語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】マルハニチロ農薬事件の背景 ~厳しい労働環境~

2014年01月24日 | 社会
 (1)マルハニチロホールディングスの子会社アクリフーズの群馬工場で製造された冷凍食品から、殺虫剤マラチオンが検出された。
 昨年11月半ばから12月末にかけて、3品目計20パックについて苦情が入っていた。
 しかるに、マルハニチロホールディングスがこの事件を発表したのは、12月29日。ミックスピザやコロッケなどで農薬が検出されていた。回収対象は、じつに630万パック。

 (2)アクリフーズは、雪印乳業の冷凍食品部門として始まった。雪印乳業事件(2000年)後、分社化され、社名変更後、マルハと統合する前のニチロの子会社となり、現在に至る。

 (3)この事件の問題点は、
  (a)対応の遅れ・・・・11月には苦情があったのに、発表されたのは12月29日。1ヶ月半もの間、消費者に知らせず、結果的に不安を拡大させた。被害者が拡大し、取り返しのつかない事態に展開する可能性もあった。
  (b)マラチオンの毒性を過小評価・・・・マラチオンは有機リン酸系の殺虫剤で、遺伝子を傷つける変位原性はない、とされているが、生体内で代謝されて生成される物質には変位原性の可能性が指摘されている。動物実験では造精機能に影響した、との報告くもある。発癌性はない、とされているが、マラチオンの酸化物には発癌性の疑いが指摘されている。かかる農薬が高濃度に含まれていたのだ。

 (4)2007年末から2008年初め、中国の天洋食品が製造したギョーザに農薬が入れられ、輸入したそれを食べた人が中毒した。この事件と、今回の事件とは状況が似ている。
 ギョーザ事件では、船場吉兆事件、白い恋人事件、赤福事件など食品表示のごまかしが相次いで発覚し、食の不安が高まった時期だった。今回も、有名ホテルやデパートなどで食品偽装が相次いだ時期に重なった。

 (5)なぜ、このような事件が繰り返し起こるのか。
 <例>ホテル・・・・①ホテル業界の売り上げは、2006年をピークに右肩下がりが続いている。過当競争による値崩れが起き、地方のホテルを始め、苦しい状況にある。②加えて、外資の相次ぐ参入によって競争が激化した。③さらに、福島第一原発事故が追い打ちをかけた。外国からの観光客が激減し、売り上げはどん底に落ちた。生き残りのため、レストランの食材偽装で利益を出した。これが真相だろう。

 (6)冷凍食品業界もまた、経済的に苦しい状況に置かれている。中国産毒ギョーザ事件以降、それまでは右肩上がりで増え続けていた消費量が一時大幅に減少した。
 輸入ものは、2008年、2009年と減少した後、2010年から増加に転じ、現在も家庭用冷凍食品を中心に、好調に増え続けている。2012年は、2009年の3割増だ。 
 しかし、国産はほとんど増加していない。国産ものは、落ち込んで以降、消費量の伸びはほぼ横ばいで、状況は厳しい。

 (7)(6)の状況が作業現場に影響しないはずはない。
 この事件の謎は、(3)-(a)にある。なぜ1ヶ月半も報告しなかったのか。
 いま、冷凍食品工場で働いている人は、ほとんどが非正規雇用で、合理化が進んでいる。労働者や消費者の安全を考える余裕がなくなっている。事件や事故が起きても不思議ではない労働環境だった(推定)。

□天笠啓祐(ジャーナリスト)「冷凍食品への農薬混入、ふたたびアクリフーズ事件の背景を考える」(「週刊金曜日」2014年1月17日号)

   *

 (1)いつかは、こういう事件が起こるんじゃないか、と思っていた。ここ3年くらいは作業員の扱いが荒く、現場では不満がかなりたまっていた。いまは別の営業所に移った社員が工場を取り仕切っていたころ、そいつは最悪で、すぐ怒鳴りつけるわ、シフトは勝手に入れるわで、ノイローゼになる作業員もいた。現在の責任者も、現場にはほとんど出てこないので、評判はよくない。不満をもった 人間が暴走してもおかしくはない雰囲気だった。【元・アクリフーズ群馬工場作業員】

 (2)捜査当局は「内部犯行であることは確実」としているが、いま、アクリフーズ社内で噂されているのは、「複数犯説」だ。
 作業員は決められたラインだけで作業し、複数のラインに跨がることはない。不自然な動きをすれば、すぐばれる。あれだけの量を1人で混入させることはできない。不満を持った2~3人の共謀か?
 犯人は、これほどの騒ぎを起こす気はなかったのではないか。「工場のラインを止めれば、仕事もサボれるし、会社に嫌がらせもできるし、一石二鳥」と考えたのかも。通常、包装を終えた商品はランダムに抜き出され、品質検査をされる。そこで異常が見つかればラインは止まる。
 だが、実際には品質検査をかいくぐった商品が出荷され、いま、全国で1,000人以上が体調不良を訴える。犯人も、ここまで大事に至るとは、と青ざめているかもしれない。0
 警察の見立てどおり作業員が逮捕される事態になれば、アクリフーズの社会的責任は重い。

□記事「マルハニチロ農薬事件 社内で囁かれる動機」(「週刊現代」2014年1月15日・2月1日号)
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