白血病や肺癌の増加が指摘された。肺癌は、事故で放出された放射性キノセンとクリプトンの吸入によるものだろう。
 今回の事故でもキノセンやクリプトンも出たが、まったく話題になっていない。内部被曝を防ぐ手だてがほとんど行われていない。
 ガンダーセンの試算では、将来的に少なくともフクシマ事故の影響で100万人は癌が増える。 
 米国にも今回の事故による放射性物質が飛んできている。特に西海岸のオレゴンで高い数値が出ている。アラスカの先のアリューシャン列島の上空を通って、カナダ方面から西海岸の北側に辿り着いたのだろう。
 海洋汚染は、すでにハワイまで広がっている。米国が日本に売った原発によって、米国の海洋が汚染されたのだ。

 ストロンチウムはカルシウムと置き換わって骨や歯に蓄積する。乳歯を集めてみれば、分布が分かる。
 しかし、法律上、本人の許可が必要で、難しい。

 東日本ではもうすぐ雪が溶け、大量に川に流れ出し、河口地帯から汚染が広がっていく。
 魚が汚染し、海底にも堆積する。
 多くの人が福島にとどまっているが、政府は放射性物質の厳密な調査も行っていない。
 極めて厳しい闘いが、今後数十年以上続く。 

 以上、広瀬隆&アーニー・ガンダーセン「福島第一原発事故は収束していない! 米国が恐れる「核燃料火災」の大惨事」(「週刊朝日」2012年3月16日号)に拠る。
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【震災】原発>「廃炉」という地獄 ~40年後~

2012年03月11日 | 震災・原発事故
(1)政府・東京電力の中長期対策会議が2011年暮れに発表したロードマップ
 順調に進んでも、現在30歳の若手社員が還暦を迎えるまで廃炉は実現しない。
 (a)2年以内に使用済み核燃料プールから核燃料の取り出しを始める。
 (b)10年以内にプールからの燃料取り出しを完了し、原子炉内などにある溶け落ちた核燃料の取り出しを始める。
 (c)20~25年後に溶け落ちた核燃料の取り出しを終える。
 (d)30~40年後に原子炉の解体を終えて放射性廃棄物を処分する。

(2)ロードマップのモデル
 1979年に事故を起こしたスリーマイル島原発(TMI)2号機の廃炉作業がモデルだが、TMIは炉心溶融したといっても、
 (a)核燃料は原子炉の中に留まっていたし、
 (b)建屋の水素爆発はなかった。しかも、
 (c)1基だけだった。さらに、意外と知られていないが、
 (d)TMIで行われたのはあくまで核燃料を取り出すところまでで、原子炉は今も密閉された状態で残っている。稼働中の1号機の寿命が尽きたところで一緒に解体し、一緒に廃炉にする計画だからだ。
 福島第一事故の収束のモデルとなるのは、(1)-(c)までで、その先は前人未踏の道を開拓しなければならない。

(3)TMIの燃料取り出し ~計画と現実~
 幾つもの予期せざるトラブルに遭遇し、核燃料取り出し(1990年)まで11年かかった。
 (a)最大の難所は、原子炉を水浸しにして放射線を遮った上で、溶け落ちた核燃料を取り出す作業だった。事故から7年後、炉内をカメラで覗くと、ミドリムシが繁殖していて、視界がほとんどなかった。消毒薬に使う過酸化水素水(オキシドール)を入れ、水が透明度を回復するまで、1年を空費した。
 (b)こびりついた核燃料を削るボーリングの開発にも時間がかかり、核燃料取り出しまで、当初の計画の倍の時間、4年を要した。

(4)カギとなる新技術開発
 核燃料取り出しは、TMI以上の困難が予想され、(1)-(c)の長期が設定されている。
 しかし、1~3号機が炉心溶融し、格納器も損傷しているから、スケジュール通り進行するか、疑問だ。
 カギとなるのは、ロボットなどの新技術が開発されるか否かだ。ロードマップには、「研究開発」という項目があちこちに登場する。(a)建屋内の放射線量を下げるための「遠隔除染装置の開発」。(b)格納容器の壊れた場所を特定するための「格納容器内調査装置の設計・製作・試験等」。(c)溶け落ちた核燃料を取り出すための「取り出し工法・装置開発」。
 今の技術ではどうにもならない、ということだ。
 国内の原発用ロボットは、災害現場の苛酷な状況に対応できる機能を持たないか、開発されたものの維持・運用の費用が出ずに廃棄されてしまった。「安全神話」のせいで、不要とされたからだ。この結果、福島第一原発事故が起きた時、即戦力となるロボットは国内に一つもなかった。現場に最初に投入されたのは、米国のバックボットなど軍事用に開発されたロボットだった。
 遅れて、日本の新型ロボット「クインス」が投入された。ある程度の高い放射線量下でも写せるカメラや汚染水の採取装置を加え、ガレキを乗り越える能力は世界最高・・・・という触れ込みだった。たしかに、一時、建屋内の動画撮影やガンマ線測定に活躍したが、昨年10月下旬、2号機の建屋内で通信が途絶えた。狭い場所で何かに引っかかり、もがくうちにケーブルが切れたらしい。
 「クインス」は、今も2号機のどこかに置き去りにされたままだ。
 今年に入って、改良型の「クインス2」と「クインス3」が投入された。トラブルがあっても、互いの連携プレーで無事帰還できる計画だ。
 ところが、実はロボットのCPUは、人間と同じくらいの放射線量にしか耐えられない、と考えられている。
 今年1月、東電が福島第一原発2号機の格納容器内に内視鏡に似たカメラを入れて調べた(映像は公開された)。映像は、放射線の影響でノイズが強く、中の様子をはっきりとは確認できなかった。核燃料取り出しには格納容器のさらに内側にある原子炉の中を調べなくてはならないが、そこはさらに放射線量が高く、ひどく汚染された世界だ。ノイズを小さくするカメラが開発できなければ、様子を確かめることはできない。そのための機器開発は、これからだ。
 ロボットによる調査の先に、本格的な廃炉作業が控えている。どれだけの壁が待ち受けているか、予想だにできない。

(5)ロードマップの実施体制
 (1)を達成するため、政府は経済産業省大臣政務官をトップに研究開発本部を設置した。事務局は資源エネルギー庁だ。使用済み核燃料プールや原子炉にある核燃料取り出しなど、課題に応じた作業チームが作られた。民間からも参画し、当面は世界に視野を広げて、今ある技術を集めて「カタログ化」することを目指す。

(6)課題
 (a)最大のヤマ場は、格納容器下部の補修・水張り(2016年度~)、そして抜け落ちた核燃料の取り出しだ(2021年度~)。それまでに技術開発が間に合うか。
 (b)もう一つ、巨額な費用をどう調達するか。スリーマイル島原発事故では、処理費用がこれまでに9億7,300万ドル(750億円)かかった。これに今後行われる解体費用が加わるから、実際の廃炉費用はさらに高くなる【注1】。
 廃炉は解体と放射性物質の処理が完成されて、初めて成し遂げられる。しかし、日本広しと言えども、どこの誰も核燃料取り出しの後については議論さえ行われていない。
 使用済み核燃料のように高レベルでなくても、原子炉など中レベルの放射性廃棄物さえ、持って行き場がない。
 日本で唯一、廃炉を成し遂げた日本原子力研究所(現・日本原子力開発機構)の動力試験炉(JPDR)にしても、解体した原子炉や制御棒などは、黒鉛を混ぜた鋳鉄製の遮蔽容器やドラム缶に詰め込んだまま専用の倉庫に眠っている。
 東京都市大(旧・武蔵野工大)の、1989年に停止して2004年から廃炉作業に入っている熱出力わずか100Wのミニ原子炉【注2】さえ、廃炉計画書には原子炉解体時期は「X年」とだけ記され、特定されていない。最終処理の見とおしがまったく立っていないからだ。

 【注1】「東京電力に関する経営・財務調査委員会」の試算(昨年10月まとめ)によれば、1兆1,510億円。上記のような困難を考慮すると、実際の費用はもっと高くなるのは確実だ。さらに、事故を起こさなかった5、6号機も廃炉にするならば、この額はさらに膨らむ。東京電力と原子力損害賠償支援機構は、2021年度までの分だけで総額1兆円かかる、という資金計画を策定している。
 【注2】福島第一原発1~4号機の熱出力の合計の85,000分の1だ。

 以上、東京新聞原発取材班「汚染廃棄物の捨て場がない 「原発廃炉」40年後に待つ“地獄絵図”」(「週刊文春」2012年3月15日号)に拠る。
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