語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】世界経済混乱の元凶 ~新自由主義と構造改革~

2012年04月12日 | 社会
(1)新自由主義と構造改革
 日本の10年以上続くデフレ、米国の「オキュバイ・ウォールストリート」、欧州のユーロ崩壊、エジプト革命・・・・の原因はみな同じだ。すなわち、(a)新自由主義と(b)構造改革だ。
 両者に共通する思想は、市場原理主義、政府の介入を排した自由な経済活動への志向だ。

(2)新自由主義
 新自由主義の特徴とされる(a)「トリクルダウン理論」、(b)「グローバル化」が世界中に広まった結果、あちこちで歪みが生じた。
 (a)トリクルダウン理論
   「富者が儲かる→投資という形で貧困層にカネがしたたり落ちる→国民全体が潤う、貧富の格差がなくなる」。
   これはインチキ理論だ。格差はいっそう広がり、エジプト革命や「オキュバイ・ウォールストリート」が起きた。米国のCEOの報酬は従業員の300倍に達するが、彼らが従業員の300倍も生産性が高いはずはない。

 (b)グローバル化
   資本や労働力の国際的移動を自由にすることだ。これにより、労働コストの低い国に注目が集まり、そうした国への企業の海外移転、外国人労働者の輸入が起こった。典型例は中国。
   グローバル化の結果、政府は大企業の機嫌をとらねばならない状況に陥った。海外へ逃げられてしまうかもしれないしからだ。あるいは、国内の労働賃金が発展途上国や進行経済諸国の水準まで落ち込んでいく。「規制や国境をなくして自由な経済活動を可能にする」+「金持ちに富が集中する」=グローバル恐慌だ。
   経済がグローバル化し、中国やインドが対リュの低賃金労働者を供給するようになると、企業は海外の安い労働力を使うようになる。あるいは、国内で雇用する労働者の賃金を抑えようとする。国内需要が縮まるが、グローバル化した環境下で、企業はそれでも構わないと考えるようになった。なぜなら、人件費抑制によって競争力がつくからいい、というわけだ。製品は海外に輸出すればよい(外需をとる)、と考えるからだ。1990年代から日本で非正規雇用者が急増した理由は、グローバル化と無関係ではない。実際、非正規雇用を増やすような労働市場の構造改革を推進したのは、経団連など輸出産業のトップたちだ。
   経済のグローバル化によって、国民の利益と企業の利益はズレていくようになった。
   本来なら、企業は、技術開発、投資拡大、競争激化によって安くて新しい製品をつくるなかで成長していくべきだ。市場、内需側に企業の製品を選別し、競争力を高める厳しい目がなければならない。にも拘わらず、厳しい日本市場での成長ではなく、外需頼みの楽な道を選んでいる。
   その楽な道を選んで破綻したのが米ゼネラル・モーターズ(GM)だ。技術開発や投資ではなく、政治家に圧力を加え、社会制度システムを変更させることで経営不振をしのごうとした。
   GMだけでなく、米国の製造業は1980年代から、競争ではなく社会制度を自分たちの有利にする動きを始めた。その結果、1980年代末からの日米構造会議、1990年代の日米包括経済協議、年次改革要望書、自動車摩擦という形となった。現在のTPPもその流れの一環として出てきた話だ。米国の製品が売れないのは日本市場が閉鎖的、日本の商慣習がおかしいからだ、という「非関税障壁」が問題とされ、さまざまな要求が突きつけられた。郵政民有化もその一つだ。
   日本の企業は米国のやり方に学んで、政府に対して影響力を行使することを考えた。1990年代以降、行政改革、政治改革、道州制といった米国をモデルにした制度改革論議の流れと重なる。日本のアメリカ化だ。
   2001年に設立された経済在師諮問会議は、民主的な手続きを飛ばして飛ばして、直接財界の意向を政府に伝えて制度をいじくるトランスミッションベルトだ。この会議の目的は財界の思惑とピッタリ一致している。「大企業からのロビイングで動く政治家」を作るところまでアメリカ化してしまった。

(2)構造改革
 構造改革は、各産業分野の構造を見直し、非効率性を改める。つまり、より自由な経済活動を実現(主に規制緩和などをして業界への参入障壁を下げる)ことで、生産性を高めようとするものだ。「小さな政府」「公共投資の削減」「民営化」によって、公的部門を効率化し、公的需要を減らそうとする。
   サッチャー政権、レーガン政権が掲げた。当時の英米は、需要に追いつく供給がないので、物価が上昇した(悪性インフレ)。そこで、供給力を強化すべく、市場の自由化を進めて競争力を促進し、非効率部門を淘汰して生産性を上げようとした。
 つまり、構造改革とは、デフレを引き起こしてインフレを退治する手法だ。
 その結果、部一句では、貧富の差の拡大、金融市場の不安定化、金融部門の肥大化、製造業の衰退が起こった。

 以上、中野剛志/三橋貴明『いま日本に迫る危機の正体 売国奴に告ぐ!』(徳間書店、2012)の「第1章 「改革」の名で日本を滅亡に導く人たち」に拠る。
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