語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>SPEEDIは欠陥商品

2012年04月02日 | 震災・原発事故
 「SPEEDIが活用されていれば、住民の被曝はもっと防げたはずだ」
 こうした「SPEEDI神話」が、いつの間にか定着している。
 実はしかし、SPEEDIは「3・11」には使い物にならず、活用はむしろ逆に危険ですらあったのだ。

 SPEEDIは、113億円かけて、特殊法人日本原子力研究所(現・独立行政法人日本原子力開発機構)によって開発され、1986年から運用が始まった。そして、SPEEDIは、次のように原子力災害対策の要に位置づけられている。
 (a)中央防災会議による防災基本計画・・・・「SPEEDIネットワークシステム」の担当官庁を文科省と定める。
 (b)(a)を受けて定めた文科省の防災業務計画・・・・原発事故の通報を受けたら直ちにSPEEDIを平常時モードから緊急時モードに切り替えて放射能影響を予測し、結果を関係省庁へ伝達する、と定める。
 (c)原子力安全委員会の原子力防災に係る指針・・・・住民防護策の判断にはSPEEDIを使う、と明記する【注】。

 文科省は、「3・11」発生から2時間弱後、原子力安全技術センターに、SPEEDIを緊急時モードへ転換するよう指示していた。
 事故原発からの情報 → 独立行政法人原子力安全基盤機構の緊急時対策支援システム(ERSS)による解析 → SPEEDIでの処理・・・・が「想定」されていた。
 ところが、東電のいわゆる「想定外」の地震(津波)による電源喪失は、SPEEDIをも「想定外」の事態に追い込んだ。放射性物質放出の時期・量を把握しようとしても、事故原発が電源喪失で制御不能に陥ったため、前記の情報加工経路が機能しなくなったのだ。
 それでも、文科省-原子力安全技術センターは、仮定の放出量をSPEEDIに入力し、気象条件などと組み合わせる試算、図形化へ転じたが、これは避難策の参考にもできない。
 気象情報により、その時々の放射性物質の拡散方向はわかっても、放出の時期・量を予測できなければ、いつ、その時の風上に逃げればよいのか、わからない。
 そして関係者は、SPEEDIのもっと根本的な欠陥に気づいた。仮に情報経路が正常に働いて、事故原発からの放射性物質の放出状況がSPEEDIに入力されていたとしても、常に風向きは変わり、風上は一定しない。これでは逃げる方向が掴めない。事実、当時、福島県浜通りの風向きはくるくる変わった。
 あの時、SPEEDIは住民防護の参考にならなかった。放射性物質の放出量を1Bq/時という現実とは無関係の仮定の最小単位で計算せざるを得なかった。そもそも風向きは、1日の間に東西南北をぐるっと一周した。どの方向へ放射性物質が濃く出るのか、その積算数値がわからなかった。【荒竹宏之・福島県生活環境部長/県災害対策本部事務局次長、局長】
 汚染の薄い地域まで含まれていると非難されようとも、政府が一定の遠方まで同心円状に避難させたのは正しい選択だった。

 SPEEDIなんていうものが住民防護として使い物になると、関係者らは本当に思っていたのか。そんなものを行政の施策に組み込んだ旧・科学技術庁はお粗末至極。この手の技術は、実用性があるか否かが決め手だ。実用性がなければ、開発関係者のオモチャにすぎない。【菊池三郎・財団法人原子力研究バックエンド推進センター理事長】

 昨年3月15日ないし遅くとも16日未明、枝野幸男・内閣官房長官(当時)は、文科省から派遣された官僚に対し、SPEEDIをなぜ活用しないのか、と訊いた。文科官僚答えていわく、事故原発からの放射性物質が予測できないので使えない。
 枝野長官は、叱責した。「(環境を汚染した放射能のモニタリングによる)実測値からアバウトかもしれないが放出量を逆算できるんじゃないのか。何でやっていないのか。結果が出たら、発表しなさい」
 このやりとりの場には、原子力安全委員会の者が同席していた。その担当業務に入っていなかったが、原子力安全委員会が乗り出し、若干のモニタリング実測値から事故原発の放射性物質の放出量を逆推計した。それをもとに甲状腺被曝線量を試算し、図形化して発表した。

 【注】原子力安全委員会は、昨年11月、新指針案をまとめた。原発に問題が発生しそうな場合には、一定範囲の同心円避難を予防的に実施する。そのための避難区域を各原発周辺に設定しておく。この区域を超えた広域でも、実測値に即応して住民防護を即座にとれるようにし、SPEEDIは住民防護策から外す・・・・。
 チェルノブイリ原発事故を日本の原子力行政は素通りしてしまった。その日本で原子炉建屋、格納容器が損壊し、炉心が溶融し、計器も壊れ、原子炉の状態も分からなくなり、SPEEDIは使いようもなくなった。予測手法に頼って住民防護をする制度に無理があった。そもそもSPEEDIのような予測システムによって意思決定する国は、日本以外になかった。【都築秀明・原子力安全委員会管理環境課長/新指針作成担当】

 以上、長谷川煕(ライター)「SPEEDIは欠陥商品だった」(「AERA」2012年4月2日号)に拠る。
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