(1)震災ガレキ処理広域化
86%の自治体が受け入れ困難を表明している【注1】。汚染ガレキの安全な処理に責任を持てないからだ。
復興のためにはガレキの処理は不可欠だ。しかし、被災地3県のガレキのうち全国での広域処理化の対象になっているのは、岩手県で1割強、宮城県で2割強にすぎない。大部分は地元で処理される(方針)。
ところが、1年経ても全体でまだ7%しか進んでいない。ガレキ処理が遅れている本当の原因は、環境省や県による計画の遅れにある。
(2)問題1 ~汚染されているガレキ~
ガレキはどれだけ汚染されているか。
処理区分によって、安全が確保されるか。
これを、広域化処理に当たってまず究明しなければならない。
環境省はしかし、昨年6月、根拠もなく(a)汚染は福島県内にとどまる、(b)岩手県・宮城県は広域化する、と決めた。
ところが、①両県も放射能に汚染されていることが判明した。昨年7月、暫定規制値を超えた牛肉が見つかったのだ【注2】。露天に置かれていた数万Bq/kgにも上る稲わらを食べさせたことが原因だった。②各地の放射線空間線量に基づいて作られた放射線地図でも、両県の高濃度汚染が確認できる。さらに、③放射性物質が付着した草木ゴミの焼却によって、両県の市町村の焼却炉の焼却灰も高濃度汚染された。
岩手県・宮城県の露天に長く置かれていたガレキは、間違いなく汚染されている。
(3)問題2 ~「広域」利権~
広域処理は、経済性を無視している。
(a)阪神・淡路大震災や中越地震によるガレキ処理コストは、1トン当たり2万円だった。ところが、広域化して東京都へ持ってきた処理費は3倍の6万円だ。
(b)国は3県のガレキ処理に9,900億円の巨額予算を組んだ。しかし、ガレキ総量は2,400万トンでしかなく、従来ならば5,000億円前後の予算で済む。
(c)広域で処理されるガレキは2県の2割くらいでしかない。その分の増額分を400万トン×4万円と見積もっても7,000億円くらいにしかならない。広域ガレキ処理は、全国にカネをばらまく政策だ。
(d)被災地はガレキ処理に取り組んでいる。①岩手県陸前高田市は地元でガレキ処理プラントを造ろうとした。②宮城県仙台市は地元で自腹のガレキ処理に取りかかる目処をつけた。ところが、国は、①、②に待ったをかけ、これらの取り組みを被災地全体に普及していない。
(3)問題3 ~廃棄物施設で処理できない放射性物質~
通常のゴミ焼却施設や埋め立て処分場である廃棄物処理施設は、放射性物質の処理を想定して造られていない。
(a)焼却施設のバグフィルターは、煤塵除去のため設置されたものだ。
(b)埋め立て処分場にある雨天時の浸出水の処理設備も放射性物質の除去処理はできない。
このままガレキの全国化・広域処理が進めば、日本列島を放射能汚染列島にすることになる。
環境省は、ゴミ焼却炉で焼却した時、放射性物質はバグフィルターなどで99.9%除去できる、という。が、環境省の有識者会議で、酒井伸一・九斗大学教授は「机上の仮定の数字が多い」と批判した。ちなみに、環境省の担当者は、放射性物質に係る実験データがないまま99.9%除去できると言っていたことを認めた(1月21日付け「東京新聞」)【注3】。
(4)問題4 ~島田市の「試験焼却」の虚実~
最近、競争入札妨害で敗訴した静岡県島田市長は、震災ガレキ受け入れを宣言し、「試験焼却」した。
(a)煙突からの煙は「ND(不検出)」だった、と報告されている。しかし、これは「0(ゼロ)」であることを意味しない。測定器が計測できる値以下だった、ということにすぎない。
(b)焼却炉の排ガス流量は膨大な値だ。島田市の場合、2万立米/時。排ガス流量からすれば、40万Bq/日のセシウムが環境中に放出される。
(c)試験焼却データからは、バグフィルターの捕捉率は60~80%という報告もある。
(d)最終処分場の浸出水を処理した後の放流水を受ける土壌から、300Bq/kgのセシウムが検出された。大井川を汚染し、河川敷伝いにつながっている地元の上水道取水口に影響を与える可能性がある。
(e)通常「試験」には合否の基準がある。しかるに、「試験焼却」には合否の基準がない。「試験焼却」は、ガレキ受け入れの単なるデモンストレーションでしかない。
(5)結論
ガレキの処理のため、安全基準を早急に設けること。
危険物は、処理せずに原子力施設周辺に保管すること。
危険でないものは、地元の雇用対策を兼ねて地元処理を行うこと。
広域化は、被災地の不幸をそのままにし、汚染を全国に広める亡国の政策だ。
【注1】共同通信の全国自治体調査によれば、回答した市区町村の33%が「現時点では困難」、53%が「まったく考えていない」とし、全体の86%が難色を示していることが4日分かった。【記事「【河北新報】全国自治体調査 がれき受け入れ86%難色 放射性物質懸念 3月5日」(岩手発・被災地支援情報サイト )】
【注2】「【震災】原発>食品>農林水産省、その無能の証明~牛肉とコメ~」
【注3】「見切り発車の災害がれきー焼却ありき、密室で決定」(ブログ「繋がろう広島」)、「「見切り発車」の災害がれき処理(東京新聞・こちら特報部 1月21日)」(ブログ「にしでんじがたのブログ」)
以上、青木泰(環境ジャーナリスト)「亡国の日本列島放射能汚染 ~震災がれき広域処理~」(「週刊金曜日」2012年3月30日号)に拠る。
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86%の自治体が受け入れ困難を表明している【注1】。汚染ガレキの安全な処理に責任を持てないからだ。
復興のためにはガレキの処理は不可欠だ。しかし、被災地3県のガレキのうち全国での広域処理化の対象になっているのは、岩手県で1割強、宮城県で2割強にすぎない。大部分は地元で処理される(方針)。
ところが、1年経ても全体でまだ7%しか進んでいない。ガレキ処理が遅れている本当の原因は、環境省や県による計画の遅れにある。
(2)問題1 ~汚染されているガレキ~
ガレキはどれだけ汚染されているか。
処理区分によって、安全が確保されるか。
これを、広域化処理に当たってまず究明しなければならない。
環境省はしかし、昨年6月、根拠もなく(a)汚染は福島県内にとどまる、(b)岩手県・宮城県は広域化する、と決めた。
ところが、①両県も放射能に汚染されていることが判明した。昨年7月、暫定規制値を超えた牛肉が見つかったのだ【注2】。露天に置かれていた数万Bq/kgにも上る稲わらを食べさせたことが原因だった。②各地の放射線空間線量に基づいて作られた放射線地図でも、両県の高濃度汚染が確認できる。さらに、③放射性物質が付着した草木ゴミの焼却によって、両県の市町村の焼却炉の焼却灰も高濃度汚染された。
岩手県・宮城県の露天に長く置かれていたガレキは、間違いなく汚染されている。
(3)問題2 ~「広域」利権~
広域処理は、経済性を無視している。
(a)阪神・淡路大震災や中越地震によるガレキ処理コストは、1トン当たり2万円だった。ところが、広域化して東京都へ持ってきた処理費は3倍の6万円だ。
(b)国は3県のガレキ処理に9,900億円の巨額予算を組んだ。しかし、ガレキ総量は2,400万トンでしかなく、従来ならば5,000億円前後の予算で済む。
(c)広域で処理されるガレキは2県の2割くらいでしかない。その分の増額分を400万トン×4万円と見積もっても7,000億円くらいにしかならない。広域ガレキ処理は、全国にカネをばらまく政策だ。
(d)被災地はガレキ処理に取り組んでいる。①岩手県陸前高田市は地元でガレキ処理プラントを造ろうとした。②宮城県仙台市は地元で自腹のガレキ処理に取りかかる目処をつけた。ところが、国は、①、②に待ったをかけ、これらの取り組みを被災地全体に普及していない。
(3)問題3 ~廃棄物施設で処理できない放射性物質~
通常のゴミ焼却施設や埋め立て処分場である廃棄物処理施設は、放射性物質の処理を想定して造られていない。
(a)焼却施設のバグフィルターは、煤塵除去のため設置されたものだ。
(b)埋め立て処分場にある雨天時の浸出水の処理設備も放射性物質の除去処理はできない。
このままガレキの全国化・広域処理が進めば、日本列島を放射能汚染列島にすることになる。
環境省は、ゴミ焼却炉で焼却した時、放射性物質はバグフィルターなどで99.9%除去できる、という。が、環境省の有識者会議で、酒井伸一・九斗大学教授は「机上の仮定の数字が多い」と批判した。ちなみに、環境省の担当者は、放射性物質に係る実験データがないまま99.9%除去できると言っていたことを認めた(1月21日付け「東京新聞」)【注3】。
(4)問題4 ~島田市の「試験焼却」の虚実~
最近、競争入札妨害で敗訴した静岡県島田市長は、震災ガレキ受け入れを宣言し、「試験焼却」した。
(a)煙突からの煙は「ND(不検出)」だった、と報告されている。しかし、これは「0(ゼロ)」であることを意味しない。測定器が計測できる値以下だった、ということにすぎない。
(b)焼却炉の排ガス流量は膨大な値だ。島田市の場合、2万立米/時。排ガス流量からすれば、40万Bq/日のセシウムが環境中に放出される。
(c)試験焼却データからは、バグフィルターの捕捉率は60~80%という報告もある。
(d)最終処分場の浸出水を処理した後の放流水を受ける土壌から、300Bq/kgのセシウムが検出された。大井川を汚染し、河川敷伝いにつながっている地元の上水道取水口に影響を与える可能性がある。
(e)通常「試験」には合否の基準がある。しかるに、「試験焼却」には合否の基準がない。「試験焼却」は、ガレキ受け入れの単なるデモンストレーションでしかない。
(5)結論
ガレキの処理のため、安全基準を早急に設けること。
危険物は、処理せずに原子力施設周辺に保管すること。
危険でないものは、地元の雇用対策を兼ねて地元処理を行うこと。
広域化は、被災地の不幸をそのままにし、汚染を全国に広める亡国の政策だ。
【注1】共同通信の全国自治体調査によれば、回答した市区町村の33%が「現時点では困難」、53%が「まったく考えていない」とし、全体の86%が難色を示していることが4日分かった。【記事「【河北新報】全国自治体調査 がれき受け入れ86%難色 放射性物質懸念 3月5日」(岩手発・被災地支援情報サイト )】
【注2】「【震災】原発>食品>農林水産省、その無能の証明~牛肉とコメ~」
【注3】「見切り発車の災害がれきー焼却ありき、密室で決定」(ブログ「繋がろう広島」)、「「見切り発車」の災害がれき処理(東京新聞・こちら特報部 1月21日)」(ブログ「にしでんじがたのブログ」)
以上、青木泰(環境ジャーナリスト)「亡国の日本列島放射能汚染 ~震災がれき広域処理~」(「週刊金曜日」2012年3月30日号)に拠る。
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