語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】プーチンが恐れる政敵の実像 ~ミハイル・ホドルコフスキー~

2014年01月10日 | ●佐藤優
 (1)プーチン・ロシア大統領は、12月20日、2003年から収監されていた一人の政敵を恩赦で釈放した。すなわち、ミハイル・ホドルコフスキー(50歳)、元寡占資本家(オリガルヒヤ)だ。
 ロシア憲法発効20周年を理由としているが、額面どおり受け止める者は誰もいない。ソチ・オリンピック(2014年2月)を念頭に置き、ロシアの人権状況が改善している、と欧米諸国に訴えるのがプーチンの意図だからだ。

 (2)ロシアでは、恩赦は通常、刑が確定し、本人が有罪を認めて反省していることを条件に行われる。
 しかし、ヤナーエフ・元ソ連副大統領(1991年8月のソ連共産党中央委員会守旧派によるクーデタで逮捕・拘束)、ルッコイ・元ロシア副大統領(1993年10月のモスクワ騒擾事件に連座)らは、判決が確定せず、有罪を認めていないにもかかわらず、エリツィン大統領によって恩赦を与えられた。ホドルコフスキーも、この類型だ。

 (3)ホドルコフスキーは、<自身の公式サイトに掲載した声明で「11月12日に大統領に対し、家族の状況を理由に恩赦を要請した。前向きな決定がされたことを喜んでいる。罪を認めるかどうかの問題には触れなかった」と説明した> 【注1】
 <一方、プーチン大統領のペスコフ報道官は20日夜、大統領が元社長から2通の書簡を受け取っていたと説明。いずれも元社長の自筆で1通は恩赦の要請、もう1通は長文の私的な内容だったという。報道官は「恩赦を申し出たこと自体、元社長が罪を認めたことになる」との考えを重ねて強調。恩赦に条件はなく、元社長はいつでもロシアに帰国できるとしている> 【注2】
 「恩赦申請自体を罪を認めた証拠とみなす」というプーチン側が示す解釈は、いかにも玉虫色だ。

 (4)寡占資本家時代のホドルコフスキーは、他の寡占資本家と異なり、服装は地味(ジーパンもはく)、押し出しも強くなかった。他人の意見によく耳を傾けた。文学、歴史、数学基礎論など、多方面の話題をもつ一級の知識人だ。
 彼は同時に、コムソモール(共産青年同盟)幹部だったから、政治的にはエリツィン、プーチンを支持しながら、共産党の政治家との人間関係を大切にし、資金を提供してきた。

 (5)プーチンは大統領就任(2000年5月)以降、政界から寡占資本家の影響を排除しようとした。
 プーチンに圧力をかけられた寡占資本家は、帰順するか亡命して抵抗するかを選択せざるをえなかった。しかし、ホドルコフスキーは国内にとどまって抵抗した。共産党系の友人への援助をやめなかった。
 レーニンいわく、「監獄は革命家の学校」だ。ロシア人は、投獄されても筋を曲げない政治犯を尊敬する。

 (6)ホドルコフスキーには、知力、胆力がそなわっている。
 彼の刑期は2014年8月に満了する。彼が娑婆に出て政治活動をするとプーチンの求心力が落ちる。よって、当局が余罪を摘発し、再収監する危険性さえあった。
 だから、ホドルコフスキーはとりあえずドイツに脱出することにした。様子を見た上で、今後の身の振り方を決めるだろう。

  【注1】記事「恩赦のプーチン氏政敵、独に到着 罪状認否の言及なし」(朝日デジタル 2013年12月21日20時01分)
 【注2】前掲記事。

□佐藤優「プーチンが恐れている政敵の素顔 ~佐藤勝の人間観察 第52回~」(「週刊現代」2014年1月18日号)
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