語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】放射能に悩む人への支援の仕方 ~「4つの原則」~

2012年04月30日 | 震災・原発事故
(1)医療の世界
 医療界は、この10年ぐらいの間に劇的に変わった。以前は主治医が治療方針を決めた。パターナリズム/父権主義/家父長主義だった。
 それが、いろんな意見を大事にするセカンドオピニオンの仕組みができあがってきた。患者団体が言い出し、医療機関がやむなくやり始めた。非専門家の意見が、本当に世の中を良くしていくときにとても大事だ。

 セカンドオピニオンの「4つの原則」がある。癌治療では、治療を受ける側が治療を決めるのだ(当事者主権)。
 <例>外科医が説得したのに、患者が「外科手術は嫌だ」と結論した場合、その外科医が「もう俺はあなたを診ないから、この病院から出て行け」と患者の不利益に結び付けてしまうことがよくあった。それは、今はやらない。

 (a)専門家は、どんなに辛いことであってもきちんと正しく伝える。
 (b)相手に分かるように伝える。
 (c)強制しないこと((2)だけだと言いくるめるような強制になる場合もある)。
 (d)当事者が専門家と違う決定をした場合であっても、専門家は当事者の応援をする。

(2)原発事故被災地
 「4つの原則」は、今回の福島第一原発事故にも当てはめることができる。
 (1)-(a)は、今回の事故でまったく足りなかった。当初、情報がちゃんと出なかったことが、その後の議論を難しくしている。今後は、政府や専門家は情報を隠さずに丁寧に出していかねばならない。一般市民の疑問に一つ一つ答えていかねばならない。
 (1)-(b)を行った上で、それぞれの判断を待つ。判断にはいろいろな要素が絡み合う。当事者の中での話し合いをじっと見守って、寄り添っていくみたいな支援が必要だ。当事者に寄り添っていくには、仕組みをいろいろ作らねばならない。
 <例>よい外科医の方が外科手術に慎重だ。「どんどんやれ」ではなくて、「どういう処置が適切か」に対して慎重だ。避難と除染は、個別問題に入らない限り言わないことを徹底している。「避難か除染か」の二項対立は稚拙な発想だ。外科手術にするか放射線治療にするかに悩んでいる患者に、その人の病状を何も知らないよその人が「これにせよ」と言う無責任と同じだ。

 避難して別の場所で生活するか、ここに残って生活するかは、支援者の意見を聞きつつ、当事者が決めることだ。当事者の決定には、すごく複雑な要素が絡み合う。1つの家族の中にもいろんな意見がある。外から「ああしろ、こうしろ」というのは、現実に合わない場合がある。
 除染は政府がやる、と政府は急に言い出したが、技術もノウハウも予算もない除染活動が信用できるか。
 ①福島県の除染の公的支援は、戸建住宅だと70万円だ。しかし、ハウスメーカーの一番交換しやすい屋根でも200万円かかる。瓦屋根の昔風の家だと、放射性物質が染みこんでしまったら、建材を換えるしかない。500~600万円かかる。
 ②8月から除染活動を始めたのは原子力開発機構だが、この機構は大本が昔の動燃だ。動燃の人が「除染する」と言っても、政策以前の信用の問題に戻ってしまう。
 ・・・・仕組みを変えるしかない。1軒あたり500万円を政府が負担すると仮定して、その500万円は除染に充てるのか避難に使うのかは、それぞれ住民に考えてもらう。そういう仕組みにするしかない。
 食品の全袋検査も、それしか手がないのだが、政府はなかなか動かなかった。流れ作業で検査できる機械が開発され、ようやく社会的なものとして動き出した。

 以上、大友良英/金子勝/児玉龍彦/坂本龍一『フクシマからはじめる日本の未来』(アスペクト、2012)のうち大友良英/児玉龍彦「失敗を認めた上で、新しい仕組み作りを」に拠る。
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