(1)地方議会は、住民から縁遠いだけでなく、厄介者だと思われていたり、時としてひどく嫌悪されていたりもする。
その最大の理由は、口利き政治の存在にある。
保育所不足による待機児童問題が解消しない。東京都杉並区など幾つかの自治体で、集団で行政不服審査法に基づく異議申し立てが行われさえしている。自治体の公聴機能や民意吸収機能が見限られたことを関係者は深刻に受け止めるべきだ。
ところが、不思議なことに、待機児童を多く抱える自治体の議員は、さほど深刻に受け止めていない。むしろ、自分は待機児童問題に一生懸命取り組んでいる、と胸を張りさえする。「今年は5人も役所に頼んで入れてもらった」と、あっけからんと打ち明ける議員さえいる。+
議員をやっていれば、支持者からさまざまなことを頼まれる。保育所入所の口利きもその一つ。自治体によっては、「有力議員」ならそれぐらいの便宜は役所にはかってもらえるのだそうだ。支持者から感謝されるので、自分も議員としていいことをしたと満足するらしい。
少し考える力があれば、個別の口利きでは待機児童問題が解決しないことはわかりそうなものだ。入所できる枠が増えない中で、議員が誰かを押し込めば、他の誰かが押し出される。押し込んでもらった人は喜ぶが、わけのわからないまま押し出されて戸惑う人が一人増える。待機児童の数は一向に減らないだけでなく、そこに不公平が紛れ込むから、事態はいっそう悪くなっている。
議員の口利きで救われる人は市民のうちのほんの一握りにすぎず、他の大多数は同じ悩みを抱えているにもかかわらず放っておかれたままだ。1%だけが救われ、他の99%は放っておかれる。市民全体のためにあるはずの議会は、実は99%にとって無縁だ。
口利きのネットワークは、保育所の入所問題にとどまらず、公営住宅の入居から公立病院の患者の扱いに至るまで、張り巡らされている気配を99%の市民は感じている。たった1%の人だけを依怙贔屓する議会なら、無縁を通り越して有害でしかない。
かかる口利き議員は選挙で落とせばよいのだが、大選挙区制下、9人に嫌われても口利きなどで残り1人をしっかりつなぎとめておけば、選挙区全体からそこそこ票を集めて当選してしまう。
皮肉な観察をすれば、常に待機児童があふれていて、自分を頼ってくる有権者がいれば、その支持をつなぎ、さらに拡大することができる。それが、これほど騒がれている待機児童問題が自治体議会で大騒ぎになることが少なかった理由の一つだし、同時に、それが議会を嫌悪する市民が少なからずいる所以だ。
(2)口利き議員は、常に「与党会派」に所属することに意を払う。「与党会派」でなければ、口利きする上でいいポジションをキープできないからだ。彼らは議会に提案される議案には、基本的に反対しない。執行部の不興を買うような真似はしないのだ。多少いちゃもんをつけて、勿体をつけて賛成にまわり、「貸し」をつくることはある。今後の口利きが通りやすくなればいいのであって、議案の内容など、実はどうでもいい。
背景は異なるものの、議案の中身をほとんど吟味しない点において、国会における与党会派と地方議会における多数派とは共通するところがある。ねじれなき国会と同様、地方議会のチェック機能はほとんど麻痺している。
(3)かくて無傷で決まった案件の内容を、市民が知りたいと思っても容易にはわからない。
「議会だより」なるものでは、通常、議会の決定事項が掲載されているが、条例などの案件名とそれに対する会派ごとの賛成の状況が書かれているだけで、内容はさっぱりわからない。ページ数の多くは議員と首長との質疑に費やされている。議員や会派の広報媒体かと見まがうばかりに。中には有益な情報も含まれているが、住民にとって断然大事なことは、議会でどんなことが決められたかの情報だ。直接市民生活や経済活動に関わるのは、議員の質問ではなく、条例などの決定事項だ。もっと住民の観点に立ち、市民にとって大切な事柄を含む案件ぐらいは、その概要を載せるべきだ。
(4)以上見たとおり、国会ばかりでなく、本来住民に最も身近であるべき自治体においtも、主人公である住民は遠ざけられている。
自治体関係者は、民主主義をないがしろにした国会のありさまを他山の石としたらいい。民主主義の観点から、地方議会をどう改革したらいいか、真剣に考える絶好の機会となる。
主権者たる住民も、もっと地方議会に関心を持ち、どんな議員が望ましいのか、彼や彼女にどんな議会運営を期待するのか、改めて考えてほしい。
通年議会の導入、定例会方式から定例日開会に、会派中心から委員会中心の活動に、住民の発言の場としての公聴会の活用など改革のよすがはいくらでもある。
□片山善博(慶大教授)「民主主義の空洞化 --国会を他山の石とし地方自治を診る ~日本を診る 52 特別編~」(「世界」2014年2月号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【政治】住民の声を聞こうとしない地方議会 ~民主主義の空洞化(2)~」
「【政治】福島県民を愚弄する国会 ~民主主義の空洞化(1)~」
その最大の理由は、口利き政治の存在にある。
保育所不足による待機児童問題が解消しない。東京都杉並区など幾つかの自治体で、集団で行政不服審査法に基づく異議申し立てが行われさえしている。自治体の公聴機能や民意吸収機能が見限られたことを関係者は深刻に受け止めるべきだ。
ところが、不思議なことに、待機児童を多く抱える自治体の議員は、さほど深刻に受け止めていない。むしろ、自分は待機児童問題に一生懸命取り組んでいる、と胸を張りさえする。「今年は5人も役所に頼んで入れてもらった」と、あっけからんと打ち明ける議員さえいる。+
議員をやっていれば、支持者からさまざまなことを頼まれる。保育所入所の口利きもその一つ。自治体によっては、「有力議員」ならそれぐらいの便宜は役所にはかってもらえるのだそうだ。支持者から感謝されるので、自分も議員としていいことをしたと満足するらしい。
少し考える力があれば、個別の口利きでは待機児童問題が解決しないことはわかりそうなものだ。入所できる枠が増えない中で、議員が誰かを押し込めば、他の誰かが押し出される。押し込んでもらった人は喜ぶが、わけのわからないまま押し出されて戸惑う人が一人増える。待機児童の数は一向に減らないだけでなく、そこに不公平が紛れ込むから、事態はいっそう悪くなっている。
議員の口利きで救われる人は市民のうちのほんの一握りにすぎず、他の大多数は同じ悩みを抱えているにもかかわらず放っておかれたままだ。1%だけが救われ、他の99%は放っておかれる。市民全体のためにあるはずの議会は、実は99%にとって無縁だ。
口利きのネットワークは、保育所の入所問題にとどまらず、公営住宅の入居から公立病院の患者の扱いに至るまで、張り巡らされている気配を99%の市民は感じている。たった1%の人だけを依怙贔屓する議会なら、無縁を通り越して有害でしかない。
かかる口利き議員は選挙で落とせばよいのだが、大選挙区制下、9人に嫌われても口利きなどで残り1人をしっかりつなぎとめておけば、選挙区全体からそこそこ票を集めて当選してしまう。
皮肉な観察をすれば、常に待機児童があふれていて、自分を頼ってくる有権者がいれば、その支持をつなぎ、さらに拡大することができる。それが、これほど騒がれている待機児童問題が自治体議会で大騒ぎになることが少なかった理由の一つだし、同時に、それが議会を嫌悪する市民が少なからずいる所以だ。
(2)口利き議員は、常に「与党会派」に所属することに意を払う。「与党会派」でなければ、口利きする上でいいポジションをキープできないからだ。彼らは議会に提案される議案には、基本的に反対しない。執行部の不興を買うような真似はしないのだ。多少いちゃもんをつけて、勿体をつけて賛成にまわり、「貸し」をつくることはある。今後の口利きが通りやすくなればいいのであって、議案の内容など、実はどうでもいい。
背景は異なるものの、議案の中身をほとんど吟味しない点において、国会における与党会派と地方議会における多数派とは共通するところがある。ねじれなき国会と同様、地方議会のチェック機能はほとんど麻痺している。
(3)かくて無傷で決まった案件の内容を、市民が知りたいと思っても容易にはわからない。
「議会だより」なるものでは、通常、議会の決定事項が掲載されているが、条例などの案件名とそれに対する会派ごとの賛成の状況が書かれているだけで、内容はさっぱりわからない。ページ数の多くは議員と首長との質疑に費やされている。議員や会派の広報媒体かと見まがうばかりに。中には有益な情報も含まれているが、住民にとって断然大事なことは、議会でどんなことが決められたかの情報だ。直接市民生活や経済活動に関わるのは、議員の質問ではなく、条例などの決定事項だ。もっと住民の観点に立ち、市民にとって大切な事柄を含む案件ぐらいは、その概要を載せるべきだ。
(4)以上見たとおり、国会ばかりでなく、本来住民に最も身近であるべき自治体においtも、主人公である住民は遠ざけられている。
自治体関係者は、民主主義をないがしろにした国会のありさまを他山の石としたらいい。民主主義の観点から、地方議会をどう改革したらいいか、真剣に考える絶好の機会となる。
主権者たる住民も、もっと地方議会に関心を持ち、どんな議員が望ましいのか、彼や彼女にどんな議会運営を期待するのか、改めて考えてほしい。
通年議会の導入、定例会方式から定例日開会に、会派中心から委員会中心の活動に、住民の発言の場としての公聴会の活用など改革のよすがはいくらでもある。
□片山善博(慶大教授)「民主主義の空洞化 --国会を他山の石とし地方自治を診る ~日本を診る 52 特別編~」(「世界」2014年2月号)
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【参考】
「【政治】住民の声を聞こうとしない地方議会 ~民主主義の空洞化(2)~」
「【政治】福島県民を愚弄する国会 ~民主主義の空洞化(1)~」