(1)奨学金も、学生を追い込んでいる。
近年、奨学金利用者が急増している。学部生昼間部の奨学金利用者の割合は、23.9%(1998年)から50.7%(2010年)と、全体の5割を超えた。
日本型雇用の解体に伴う世帯年収の減少が背景にある。世帯年収(中央値)は、544万円(1998年)から438万円(2009年)へと、100万円以上も低下している。
世帯年収の減少と奨学金利用者の増加と、時期がぴったり重なっている。
(2)学生の半数以上が奨学金を利用していることに加えて、奨学金制度の悪化が急速に進んだ。全奨学金制度の8割を占める「日本学生支援機構」(以下「JSSO」)の奨学金が旧来のものとは激変した。
JSSOの奨学金は、第一種奨学金(無利子)と第二種奨学金(有利子)とがある。
第二種奨学金は、1984年に導入され、1990年代後半に急増した。2007年度には、民間資金の導入も始まった。15年間(1998年から2013年度)に、第二種奨学金の貸与人数は9.3倍、事業費は14倍に膨れあがった。
かたや、第一種奨学金の貸与人数は1.1倍、事業費は1.5倍だから、奨学金制度の中心は第一種奨学金から 第二種奨学金に移行したことになる。
(3)全学生の半数以上が奨学金を利用し、利用されている奨学金の8割がJSSOのそれであって、しかもJSSOの奨学金の大半が第二種奨学金であるということは、学生の相当数が多額の借金を抱えていることを意味する。
事実、奨学金返還の実情は深刻だ。
第二種奨学金を月に10万円借りた場合、総額は480万円に達する。利率を上限の3.0%とすると、返還総額は646万円となる。大学卒業後、毎月2万7千円の返還を20年間継続しなければならない。夫婦とも借りている場合、返還総額は軽く1,000万円を超し、毎月の返還額は5万4千円にものぼる。これで結婚生活や子育てが可能だろうか。
(4)返還が滞れば、年利10%もの延滞金が課せられる。
延滞金発生後の返還は、①延滞金、②利息、③元金・・・・の順に行われるから、元金を減らすことが困難になる。
60歳近くになっても奨学金返還が終わらないケースさえ生じている。
(5)2010年度の奨学金の利息収入は、232億円【注】、延滞金収入は37億円に達する。
これらの金は経常利益に計上され、原資とは無関係のところへ流れる。銀行と債権回収専門会社へ。返還される奨学金は、将来学生が借りる奨学金の原資となるよりも、銀行と債権回収専門会社の利益となっているのが現実だ。
奨学金を利用するのは、経済的に豊かでない家庭の出身者が多数を占める。奨学金は、一種の「貧困ビジネス」だ。
(6)奨学金という名の「貧困ビジネス」が学生に与える影響は深刻だ。
卒業後、多額の奨学金返還をし続けることを心配するあまり、在学中からアルバイトで返還金を貯めている学生が少なくない。これでは、奨学金が「学生の勉強をする時間を確保する」という目的を果たしていない。
(7)奨学金返還の過酷さは、就活や卒業後の働き方にも影響を与える。
卒業後、すぐに返還が始まるため、「卒業時に何が何でも正社員にならなければならない」というプレッシャーが学生に重くのしかかる。「全身就活」に拍車がかかり、「ブラック企業」であっても入社せざるをえない、という傾向を助長する。
「ブラック企業」であることが判明しても、奨学金返還があるため、その企業を辞めることができない、という事態も生じ得る。
(8)第二種奨学金が主流になったため、卒業後の返還が簡単ではなくなったことから、経済的には苦しくても奨学金を利用しない学生も多い。
彼らの多くは大学入学後に「バイト漬け」生活を強いられる。かかる状況が、「ブラックバイト」をいっそう蔓延させる。
奨学金制度を利用すべき学生が利用できないのは、制度が機能不全に陥っているからだ。
【注】「【教育】サラ金より悪質な奨学金 ~利息収入232億円~」
□大内裕和「ブラックバイト・全身就活・貧困ビジネスとしての奨学金」(「現代思想」2013年12月号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【ブラック企業】全身就活 ~学生の苦難(2)~」
「【ブラック企業】ブラックバイト ~学生の苦難(1)~」
「【ブラック企業】激変する若年労働者市場 ~労使間の話し合いが不可欠 ~」
「【ブラック企業】調査対象の8割で違法行為 ~厚労省初「ブラック企調査」~」
「【ブラック企業】対策講座 ~騙されないための心得~」
「【ブラック企業】対策講座 ~就活~」
「【社会】ブラック企業大賞2013 ~ワタミフードサービス~」
「【社会】「ブラック企業」への反撃 ~被害対策弁護団が発足~」
「【社会】「ワタミ」の偽装請負 ~渡辺美樹・前会長/参議院議員~」
「【社会】学校もこんなにブラック ~公教育の劣化~」
「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負」
「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負・その後 ~裁判~」
「【本】ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~」
「【本】ブラック企業の実態」
「【社会】若者を食い潰すブラック企業 ~傾向と対策~」
「【本】ブラック企業の「辞めさせる技術」 ~違法すれすれ~」
「【心理】組織の論理とアイヒマン実験 ~ブラック企業の心理学~」
「【社会】第二回ブラック企業大賞候補 ~7社1法人~」
「【社会】ブラック企業における過労死、ずさんな労務管理 ~ワタミ~」
「【社会】ブラック企業の見抜き方 ~その特徴と実例~」
近年、奨学金利用者が急増している。学部生昼間部の奨学金利用者の割合は、23.9%(1998年)から50.7%(2010年)と、全体の5割を超えた。
日本型雇用の解体に伴う世帯年収の減少が背景にある。世帯年収(中央値)は、544万円(1998年)から438万円(2009年)へと、100万円以上も低下している。
世帯年収の減少と奨学金利用者の増加と、時期がぴったり重なっている。
(2)学生の半数以上が奨学金を利用していることに加えて、奨学金制度の悪化が急速に進んだ。全奨学金制度の8割を占める「日本学生支援機構」(以下「JSSO」)の奨学金が旧来のものとは激変した。
JSSOの奨学金は、第一種奨学金(無利子)と第二種奨学金(有利子)とがある。
第二種奨学金は、1984年に導入され、1990年代後半に急増した。2007年度には、民間資金の導入も始まった。15年間(1998年から2013年度)に、第二種奨学金の貸与人数は9.3倍、事業費は14倍に膨れあがった。
かたや、第一種奨学金の貸与人数は1.1倍、事業費は1.5倍だから、奨学金制度の中心は第一種奨学金から 第二種奨学金に移行したことになる。
(3)全学生の半数以上が奨学金を利用し、利用されている奨学金の8割がJSSOのそれであって、しかもJSSOの奨学金の大半が第二種奨学金であるということは、学生の相当数が多額の借金を抱えていることを意味する。
事実、奨学金返還の実情は深刻だ。
第二種奨学金を月に10万円借りた場合、総額は480万円に達する。利率を上限の3.0%とすると、返還総額は646万円となる。大学卒業後、毎月2万7千円の返還を20年間継続しなければならない。夫婦とも借りている場合、返還総額は軽く1,000万円を超し、毎月の返還額は5万4千円にものぼる。これで結婚生活や子育てが可能だろうか。
(4)返還が滞れば、年利10%もの延滞金が課せられる。
延滞金発生後の返還は、①延滞金、②利息、③元金・・・・の順に行われるから、元金を減らすことが困難になる。
60歳近くになっても奨学金返還が終わらないケースさえ生じている。
(5)2010年度の奨学金の利息収入は、232億円【注】、延滞金収入は37億円に達する。
これらの金は経常利益に計上され、原資とは無関係のところへ流れる。銀行と債権回収専門会社へ。返還される奨学金は、将来学生が借りる奨学金の原資となるよりも、銀行と債権回収専門会社の利益となっているのが現実だ。
奨学金を利用するのは、経済的に豊かでない家庭の出身者が多数を占める。奨学金は、一種の「貧困ビジネス」だ。
(6)奨学金という名の「貧困ビジネス」が学生に与える影響は深刻だ。
卒業後、多額の奨学金返還をし続けることを心配するあまり、在学中からアルバイトで返還金を貯めている学生が少なくない。これでは、奨学金が「学生の勉強をする時間を確保する」という目的を果たしていない。
(7)奨学金返還の過酷さは、就活や卒業後の働き方にも影響を与える。
卒業後、すぐに返還が始まるため、「卒業時に何が何でも正社員にならなければならない」というプレッシャーが学生に重くのしかかる。「全身就活」に拍車がかかり、「ブラック企業」であっても入社せざるをえない、という傾向を助長する。
「ブラック企業」であることが判明しても、奨学金返還があるため、その企業を辞めることができない、という事態も生じ得る。
(8)第二種奨学金が主流になったため、卒業後の返還が簡単ではなくなったことから、経済的には苦しくても奨学金を利用しない学生も多い。
彼らの多くは大学入学後に「バイト漬け」生活を強いられる。かかる状況が、「ブラックバイト」をいっそう蔓延させる。
奨学金制度を利用すべき学生が利用できないのは、制度が機能不全に陥っているからだ。
【注】「【教育】サラ金より悪質な奨学金 ~利息収入232億円~」
□大内裕和「ブラックバイト・全身就活・貧困ビジネスとしての奨学金」(「現代思想」2013年12月号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【ブラック企業】全身就活 ~学生の苦難(2)~」
「【ブラック企業】ブラックバイト ~学生の苦難(1)~」
「【ブラック企業】激変する若年労働者市場 ~労使間の話し合いが不可欠 ~」
「【ブラック企業】調査対象の8割で違法行為 ~厚労省初「ブラック企調査」~」
「【ブラック企業】対策講座 ~騙されないための心得~」
「【ブラック企業】対策講座 ~就活~」
「【社会】ブラック企業大賞2013 ~ワタミフードサービス~」
「【社会】「ブラック企業」への反撃 ~被害対策弁護団が発足~」
「【社会】「ワタミ」の偽装請負 ~渡辺美樹・前会長/参議院議員~」
「【社会】学校もこんなにブラック ~公教育の劣化~」
「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負」
「【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負・その後 ~裁判~」
「【本】ブラック企業 ~日本を食いつぶす妖怪~」
「【本】ブラック企業の実態」
「【社会】若者を食い潰すブラック企業 ~傾向と対策~」
「【本】ブラック企業の「辞めさせる技術」 ~違法すれすれ~」
「【心理】組織の論理とアイヒマン実験 ~ブラック企業の心理学~」
「【社会】第二回ブラック企業大賞候補 ~7社1法人~」
「【社会】ブラック企業における過労死、ずさんな労務管理 ~ワタミ~」
「【社会】ブラック企業の見抜き方 ~その特徴と実例~」