語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【堤未果】アベノミクスと米国経済の危うい共通点

2014年01月31日 | 社会
 (1)2013年12月28日、米国政府は、130万人分の長期失業手当を打ち切った。理由・・・・経済が回復し始めたがゆえに。
 今後さらに、リーマンショック以来延長を繰り返してきた緊急援助予算は打ち切られる見通しだ。
 2014年末までに、500万人の長期失業者が手当を失う。この流れに、国民の間から強い批判の声があがっている。

 (2)経済が回復しているという政府発表は事実ではない。米国の実体経済は、不安定雇用と高い失業率が続けていることを示している。
  (a)かつてないほどのスピードで「テント村」が拡大している。住宅ローンや家賃が払えなくなって、家を失い、テント暮らしをする人々の数は、リーマンショック以降、減るどころか増えているのだ。彼らの集まる「テント村」は、いまや米国全州に存在し、急速にその規模を拡大させている。
  (b)いま、国民の50人に1人が無収入だ。しかるに、緊急援助予算の削減は失業手当の受給者数を減らすので、統計上の失業者人口と失業率はますます減る。手当を失えば家賃も払えなくなる。住所不定になる。就職活動が困難になる。ここうして職探しをあきらめる失業者の数は、政府データに反映されない。
  (c)米国政府はさらに、いま4,700万人が受給し、新規申請者が2万人/日のペースで増えているフードスタンプ(食糧援助プログラム)を2013年11月以降、50億ドル(5,000億円)削減。今後さらに減額していく方向で審議中だ。
  (d)就職しない若者の増加も深刻な問題だ。
 いま、米国内で未就学にして未就労の若者の数は600万人超。この年齢層の失業率は、16.3%と米国全体の2倍に近い。
  (e)消費が冷え込んでいるため、小売業はクリスマス商戦で売れ残った大量の在庫を抱える。
  (f)家を買う米国人が激減したことから、住宅ローン会社は数千人規模のリストラを実施した。

 (6)(2)のような実体経済と反比例して、報道は明るい。住宅市場は回復、株価は上昇、失業率は下がり傾向、米国経済は回復に向かっている、というニュースを繰り返す。
 だが、かかる政府発表に、国民の多数は眉にツバをつけている。
 国民の7割は、景気は回復していないと考える。【CNNの世論調査】
 いまの株価高騰は、2008年のブッシュ政権以来続いている不良債権買取政策(TARF)や量的緩和など、政府が大量に投入する資金が市場に流れて株価や債券を押し上げているだけだ。住宅価格が上昇しているとしても、11月の販売件数は年初以来最低になるなど、3ヶ月連続で減少中。しかも、購入者の大半は海外投資家だ。【アレックス・ジョイ・弁護士、ロサンジェルス在住】

 (7)一部の人にとっては、米国経済の回復は紛れもない事実だろう。一部の人とは、株価の恩恵を受ける投資家、何があっても税金で救済される銀行、従業員を低賃金労働者に置き換えて利益を増大させる企業群、大統領選(2012年)で30億ドル以上の広告費を得た商業マスコミ・・・・のことだ。
 だが、大多数の人にとっては、無関係だ。大多数の人とは、労働者、失業者、中小企業、学資ローンを抱えて大学を卒業したものの職が見つからない若者、急増するフードスタンプ受給者・・・・のことだ。

 (8)米国政府は、消費を伸ばし、税収を上げるための雇用政策を打ち出す代わりに、フードスタンプを減額した。
 国土安全保障省は、フードスタンプ削減への抗議デモを受け、各地にある社会保障関係政府機関や国税庁の警備を強化した。
 薄氷の上にある米国の現状は、アベノミクス下の日本の現状と重なる。

□堤未果「実体と乖離する景気回復 アベノミクスとアメリカ経済の危うい共通点 ~ジャーナリストの目第192回~」(「週刊現代」2014年2月8日号)
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