語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【消費税】「税制改正」のからくり ~族議員~

2012年04月08日 | 社会
(1)「税制改正」
 数多くの税法にさまざまな理屈をつけて、特定分野に減税や減税の措置を与えるのが租税特別措置法だ、
 数百ある各種税制項目のうち、毎年100近くが期限延長され、あるいは新設されて租税特別措置法に盛り込まれ、その一本の改正案として国会に提出される。
 <例>12年度の税制改正は今日的な「合理性」、政策手段としての「相当性」の観点から行われた、と説明される。
 <例>の議員用語をジャーナリスト用語に翻訳すると、<要は陳情合戦に勝った業界団体の夢が実現するのだ。族議員は票と献金と引き替えに業界の後押しをするが、陳情の勝敗を決めるのは財務省という役回りだ。税制改正をさじ加減して議員に恩を売るのが官僚の力の源泉である。>

(2)自民党政権時代
 免税や減税をめぐって「不透明な形で各種業界団体から陳情があって、その特定団体のための租税措置を決定することで権力を握る」と民主党は批判した。
 「不透明な陳情」の相手は、自民党税制調査会(党税調)だった。毎年8月から年末にかけて有識者からなる政府税制調査会(政府税調)が税制を議論し、政府に答申する。
 それが「租税特別措置法の一部改正案」に形作られる前に、党税調が非公開で事前審査した。
 国会における審議は、「与野党合わせて2時間ぐらい、2日間かけて、時期が迫っているからもう採決」といった通過儀礼に過ぎなかった。

(3)民主党政権時代
 政権交代後、民主党は、(a)野党時代から提出しては廃案になっていた「租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律」を成立させ、「党税調」を廃止した。また、(b)有識者だけで公正されていた政府税制調査会を政治家で構成し、有識者の委員会をつくって審議を公開した。
 ところが、10年度通常国会で、すでに税制改正プロセスの透明化に暗雲が立ちこめた。ガソリン税の暫定税率が小沢一郎・民主党幹事長(当時)の一言で、廃止から維持に変わったのだ【注1】。
 菅直人・財務大臣(当時)が「税調を一本化した中で、基本的な、まさに民主党が目指す日本の国の形をつくっていく」と豪語した1年半後に、党税調が復活した【注2】。菅政権における財務大臣の野田佳彦が昨年9月に首相に就くと、あっさり党税調を復活させたのだ。藤井裕久・衆議院議員/元大蔵官僚/元大蔵相を会長に、古本伸一郎・衆議院議員/トヨタ労組出身を事務局長に選んだ。
 今年2月8日に成立した11年度第4次補正歩産では、エコカー補助金に3,000億円の予算が付いた。「財務省は古本事務局長をこれで手なづけた」と関係者から目されている。
 12年度租税特別措置法には、エコカー減税の3年間延長が盛り込まれた【注3】。
 
(4)税制改正の流れ
 政権交代後の直後、2009年秋から、ウェブサイトを通じて毎年オープンに税制改正要望を募集している。届いた免税・減税の要望の数は、内閣府だけで134件もある。「要望は毎年同じところからくるので、件数は政権交代後も同じ」【内閣府大臣官房企画調整課】なのだ。
 この後、担当部局と調整し、内閣府全体の要望としてまとめる。さらに、国税は財務省、地方税は総務省と協議する。最終的には財務省に提案(9月末)してすり合わせる。すり合わせられないものは、政府税調で政治判断を仰ぐ(10月に各省ヒアリング、11月に調整)。そして、税制改正大綱が閣議決定される(12月)。・・・・野田政権では、これに党税調での議論が並行して加わり、租税特別措置法一部改正案として提出された(1月)。

(5)族議員の暗躍
 要望は個人でも団体でも出せるが、政府税調、各府省、党と、窓口が統一されていないため、全容は内閣府ではわからない。【内閣府大臣官房企画調整課】
 官僚と利害が一致する歳出分野での族議員の暗躍も止んでいない。
 八場ダムがらみでは、次の献金が行われた。
  ●小渕優子・衆議院議員・・・・その関係政治団体に受注業者から、873万円(06年から3年間)
  ●中曽根弘文・参議院議員・・・・604万円
  ●山本一太・参議院議員・・・・500万円
  ●尾身幸次・元参議院議員・・・・252万円
  ●上野公成・元参議院議員・・・・受注業者から、1,370万円
 また、計18億7,950万円をジョイント・ベンチャー受注した佐田建設は、佐田玄一郎・衆議院議員の親族会社だ。
 昨年、誰もが原発推進予算は縮小していく、と考えた時期に、被災者の感情を逆なですることも厭わず、原発を推進した族議員がいる。休眠していた「地下式原子力発電政策推進議員連盟」が、昨年5月と6月(予算要求の初動期)、立て続けに勉強会を開いた。羽田孜、森喜朗、安倍晋三、鳩山由起夫の歴代首相や平沼赳夫・元経産相、谷垣禎一、渡部恒三らベテラン議員を揃えて、山本拓・衆議院議員/福井県選出がその事務局を務めた。こうした政策グループの存在は、予算要求で利用しようと思えば利用できる、という原発ムラへのサインだ【注4】。
 議員センセイを動かすものは3つ。基本は票とカネ。政策や国民世論はダメかと言ったら、そうではない。情に訴えるのも力の一つだ。【ある業界ロビイスト】
 族議員と官僚は、票・カネ・情と、更にあうんの呼吸で結びつき、過去半世紀の日本を作りあげてきた。民主党はそれを打破するのか、旧政権の体制に逆戻りするのか。

 【注1】小泉進次郎・衆議院議員いわく、「税制調査会の会長も、小沢幹事長がお務めになった方がわかりやすいのではありませんか」。
 【注2】<民主党がマニフェストで示した「脱官僚」の決め手は、財務省から予算編成権を奪い、首相官邸直属に新設する国家戦略局に移すことにあった。それが崩れた瞬間を、内閣府政務官(国家戦略担当)だった津村啓介はよく覚えている。/政権交代直後の09年9月末、国家戦略相の菅直人はいらだっていた。マニフェストを実行するための財源確保にメドが立たず、予算の基本方針の作成が大幅に遅れそうだった。/そこへ、財務省主計局長の勝栄二郎が現れた。/菅が「いつまでに基本方針をまとめれば、年内に予算編成できるのか」と尋ねると、勝は「民主党にはマニフェストという立派なものがあります。これに沿って予算を作れ、という紙を一枚出していただければ、やりますよ」とささやいた。菅はほっとした表情を浮かべて、「だったら早いじゃないか」と応じた。/こうして民主党による初の予算編成の責任者は、国家戦略相の菅ではなく、財務相の藤井となった。>【村松真次「奪えなかった予算編成権〈民主党政権 失敗の本質 1〉」(2012年4月5日付け朝日新聞)】
 【注3】今年1月、古本議員は、全トヨタ労働組合連合会(組合員数32万人強)とトヨタ票で擁立された国・地方の議員らが合同で行った新年会で、「自動車税減税は政・労・使が一体となった取り組みが実を結びました」と挨拶した。同新年会では、同じくトヨタ労組出身の直嶋正行・参議院議員が「連合・経団連もご支援を賜り、自動車関係諸税の改革が進んだ」と述べた。
 【注4】「【震災】原発>『裸のフクシマ ~原発30km圏内で暮らす~』」および「【震災】原発>非常時冷却システムを撤去していた勝俣恒久・東京電力会長

 以上、まさの あつこ(ジャーナリスト)「族議員対官僚 予算委員会では話されない予算の話」(「週刊金曜日」2012年3月30日号)に拠る。

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