語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【古賀茂明】森元首相の二枚舌 ~オリンピックの政治的利用~

2014年01月30日 | 社会
 (1)森喜朗・元首相は、1月18日のテレビで、小泉純一郎・細川護煕の両元首相コンビが主張する「原発即時ゼロ」について批判した。
 「五輪のためにはもっと電力が必要だ。今から(原発)ゼロなら五輪を返上しかなくなる。世界に迷惑をかける」
 森は、東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会会長への就任が決まっている。大会組織委員会会長が、原発を動かさない限り五輪は開催できない、と言ったのだ。この発言は、日本だけでなく世界にとっても大きな問題になりかねない。

 (2)大げさに言っているのではない。
 もし、仮に「原発が動かなければオリンピックが開催できない」というのが本当で、かつ、それをIOCの委員たちが知っていたのであれば、2020年オリンピックの開催地を東京に選んでいただろうか。
 自民党政権は、原発を動かさなければ日本の経済は立ちゆかない、と常々言っていた。本当にそうであるなら、日本政府はIOC]に対してどのように説明していたのか。電力が足りない、とか、日本経済は立ちゆかない、とか説明していたのだろうか。
 その答えは、東京2020年オリンピック・パラリンピック招致委員会が、2013年1月7日、IOC本部(ローザンヌ)へ提出した立候補ファイル(14項目)の中にある。250ページを超える豪華なカラー刷りのファイルは、ネットでも閲覧可能だ。全部で60MG超の重たい資料だ。相当のカネを使ったことが一目でわかる。
 問題の箇所は、そのファイルの「08 競技および会場」の項で、121ページ以降に「既存の電力供給能力」に掲載されている。いわく、「原発なしでも2020年の電力需要に『余裕で』対応できる」。

 (3)(2)は、日本政府=自民党政権に対する深刻な不信を惹起する。次の(a)であろうと(b)であろうと、どちらの場合も日本政府が嘘つきであることに変わりない。
  (a)もし、仮に政府が原発なしでは電力供給や日本経済に不安があると信じていたならば、日本政府=自民党政権はIOCに対して大嘘をついていたことになる。汚染水は「アンダーコントロール」と言った安倍総理の大嘘と並んで、嘘で固められたオリンピック誘致だったことになる。
  (b)かたや、もし、仮に、IOCに本当のことを言ったのであれば、今度は日本政府=自民党政権が日本国民を欺いていたことになる。

 (4)森はなぜ、こんな初歩的ミスを犯したのか。
  (a)(2)のファイルを読んだことがなかった。
  (b)読もうとしたが、漢字が読めなかった。
  (c)読んだつもりだが、理解できていなかった。
  (c)読んだが、忘れてしまった。

 (5)本当は、もっと深刻な問題がある。この発言の目的が、東京都知事選の立候補者である細川・元総理とその支持者である小泉・元総理を批判することが明らかだからだ。現に、マスコミはそう伝えた。
 だとすると、日本政府=自民党政権はオリンピックを政治目的に利用していることになる。明白な五輪憲章違反だ。
 こんな森・元総理を、大会組織委員会会長に就けるという。
 もっとまともな人選があるはずだ。

□古賀茂明「森元首相の「お馬鹿発言」 ~官々愕々第95回~」(「週刊現代」2014年2月8日号)
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