(1)企業年金の積立金不足
全578基金中、半数強の314基金で年間の給付額が賭け金を上回り、4割近い212基金は企業年金の積み立てがゼロだ(2011年3月期)。
特に問題は、「代行」という仕組みだ。厚生年金の一部を代行するもので、基金が独自の運用する。しかし、積立金不足で運用が困難になった。これを国に返上することはできるが、そのためには不足分を充填しなければならない。大企業は本社が負担したが、中小企業が組織する基金の場合、本社が負担する余裕がない。年金のために企業が倒産する事態さえ生じている。
過去における制度設計が甘すぎたからだ。保険料と給付の関係は、積立金が高い利回り(5.5%)で運用できることを前提として計算されていた。現在でも、502基金(全体の9割)の想定利回りは5.5%だ。かかる有利な条件下で計算すれば、一定の給付を得るための保険料率は低くて済む。ために十分な積立金が蓄積できなかったのだ。
結果的に見れば、現在の受給者は過去において十分な保険料を支払ってこなかったわけだ。だから、給付をカットするのが基本だ。しかし、加入者の3分の2以上の賛同がないとカットできない。このため、問題を解決できず、「一発逆転」を狙ってAIJのように高利回りを標榜する投資顧問に頼ったのだ。
(2)公的年金の積立金不足
1970年代ごろまでの計算では、平準保険料率は極めて低く計算されていた。<例>1960年の厚生年金の平準保険料率は5.5%(男子の場合)、実際の保険料率は3.5%。
ところが、現在の厚生年金保険料率は16.412%、2017年には18.3%に引き上げられる(決定済み)。当時の見通しがいかに楽観的だったか、よくわかる。
見込み違いが発生した原因は、人口高齢化が見通せなかったことではない。当時においても、将来高齢化が進展することはかなりの程度予測されていた。
誤りの原因は、企業年金の場合とまったく同じだ。経済成長率の見通しと運用利回りの見通しがちぐはぐだったからだ。1960年の見通しでは、運用利回りが5.5%とされていた一方、経済成長率はゼロと仮定されていた(低成長経済において高い運用利回りを仮定)。この誤りは、1980年10月の計算まで続く。利子率と経済成長率は密接に関連しているが、当時の厚生省にはそうした意識がなかったのだろう。
その後の年金制度改革は、この誤りを修正する過程だった。(a)保険料率引き上げ。(b)国庫負担率引き上げ。(c)支給開始年齢引き上げ。・・・・この結果、現時点では積立金が枯渇するような事態には陥っていない。しかし、将来の給付を賄い続けるにはまったく不十分だ。厚生年金の積立金は、2030年ごろには枯渇する。
(3)対策
公的年金も、現在の受給者は過去において現在受けている給付に見合うだけの十分な保険料を支払ってこなかった。だから、本来は給付をカットすべきだ。しかし、既裁定年金は財産化しているので、手をつけることはできない。
そこで、負担は先送りされる。給付削減にしても、現在の、ではなく、将来の給付が削減される。また、保険料が引き上げられる。これらの負担を負うのは、若い世代だ。
本来は、若い世代が現在の給付を切り下げるよう要求するべきなのだ。しかし、そうした政治運動は起きていない。起きているのは、国民年金の保険料を支払わない、という消極的な反抗だけだ。
年金カットには、支給開始年齢の引き上げが最も効果的だ。ただし、徐々に引き上げるのでは不十分だ(この場合、将来の年金受給者が負担を負う)。既裁定年金を含めて、今すぐ支給開始年齢を引き上げることが必要だ。
受給者の生活が成り立たなくなる、というなら、年金課税を強化すればよい。現在でも年金所得に課税はされているが、年金所得控除があるるため、他の控除と合わせると、年金だけが収入である場合、課税されない場合が多い。公的年金の保険料は拠出時に全額所得控除されているから、給付時に課税されないと、公平上問題だ。よって、年金所得控除は廃止されるべきだ。それによって増加する税収を年金特別会計に繰り入れれば、年金カットと実質的に同じことになる。
現在の年金カットは、在職老齢年金という形で行われている。働く人が年金をカットされるわけで、不公平だ。のみならず、労働意欲を阻害する不適切な方法だ。
以上、野口悠紀雄「企業年金・公的年金 必要なのは給付削減 ~「超」整理日記No.607~」(「週刊ダイヤモンド」2012年4月21日号)に拠る。
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全578基金中、半数強の314基金で年間の給付額が賭け金を上回り、4割近い212基金は企業年金の積み立てがゼロだ(2011年3月期)。
特に問題は、「代行」という仕組みだ。厚生年金の一部を代行するもので、基金が独自の運用する。しかし、積立金不足で運用が困難になった。これを国に返上することはできるが、そのためには不足分を充填しなければならない。大企業は本社が負担したが、中小企業が組織する基金の場合、本社が負担する余裕がない。年金のために企業が倒産する事態さえ生じている。
過去における制度設計が甘すぎたからだ。保険料と給付の関係は、積立金が高い利回り(5.5%)で運用できることを前提として計算されていた。現在でも、502基金(全体の9割)の想定利回りは5.5%だ。かかる有利な条件下で計算すれば、一定の給付を得るための保険料率は低くて済む。ために十分な積立金が蓄積できなかったのだ。
結果的に見れば、現在の受給者は過去において十分な保険料を支払ってこなかったわけだ。だから、給付をカットするのが基本だ。しかし、加入者の3分の2以上の賛同がないとカットできない。このため、問題を解決できず、「一発逆転」を狙ってAIJのように高利回りを標榜する投資顧問に頼ったのだ。
(2)公的年金の積立金不足
1970年代ごろまでの計算では、平準保険料率は極めて低く計算されていた。<例>1960年の厚生年金の平準保険料率は5.5%(男子の場合)、実際の保険料率は3.5%。
ところが、現在の厚生年金保険料率は16.412%、2017年には18.3%に引き上げられる(決定済み)。当時の見通しがいかに楽観的だったか、よくわかる。
見込み違いが発生した原因は、人口高齢化が見通せなかったことではない。当時においても、将来高齢化が進展することはかなりの程度予測されていた。
誤りの原因は、企業年金の場合とまったく同じだ。経済成長率の見通しと運用利回りの見通しがちぐはぐだったからだ。1960年の見通しでは、運用利回りが5.5%とされていた一方、経済成長率はゼロと仮定されていた(低成長経済において高い運用利回りを仮定)。この誤りは、1980年10月の計算まで続く。利子率と経済成長率は密接に関連しているが、当時の厚生省にはそうした意識がなかったのだろう。
その後の年金制度改革は、この誤りを修正する過程だった。(a)保険料率引き上げ。(b)国庫負担率引き上げ。(c)支給開始年齢引き上げ。・・・・この結果、現時点では積立金が枯渇するような事態には陥っていない。しかし、将来の給付を賄い続けるにはまったく不十分だ。厚生年金の積立金は、2030年ごろには枯渇する。
(3)対策
公的年金も、現在の受給者は過去において現在受けている給付に見合うだけの十分な保険料を支払ってこなかった。だから、本来は給付をカットすべきだ。しかし、既裁定年金は財産化しているので、手をつけることはできない。
そこで、負担は先送りされる。給付削減にしても、現在の、ではなく、将来の給付が削減される。また、保険料が引き上げられる。これらの負担を負うのは、若い世代だ。
本来は、若い世代が現在の給付を切り下げるよう要求するべきなのだ。しかし、そうした政治運動は起きていない。起きているのは、国民年金の保険料を支払わない、という消極的な反抗だけだ。
年金カットには、支給開始年齢の引き上げが最も効果的だ。ただし、徐々に引き上げるのでは不十分だ(この場合、将来の年金受給者が負担を負う)。既裁定年金を含めて、今すぐ支給開始年齢を引き上げることが必要だ。
受給者の生活が成り立たなくなる、というなら、年金課税を強化すればよい。現在でも年金所得に課税はされているが、年金所得控除があるるため、他の控除と合わせると、年金だけが収入である場合、課税されない場合が多い。公的年金の保険料は拠出時に全額所得控除されているから、給付時に課税されないと、公平上問題だ。よって、年金所得控除は廃止されるべきだ。それによって増加する税収を年金特別会計に繰り入れれば、年金カットと実質的に同じことになる。
現在の年金カットは、在職老齢年金という形で行われている。働く人が年金をカットされるわけで、不公平だ。のみならず、労働意欲を阻害する不適切な方法だ。
以上、野口悠紀雄「企業年金・公的年金 必要なのは給付削減 ~「超」整理日記No.607~」(「週刊ダイヤモンド」2012年4月21日号)に拠る。
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