語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【労働】官製ワーキングプアin大阪市 ~非正規公務員~

2012年04月16日 | 社会
 大阪市職員は、(1)正規職員33,927人、(2)非正規職員3,350人。このほか、(3)委託先職員も公共サービスを担う。
 (2)は、任用の根拠法や雇用期間などにより、(a)任期付職員338人、(b)非常勤嘱託2,816人、(c)臨時的任用職員196人に分かたれる。
 (a)は、原則、フルタイムで、主にケースワーカー(CW)や保育士として配属される。(b)、(c)の勤務時間はまちまちで、配属先も区役所窓口、年金事務、各種相談業務など多岐にわたる。
 この5年間で(1)は4,565人減り、(2)は415人増えた。

 地方公務員法などの法令によれば、非正規職員に委ねるのは一時的、補助的な仕事に限る、とされる。CWや保育士の仕事は、はたして一時的業務といえるか。
 市人事課いわく、「CWの業務はリーマン・ショック後、急増しましたが、現在、市は国に制度の見なおしを求めており、将来的には縮小されるとみています。保育園も民営化する方針ですから、一時的に任期付や非常勤でまかなっています」。
 市人事課の思惑どおりに仕事がヘルかどうかはさて措き、財政難に苦しむ自治体では、今後も「安価」で「雇用調整」のきく非正規職員は増えこそはすれ、減る気遣いはない。

<例:任期付職員>
 生活保護受給率は全国平均1.6%だが、大阪市は5.7%、全国の政令指定都市中トップだ(2011年12月現在)。わけても西成区は23.5%、隣接する浪速区は10.4%で、保護費にかかる予算は市負担分だけで718億円にのぼる。
 大阪市保護課によれば、市のCW約980人のうち約210人は3年契約の(a)だ。フルタイムで、仕事内容は(1)とまったく同じだが、手取りは月額13万円ほど。
 いや、任期付職員のエミ(仮名、42歳)によれば、(1)の担当は70~80ケースだが、自分は100ケース近く受けもつ、という。上司に男性職員の同行を求めたことがあるが、「なんかあったら逃げ」と言われただけだった。以前調査会社で働いていたエミは、不正受給を見破るノウハウを心得ていて、土地や会社の登記などを取り寄せ、不動産取引で得た資産を隠していた受給者を見つけたこともある。が、彼女がいくら実績を上げても、昇給や昇進はない。待遇と仕事のハードさが見合っていない、という。
 給与明細を見て雇用保険に加入していないことが分かり、市の担当者に訊いた。堂々巡りの屁理屈が返ってくるばかりで、「ほんまに使い捨てです」と憤る。
 担当者「公務員は退職まで勤めることが前提なので雇用保険はない」
 エミ「じゃあ、私らも定年まで働けるのですか」
 担当者「任期付きなので無理」 

<例:委託先職員>
 受託業者の社員が市職員に代わって公務を担う現場は、直接雇用された非正規職員を上回る差別の温床となっている。
 大阪市のある水道局営業所。フロアの4分の1のスペースで、灰色の制服を着た100人近くの職員が、ぎゅうぎゅう詰め状態でパソコンや書類に向き合う。隣同士、肘が触れ合い、歩くときは横歩きしなければならない。
 残る4分の3では、広々としたデスクにスーツ姿の職員が陣取る。制服組とスーツ組の人員比率は2対1。
 制服組は、検針やデータ入力を請け負う委託業者の職員。スーツ組は、使用許可業務などを担う正規職員だ。
 委託先職員(人員の3分の2)が4分の1の片隅に押し込まれ、正規職員(人員の3分の1)が4分の3のスペースを占める。人口密度のギャップは異様に映る。
 委託先職員のケンジ(42歳、仮名)は「士農工商の身分差別のようなもの」と諦めたようにいう。差別は職場の広さだけではない。彼の基本給は、数年前、大阪市が入札でより委託費の安い業者を選んだため、およそ11万円に半減した。こうした場合、多くの労働者は失業を避けて減収覚悟で新規業者に移籍する。彼は、1年ごとに更新する契約社員だ。
 人件費削減を焦る自治体がひたすら廉価な業者に流れ、その足下で低所得者が生産される典型的なパターンだ。
 「正規職員は僕らに仕事を丸投げするくせに、トラブルの責任をとらない」
 市による課金方法の変更、停栓や使用開始にに伴う調査業務で仕事が増えたため早出して片づけようとしても、定時出勤する正規職員から、営業所の鍵は委託先には預けられない、と言われた。残業はままならず、仕事はきつくなるばかり。
 冬期、1日1涸支給される携帯用懐炉の保管場所には、「1戸以上取ったら支給停止する」と威嚇するような張り紙がある。休憩室兼更衣室には監視カメラが設置されている。正規職員の職場で同じことが起きれば、大騒ぎになるだろう。委託先の現場ばかりがぽっかり見捨てられている。

 以上、藤田和恵「ルポ 非正規公務員(上) ~消えた笑顔、埋められない溝~」(「世界」2012年5月号)に拠る。

 【参考】「【社会】異常な日本の賃金減少 ~公共サービスの雇用の非正規化~
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