語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【外務省】北方領土に無気力 ~北海道のない日本地図~

2015年04月23日 | 社会
 (1)外務省は北方領土問題を解決する気がない。その証拠は、外務省板倉公館で見つかる。板倉公館は、外国の要人の接待に使われる迎賓館で、安部総理の祖父、岸信介・元総理の邸宅なども手がけた著名な建築家、吉田五十八が設計した。
 大広間には、日本地図を描いた絵画が飾られている。平山郁夫の大作「日本列島誕生図」だ。
 その日本列島には、北方領土はおろか、北海道さえ無い。
 日本列島誕生を記した古事記の「国生み」が題材だから、本州、四国、九州しか描かれていないのだ。

 (2)今年3月には日仏の外務・防衛大臣が、2013年11月には日露の外務・防衛大臣が、板倉公館で会談し、平山郁夫「日本列島誕生図」を背景に記念撮影を行った。
 ロシアからのみならず、諸外国からも、
    「日本は北方領土の領有権を主張しているが、公の交渉の場に掲げる絵にすらその領土が描かれていない」
と失笑されかねない。

 (3)事を荒立てたくない政府・自民党は、水面下で外務省に対して、「日本列島誕生図」を取り替えるよう要請を続けている。
 外務省はしかし、「平山画伯に特注した作品だから外せない」とにべもない。

 (4)外務官僚は元々プライドが高い。「オレたちのやることに、政治家は口出しさせない」という意識が強い。
 政府関係者は、ぼやく。
 「外務省は何が『国益』か、理解できないのか。これでは交渉前からすでに勝負ありだ」

□コラム「霞が関25時」(「週刊現代」2015年5月2日号)
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【詩歌】戦士のうた ~礁湖にて~

2015年04月23日 | 詩歌

おれの首が斬られて祭壇に捧げられるときおれの愛したカヌーや槍や盾やタパや鯨の骨のとびきり切れるナイフやそれからもちろん女たちの首飾りや揺すれる腰やたくさんの子供たちもおれを救いにくることはできない。おれはずっとむかしから精霊とだけ話が合った。あいつはタマヌの木のほらあなにしゃがんでちいさな透きとおる壜をかかえていつでもおれを見つめている。あいつの胸から下はとても貧弱でしゃがんでいるのが精いっぱいなのに頭部の大きさはおどろくばかりだ。一世紀にいちどしかまばたきしないあいつの眼からはシダが密生しあいつの分厚い唇の奧には暗い礁湖がぴたぴた波うっているのがきこえる。あいつが口をきかないのにおれと話が合うというのはおれがあいつの悲しみを知っているからだ。あいつは人間の記憶が生んだ怪物。人間の怖れや死臭や血の記憶や追放の嘆きや溺死人のつかむ青空の切れっぱしでいっぱいなのであいつは透きとおる壜にたたえた悲しみの油でそれらを溶かし子守唄で眠らせつづけているのだ。おれはあいつの醜怪な顔の奧に海神モアナの激情よりも深い思想、死をもやわらげる思想を感じる。おれが首を斬られて死んでもあいつはタマヌの木のほらあなでまばたきもせず小さなあいつの壜にまたひとり新しい死者を加えるだけだ。おれはあいつに抱かれてこれからの何万年なにを考えるだろう。礁湖のカモメが大洋の鮫を軽蔑するのは弱者のささやかな慰めにすぎぬ。今日は夕陽がほんとに美しい。

□大岡信「礁湖にて --戦士のうたえる--」(『わが詩と真実』(思潮社、1962)所収)
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【佐藤優】ヒラリーとオバマの「大きな違い」

2015年04月22日 | ●佐藤優
 (1)ヒラリー・クリントン・前国務長官が、4月12日、米大統領選挙(2016年)に立候補する、と表明した。
 オバマ大統領に対する国民の失望感が強い状況で、民主党には勢いがない。
 もっとも、現在、米国人口の37%が非白人(黒人、ヒスパニック、アジア系など)だ。2050年には非白人の人口比率が過半数になると目されている。
 このような状況で、白人エリート層と大企業家、さらに宗教右派(ティーパーティがその代表)を支持基盤とする共和党は、現在の路線を大胆に変更しない限り、非白人層を取り込むことができない。
 対する民主党候補には、非白人票の大多数と白人の中産階級や知識人が投票する。
 大統領選挙においては、民主党が有利な状況なのだ。

 (2)民主党に対して厳しい立場をとる米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、翌13日の社説でクリントンを激しく批判した。
 <ヒラリー氏は個人としてよりも、民主党とリベラル派の影響力維持と資金集めのために作られた組織の「顔」として立候補する。かつてのファーストレディーの有名な言葉をもじって、これを「巨大な左翼の陰謀」と呼んでも良いかもしれない(訳注:ヒラリー氏はかつて夫のクリントン元大統領を攻撃する勢力を指して「巨大な右翼の陰謀」と呼んだ)。ヒラリー氏が集票マシンのトップに上り詰めたのは、個人的な資質や本人の政策からではなく、民主党は彼女のほかに候補がいないと思っているためだ。
 では、クリントン氏は何を掲げて戦うのだろうか。米国初の女性大統領というのが立候補の主な理由付けのように見える。選挙戦では、家族休暇の義務化や3~4歳児(プレキンダーガーテン)教育の一般化、チャイルドケアについて持論を展開することになろう。彼女は2008年の大統領選挙では女性であることを強調するのをためらった。だが今、現在の民主党を特徴づけている、社会的少数派などアイデンティティーに基づく集団の利益を重視した「アイデンティティー政治」で、性別は重要な意味をもっている。クリントン氏は08年にも当然のこととして出馬した。出馬した際のモットー「私は勝つために出る」を覚えているだろうか。そして皮肉なのは、その必然性がたとえ彼女自身はそうではないように装っていたとしても、おそらく今回は本当だということだ。>【注】

 (3)ヒラリー・クリントンは、
   (a)積極的格差是正策(アファーマティブ・アクション)、同性婚の承認などの「アイデンティティ政治」で、自分の権力基盤の拡大を図ることは間違いない。
   (b)内政面で、オバマ・現大統領とクリントンとの間に大きな違いはない。
   (c)外交面では、大きな違いが出てくる。自由と民主主義という米国の理念を、力を行使してでも実現すべきである、という新保守主義者(ネオコン)と共通する外交哲学をクリントンは持っている。クリントンは、「イスラム国」やイランに対し、オバマ・現大統領よりも遥かに厳しい姿勢で臨むことになる。

 【注】社説「「ヒラリーマシン」に頼る民主党、歴史の封印は困難」(ウォール・ストリート・ジャーナル日本版 2015年4月 13日)

□佐藤優「ヒラリーとオバマの「大きな違い」 ~佐藤優の人間観察 第110回~」(「週刊現代」2015年5月2日号)
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 【参考】
【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~
【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~
【佐藤優】戦勝70周年で甦ったソ連の「独裁者」 ~帝国主義の復活~
【佐藤優】明らかになったロシアの新たな「核戦略」 ~ミハイル・ワニン~
【佐藤優】北方領土返還の布石となるか ~鳩山元首相のクリミア訪問~
【佐藤優】米軍による日本への深刻な主権侵害 ~山城議長への私人逮捕~
【佐藤優】米大使襲撃の背景 ~韓国の空気~
【佐藤優】暗殺された「反プーチン」政治家の過去 ~ボリス・ネムツォフ~
【佐藤優】ウクライナ問題に新たな枠組み ~独・仏・露と怒れる米国~
【佐藤優】守られなかった「停戦合意」 ~ウクライナ~
【佐藤優】【ピケティ】『21世紀の資本』が避けている論点
【ピケティ】本では手薄な問題(旧植民地ほか) ~佐藤優によるインタビュー~
【佐藤優】優先順序は「イスラム国」かウクライナか ~ドイツの判断~
【佐藤優】ヨルダン政府に仕掛けた情報戦 ~「イスラム国」~
【佐藤優】ウクライナによる「歴史の見直し」をロシアが警戒 ~戦後70年~
【佐藤優】国際情勢の見方や分析 ~モサドとロシア対外諜報庁(SVR)~
【佐藤優】「イスラム国」が世界革命に本気で着手した
【佐藤優】「イスラム国」の正体 ~国家の新しいあり方~
【佐藤優】スンニー派とシーア派 ~「イスラム国」で中東が大混乱(4)~
【佐藤優】サウジアラビア ~「イスラム国」で中東が大混乱(3)~
【佐藤優】米国とイランの接近  ~「イスラム国」で中東が大混乱(2)~
【佐藤優】シリア問題 ~「イスラム国」で中東が大混乱(1)~
【佐藤優】イスラム過激派による自爆テロをどう理解するか ~『邪宗門』~
【佐藤優】の実践ゼミ(抄)
【佐藤優】の略歴
【佐藤優】表面的情報に惑わされるな ~英諜報機関トップによる警告~
【佐藤優】世界各地のテロリストが「大規模テロ」に走る理由
【佐藤優】ロシアが中立国へ送った「シグナル」 ~ペーテル・フルトクビスト~
【佐藤優】戦争の時代としての21世紀
【佐藤優】「拷問」を行わない諜報機関はない ~CIA尋問官のリンチ~
【佐藤優】米国の「人種差別」は終わっていない ~白人至上主義~
【佐藤優】【原発】推進を図るロシア ~セルゲイ・キリエンコ~
【佐藤優】【沖縄】辺野古への新基地建設は絶対に不可能だ
【佐藤優】沖縄の人の間で急速に広がる「変化」の本質 ~民族問題~
【佐藤優】「イスラム国」という組織の本質 ~アブバクル・バグダディ~
【佐藤優】ウクライナ東部 選挙で選ばれた「謎の男」 ~アレクサンドル・ザハルチェンコ~
【佐藤優】ロシアの隣国フィンランドの「処世術」 ~冷戦時代も今も~
【佐藤優】さりげなくテレビに出た「対日工作担当」 ~アナートリー・コーシキン~
【佐藤優】外交オンチの福田元首相 ~中国政府が示した「条件」~
【佐藤優】この機会に「国名表記」を変えるべき理由 ~ギオルギ・マルグベラシビリ~
【佐藤優】安倍政権の孤立主義的外交 ~米国は中東の泥沼へ再び~
【佐藤優】安倍政権の消極的外交 ~プーチンの勝利~
【佐藤優】ロシアはウクライナで「勝った」のか ~セルゲイ・ラブロフ~
【佐藤優】貪欲な資本主義へ抵抗の芽 ~揺らぐ国民国家~
【佐藤優】スコットランド「独立運動」は終わらず
「森訪露」で浮かび上がった路線対立
【佐藤優】イスラエルとパレスチナ、戦いの「発端」 ~サレフ・アル=アールーリ~
【佐藤優】水面下で進むアメリカvs.ドイツの「スパイ戦」
【佐藤優】ロシアの「報復」 ~日本が対象から外された理由~
【佐藤優】ウクライナ政権の「ネオナチ」と「任侠団体」 ~ビタリー・クリチコ~
【佐藤優】東西冷戦を終わらせた現実主義者の死 ~シェワルナゼ~
【佐藤優】日本は「戦争ができる」国になったのか ~閣議決定の限界~
【ウクライナ】内戦に米国の傭兵が関与 ~CIA~
【佐藤優】日本が「軍事貢献」を要求される日 ~イラクの過激派~
【佐藤優】イランがイラク情勢を懸念する理由 ~ハサン・ロウハニ~
【佐藤優】新・帝国時代の到来を端的に示すG7コミュニケ
【佐藤優】集団的自衛権、憲法改正 ~ウクライナから沖縄へ(4)~ 
【佐藤優】スコットランド、ベルギー、沖縄 ~ウクライナから沖縄へ(3)~ 
【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 


【詩歌】現代社会の落とし穴 ~過失の谷~

2015年04月22日 | 詩歌
 誰にも咎められずに
 工場のなかにきた
 焼鈍炉があって
 輻射熱を浴びた
 その先は
 材料置場で
 整頓された五ガロン罐の山
 攀る
 それは空虚の堆積で
 わたしの体重を支えない
 ひとつが崩れる
 連鎖反応を示す
 五ガロン罐の山が崩れ去り
 つぎには耐火煉瓦の山が崩れた
 もはやでるにでられぬ
 守衛にみつけだされよう
 相手は過失を許すまい
 隠れ逃げ終せなければならないが
 過失を
 犯罪に
 仕上げるために
 五ガロン罐と煉瓦の山は
 谷底に崩れつづけた

□関根弘「過失の谷」(『唱和詩集(2) ~日本詩人全集34~』(新潮社、1969)
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    天台宗別格本山角磬山大山寺塔頭圓流院の天井壁画から
   


【堤未果】サービス残業は絶対なくならない ~残業代ゼロ法案~

2015年04月21日 | 社会
 (1)2015年4月3日、政府は労働基準法改正案を閣議決定した。「残業代ゼロ制度」も改正案に含まれる。
   (a)雇用側の残業代支払い義務をなくした「高度プロフェッショナル制度」。
     ①対象者は年収「1,075万円以上」だが、同法の具体的中身も含め、定めるのは国会審議不要の「省令」だ。だから、今後いくらでも厚生労働省だけで数値を変えることができる。警戒の声があがっているのも当然だ。
     ②「時間でなく成果で評価する制度」という政府の主張も、法案に企業への成果主義制度導入義務などの記載がないから、実効性に疑問符がつく。
   (b)実労働時間ではなく、あらかじめ定めた時間を勤務時間として給与を支払う「裁量労働制」。
     ①通常は残業代削減の口実として用いられるこの制度を、こちらは年収要件なしで営業や管理業務まで拡大する。
     ②裁量労働制は企業側に休日・夜勤手当の支払い義務はあるものの、対象職種の4割は勤務時間が把握されていないし、未払い、労災認定もされていない。

 (2)労働者側には、まったくメリットのない労働法改正が、なぜ次々に決まるのか。
 法案提出前にその内容を議論する「審議会」に問題があるのだ。
 かつて労働法は、厚労省の労働政策審議会で経営側と労働側がしっかり議論し、納得し合った上で国会に法案が提出されていた。今は労働者側の代表もいない産業競争力会議で骨子が決められ、さらに労働政策審議会では労働者側が反対しても強硬に法案として提出してしまう。もはや審議会が機能していないのだ。【山井和則・衆議院議員】

 (3)2014年、国会は超党派の全会一致で「過労死防止法」を制定した。その内容は、過労死問題に対する国の責任を明記し、過労死の実態や防止策協議会を立ち上げ、調査し、民間団体を支援する、といったものだ。
 しかし、このままでは過労死防止法と逆行する残業代ゼロ法整備のほうが先に現実になってしまう。

 (4)日本に長年根深く横たわる「サービス残業」。
 労働基準法によれば、残業代未払いには「30万円以下の罰金」が科せられる。しかし、現実に残業代を払っていない企業が圧倒的に多い。経営側が、30万円程度の罰金なら残業代未払いの方がメリットが大きいと判断するケースが少なくないからだ。その30万円の罰則自体、実行されるまでのハードルが高い。通常、労働基準監督官は、労働者側の違反申告を受けてから調査を開始する。ところが、営業職などタイムカードを使わない場合や、企業側が社員の労働時間を把握していない場合は、証拠不十分で調査が終わってしまう。
 企業側にとって残業代未払いでは割に合わない罰則でなければ、実質ザル法と同じだ。
 裁量労働制で幅広い営業や管理職にまで残業代ゼロが合法化されたら、確実に過労死が増える。【山井議員】

 (5)まじめ気質が日本人と似ているドイツでは、2016年までに18時以降労働禁止の法改正が進められている。
 ドイツ人の年間平均労働時間は、日本人(2,071時間)の7割(1,397時間)だが、政府は労働者の健康を最優先することで仕事の効率をあげ、経済成長につなげる考えだ。
 労働法制は、国にとっての労働者の価値観を映し出す。
 人間に投資しなくなった国が目指す経済成長は、果たして持続可能だろうか。 

□堤未果「「残業代ゼロ法案」でサービス残業は絶対なくならない ~ジャーナリストの目 第248回~」(「週刊現代」2015年4月25日号)
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【詩歌】何をうしじま千とせ藤 ~牛島古藤歌~

2015年04月21日 | 詩歌
 葛飾の野の臥竜梅
 竜うせて もも すもも
 あんずも青き実となりぬ
 何をうしじま千とせ藤
            はんなりはんなり

 ゆく春のながき花ふさ
 花のいろ揺れもうごかず
 古利根の水になく鳥
 行々子啼きやまずけり

 メートルまりの花の丈
 匂ひかがよふ遲き日の
 つもりて遠き昔さへ
 何をうしじま千とせ藤
            はんなりはんなり

  *

 「うし」・・・・懸詞。憂しと牛。
 「遲き日の/つもりて遠き昔」・・・・与謝野蕪村の「遅き日のつもりて遠きむかしかな」。
 「はんなり」・・・・京ことばで華やかなさま。ここでは囃子ことば。 

 「牛島古藤歌」は、詩集『百たびののち』所収。ただし、『百たびののち』は単行本ではない。昭和37年、『定本三好達治全詩集』刊行時、この表題のもとに過去10年間の新詩72編が追加された。2年後、三好達治、没。
 埼玉県春日部市牛島に、「粕壁の藤」として古来名高い藤がある。天然記念物。盛りには1メートル余の花房を垂らす。「たぶん千年のほうに近いであろう数百年も活きつづけた大樹」(三好達治「おちこちの人」)。

□三好達治「牛島古藤歌」(『日本の詩歌 第22巻』、中央公論社、1967、所収)
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  藤
   

【経済】今後、狙いと反対のことが起きる ~異次元緩和(2)~

2015年04月20日 | ●野口悠紀雄
(承前)
 (6)今後はどうなるか? 円安がもっと進めば、企業利益がさらに増加し、株価は上がり続けるか?
 マーケットは、すでに米国の金利上昇を織り込んでしまっているかもしれない。だから、予想を超える変化がなければ、さらに円安になることはない。
 しかし、そうしたことが何時までも続くとは、考えにくい。現在の為替レートは、実質レートで見れば異常な円安になってしまっているからだ。現在のレートは、1995年ごろの半分以下だ。
 日本人の生活が1995年より半分くらいの水準に落ち込んでいるか? 落ち込んでいるとしても、そこまで落ち込んではいない。事実、
   ・2014年の実質GDP・・・・1995年よりも15.8%だけ増加
   ・鉱工業生産指数・・・・1995年100、最近時点で98程度
 以上からすると、円は過小に評価されている。
 (2)-(a)(資産価格)は、自己増殖的なメカニズムがある。しかし、無制限にそれが働くわけではない。実物経済との乖離がある程度以上拡大すると、破綻する。

 (7)円安が進行することによって、輸入物価が上昇する。消費者物価も上がった。
 しかし、これはインフレ率の継続的な上昇ではない。消費者物価が上がり続けるには、円安が進行し続ける必要があるからだ。
 実際には、原油価格が下落する以前の時点で、すでに消費者物価指数の伸び率が低下した。2014年になって為替レートが1ドル=100円程度の水準でほぼ一定になったからだ。

 (8)物価上昇率が高まっても、それが経済成長を促進しなかった。「物価が上昇すると人々は買い急ぐので、需要が増えて経済が活性化する」というメカニズムは働かなかった。
 実際には、
    物価上昇 → 実質所得減少 → 実質消費減少 → 経済成長押し下げ
というメカニズムが働いた。

 (9)設備投資は増えていない。実物経済の先行きに対する期待が改善すれば、設備投資は増えるはずだ。
 しかし、実際にはほとんど増えていない。むしろ減少気味だ。

 (10)今後起こるのは、異次元緩和が意図したのとは、まったく逆の事態だ。
    原油価格下落 → 消費者物価下落 → 実質所得増加 → 経済成長率増加
 物価上昇率期待が上昇して経済が活性化するのではない。
 原油価格下落によって、経済成長率が高まる。それは金融緩和によるのではなく、原油価格下落という実体面での変化による。
 今後、異次元緩和が狙ったこととは正反対のことが起ころうとしている。

□野口悠紀雄「期待で資産価格のみ変化させた異次元緩和 ~「超」整理日記No.754~」(「週刊ダイヤモンド」2015年4月18日号)

 【参考】
【経済】期待を煽り資産価格のみを変化させた ~異次元緩和~


【経済】期待を煽り資産価格のみを変化させた ~異次元緩和~

2015年04月20日 | ●野口悠紀雄
 (1)2年前(2013年4月)、日本銀行が導入した異次元緩和措置は、
    「人々の期待を変化させることによって実体経済を好転させる」
という狙いがあった。その目的は達成されたか?
   (a)為替レートと株価に係る期待を変化させて、円安と株高を実現した。
   (b)消費者物価に係る期待を変化させることはできなかった。
   (c)実体経済においては、原油価格の値下がりが生じるまでの期間では、消費者物価の上昇によって、
     ①実質所得が減少し、
     ②実質消費が減少した。

 (2)「期待」の問題を考えるに当たり、(a)ストック(資産)価格と(b)フロー価格を区別することが重要だ。
 為替レートや株価は(a)だ。
 変化したのは、(a)に対する期待であり、(a)の価格だ。
 なお、金利(国債利回り)も、国債という(a)だ。これも異次元緩和によって低下(国債価格上昇)した。消費者物価は(a)と違って、消費という(b)(フロー量の価格)だ。
 よって、(1)を言い換えれば、
    「(a)についての期待は変化したが、(b)についての期待は変化しなかった」 

 (3)(2)の(a)と(b)の区別が重要である理由は、次のとおり。
 (2)-(a)は、将来の収益の割引現在値として与えられる。
   <例>株価・・・・将来時点で得られる①配当と②株式売却益を現在の価格に「割引」という操作を経て直したもの。
 この<例>において、将来の①と将来の株価がどうなるかについての「期待」(予測)が極めて重要な役割を果たしている。将来の②は将来の株価で決まるから、「将来の株価が現在の株価を決める」という自己増殖的なメカニズムも働くことになるのだ。
 国債についても、同様のことが言える。現在の国債の金利(国債利回り)は非常に低い水準になっているが、これは国債の価格が異常に高くなっていることを意味する。なぜ金融機関が高値で購入するか、と言えば、日銀がもっと高い価格で買ってくれる、という期待があるからだ。
 以上のように、(2)-(a)については、「期待」が本質的に重要な役割を果たす。何らかの要因で「期待」が変化すれば、実体面での変化がなくとも、価格は変動する。

 (4)異次元緩和は、(3)のような(2)-(a)の特殊性に鑑み、(2)-(a)に係る期待を変化させようとした。そのための手段として、マネタリーベースの大幅な増加を行った。
 その具体策・・・・国債を市場から高値で購入 → 利回り低下 → 内外金利差拡大 → 円安進行
 円安はしかし、日銀の金融緩和だけで生じたわけではない。
   ①2013年にはすでにユーロとの関係で円安が生じていた。それを日銀の金融緩和が助長したのだ。
   ②2014年には米国の緩和によって円安が生じていた。それを日銀の金融緩和が助長したのだ。

 (5)(3)の注意点・・・・異次元緩和は、マネーストック(=預金+日銀券=市中に流通するカネの残高)に関する数字を目標として掲げていない。
 これは、正統的な金融政策の観点からすると奇妙なことだ。マネーストックが増加しないと、実体経済に影響を与えることができないはずだからだ。
 マネーストックが目標値に入ってないのは、異次元緩和がそれを増加する意図を持っていなかったからだ(推定)。つまり、実体経済を動かすことは最初なら念頭になく、
    「期待」だけを動かそうとした。

 (6)事実、マネーストックはほとんど増えなかった。
 「カネがじゃぶじゃぶに供給されている」は大きな誤解で、実体経済に波及するルートは働いていなかった。
 マネーストックが増えていないのは、異次元緩和が実体経済と無関係であることを示す。「期待」だけが実態と乖離して変化したのだ。

□野口悠紀雄「期待で資産価格のみ変化させた異次元緩和 ~「超」整理日記No.754~」(「週刊ダイヤモンド」2015年4月18日号)
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【詩歌】現代詩における道行き ~「失題詩編」~

2015年04月19日 | 詩歌
 心中しようと 二人で来れば
  ジャジャンカ ワイワイ
 山はにっこり相好くずし
 硫黄のけむりをまた吹き上げる
  ジャジャンカ ワイワイ

 鳥も啼かない 焼石山を
 心中しようと辿っていけば
 弱い日ざしが 雲からおちる
  ジャジャンカ ワイワイ
 雲からおちる

 心中しようと 二人で来れば
 山はにっこり相好くずし
  ジャジャンカ ワイワイ
 硫黄のけむりをまた吹き上げる

 鳥も啼かない 焼石山を
  ジャジャンカ ワイワイ
 心中しようと二人で来れば
 弱い日ざしが背すじに重く
 心中しないじゃ 山が許さぬ
 山が許さぬ
  ジャジャンカ ワイワイ

  ジャジャンカ ジャジャンカ
  ジャジャンカ ワイワイ

 *

 入澤康夫の初期の傑作。「失題詩編」は『倖せそれとも不倖せ』(ユリイカ、1955)に所収 。
 近松門左衛門の道行は、読む者、見聞きする者を二人に感情移入させる。
 かたや、この詩は、読者つまり観客としての大衆を、「相好くずす山」といっしょになって囃す立場に置かせる。我関せず我焉と突き放して非情、そのくせ猥雑な「ジャジャンカ ワイワイ」の囃し手である。

 入澤康夫は、島根県松江市出身のフランス文学者、ネルヴァルの研究家。「擬物語詩」をつむぎだす詩人。詩集『季節についての試論 』(H氏賞 )、詩集『わが出雲 わが鎮魂』(読売文学賞)、詩集『死者たちの群がる風景』(高見順賞)、詩集『水辺逆旅歌』(藤村記念歴程賞 )、詩集『漂ふ舟 わが地獄くだり』(現代詩花椿賞 )、詩集『入澤康夫〈詩〉集成 』(毎日芸術賞 )、詩集『遐い宴楽 』(萩原朔太郎賞 )、詩集『アルボラーダ』(詩歌文学館賞 )、ほか著書多数。
 天澤退二郎らとともに原稿を綿密に校訂し、画期的な『校本 宮澤賢治全集』を刊行。さらに、その後の新発見資料や研究成果を踏まえ、全面的な本文決定、校訂作業をやり直し、『新校本 宮澤賢治全集』を刊行した(2009年3月完結)。1998年紫綬褒章受章、2008年芸術院会員。

□入澤康夫「失題詩編」(『入澤康夫<詩>集成』、思潮社、1979、所収) 
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【佐藤優】「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~ドイツ機墜落~

2015年04月19日 | 社会
 (1)3月24日、ジャーマンウイングス(独のLCC)のエアバスA320が墜落し、乗客乗員150人(うち日本人2人)全員が死亡した。同機のアンドレアス・ルビッツ副操縦士(27歳)が故意に墜落させた可能性が高い。
 <ビルト紙が報じたボイスレコーダーの記録によると、機長が24日朝の離陸20分後に「離陸前にトイレに行く時間がなかった」と話し、副操縦士が「いつでも代わります」と答えた。24日午前10時27分、機体が最高高度に達し、機長が副操縦士に着陸の準備を命じた。その2分後、副操縦士から「代わりますよ」と促され、機長は操縦室を離れたという。
 直後の24日午前10時30分、急降下が始まった。1分後、管制塔からの問い合わせにも副操縦士は答えなかった。
 閉め出されたと気づいた機長が「頼むからドアを開けてくれ!」と叫んだ。同時にドアを蹴ったり、体当たりしたりした様子がうかがえる。背後には乗客の悲鳴らしき声も聞こえるという。
 同10時35分、何かでドアを激しくたたく金属音が響いた。機内に設置されている非常用のおのを使ったとみられる。この時点で高度7千メートル。約90秒後、警告音が機内に鳴った。「このクソドアを開けろ!」。機長は再び副操縦士に怒鳴った。
 それでも、副操縦士は無言のままだった。同10時40分、「機体の右翼が山肌にぶつかった」(関係者)とみられる衝撃音が響いた。再び乗客の叫び声が聞こえ、最後の記録となった。>【注1】

 (2)ルビッツ副操縦士が鬱病の治療を受けていて、自殺願望が強かった、という報道があるが、今ひとつ説得力がない。自殺とは基本的に一人で行うものだ。149人の無辜の人々を巻き込む自殺なぞ、考えにくい。
 本件は、大量殺人事件と捉えるべきだ。何らかの破壊衝動がないと、このような事件は起きない。
 4月2日のドイツ検察局の発表によるば、ルビッツ副操縦士は自殺方法や操縦室のドアの安全対策についてインターネットで検索して調べていた。

 (3)本件については、責任追及よりも真相究明を優先させるべきだ。
 LCCは、新自由主義的な競争の中で生まれた。操縦士の賃金も、極力低く抑えようとする。そうなると、多少問題のある人材であっても勤務につけざるを得なくなる。【注2】
 性格的に少し変わっているだけなのか、精神疾患があるのか、どちらであるかの判定は素人にはできない。有能な精神科医や臨床心理士が操縦士と定期的に面談していれば、事前に異常を察知することができる。しかし、それにはかなりのコストがかかる。合理化、効率化を徹底的に要求するLCCの場合、かかる経費を捻出することができないだろう。

 (4)たとえ費用がかさもうと、操縦士のメンタルケアをきちんと行い、精神疾患にかかっても、一挙に生活困難に陥ることのない仕組みをつくっておく必要がある。
 ドイツの航空業界の労働組合は強力なはずだ。労組は、ジャーマンウイングスおよび親会社(ルフトハンザ)に対して、今回の事件が発生した構造的要因の解明を求め、労働条件を改善させるべきだ。その結果として、LCCの安全性が高まる。 

 【注】記事「「このクソドアを開けろ」 機内に警告音、おの振る機長」(朝日新聞デジタル 2015年3月30日)
 【注2】独デュッセルドルフ検察によれば、くだんの副操縦士にはいかなるテロリスト傾向もなかったが、失恋に傷つき、労働条件に対して不満を覚え、精神不安定や視力低下に悩み、墜落現場近辺を訪れたことあり、「いつかシステムを大きく変えることをする。ぼくの名は知られることになり、記憶されることになる」などと述べていたことが明らかになった。【廣瀬純「自由と創造のためのレッスン」(「週刊金曜日」2015年4月17日号)】

□佐藤優「「自殺願望」で片付けるには重すぎる ~佐藤優の人間観察 第109回~」(「週刊現代」2015年4月25日号)
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【佐藤優】遠隔地ナショナリズム ~ウクライナから沖縄へ(2)~
【佐藤優】ユニエイト教会 ~ウクライナから沖縄へ(1)~ 

【詩歌】戦争を礼賛する牧師 ~E・ケストナーによる諷刺~

2015年04月18日 | 詩歌
 故郷にへばりついていた或る牧師が
 当時だいたいこんなことを言った
 --イエスさまが今日生きておられたら
 機関銃をお執りになったでありましょう」

 この牧師の居所を誰か教えてくれないか
 誰も知らないのか この男はどこに住んでいるのか
 もしわかったら--おれは明日にでも
 彼のところへいって横っ面をはりとばしてやる

 われわれは彼の家を取り巻いてやる
 ここにはわれわれの手、そこには彼の顔
 君は僕の提案をご免だというのか
 紳士的でないというのか そうだ、紳士的ではないだろう

    *

 牧師はそんなことは言わなかったというのか
 捏造でなければ歪曲だと君は信じるのか
 この引用文における最悪の点は
 みんなありそうなことだと思われることだ

□エーリヒ・ケストナァ「偉大な時代よりの引用文 (常連用食卓のためのもの)」、(板倉鞆音・訳編)『ケストナァ詩集』(思潮社、1975)所収
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     オシドリ
   

【食】新しい遺伝子操作技術が続々 ~安全が不明なまま~

2015年04月18日 | 社会
 (1)JRシンプロット社(米国)が、新しい遺伝子操作技術を用い、遺伝子組み換え(GM)ジャガイモを開発した。このジャガイモは、「RNA干渉(RNAi)技術」が用いられ、加熱した際に生じる発癌物質アクリルアミドが低減されている。
 RNA干渉技術とは、RNAを用いてRNAの働きを止める技術だ。
 RNAは通常は一本鎖だが、ごく稀に二本鎖RNAが存在する。二本鎖RNAは、遺伝子の働きを抑えるRNA干渉をもたらす。その原理を利用して、人工的に二本鎖RNAを作り出し、RNAの働きを止めて、遺伝子の働きを封じるのだ。

 (2)(1)の新しい遺伝子操作技術に対して、オーストラリア・アデレード大学の研究者が警告を発した。これに続いて、米国農務省(USDA)農業研究局の研究者が、作物の安全性を評価するには現行の通常90日の試験ではなく、長期試験(生物の寿命の長さにおよぶ影響を見る)が必要だ、と指摘した。

 (3)ジャガイモに続いて、(1)の技術を用いて害虫の成長を遅らせたり、殺したりする技術の研究が現在進められている。だが、標的の害虫のみならず、益虫やその他の動にまで害をおよぼすのではないか、という懸念が示されている。
 JRシンプロット社のジャガイモの主な購入者であるマクドナルド社は、このジャガイモを使用しない、と明言している。

 (4)2012年、徳島大学と広島大学の両大学院の研究チームが、色素のない「白いコオロギ」を作り出した。
 これに用いた技術が、人工制限酵素を用いた「ゲノム編集技術」だ。制限酵素は、DNAを切断する。
 現在、人工制限酵素を用いた遺伝子操作が盛んになっている。
   ・「ZEN法」
   ・「TALEN法」
との2種類があり、いずれも人工的に合成した制限酵素を用いて、狙いを定めた特定のDNAを自在に切断することができるようにしたものだ。
 「白いコオロギ」は、コオロギの表皮に黒い色素をもたらす遺伝子をターゲットとし、その遺伝子を切断し、遺伝子の働きをノックアウトして作られた。
 かかるノックアウト技術は、以前から遺伝子の働きを調べるために使われていたが、複雑な遺伝子組み換えが必要だった。

 (5)(4)の人工制限酵素は、
   ・DNAを切断する部分
   ・修復する部分
とを併せ持っている。切断した後に修復が行われる。その際、一定の割合で遺伝子の働きが止められ、白いコオロギのような現象が起きる。
 また、修復の際に、その部分に遺伝子を挿入することもできる。だから、特定の場所の遺伝子を止め、そこに新たな遺伝子を挿入することで、遺伝子の入れ換え(これまでの遺伝子組み換え技術ではできなかった)が可能になり、こまめな遺伝子操作を行うことができる。
 この技術を「ゲノム編集技術」と言う。現在、作物ほか、さまざまな生物への応用が広がっている。

 (6)これまでの遺伝子組み換え技術にとどまらず、合成生物学、RNAi技術、ゲノム編集技術など、遺伝子を操作した食品の開発に、多様な遺伝子操作技術が用いられるようになった。
 中には、遺伝子組み換えでない、ということで、環境影響評価や食品の安全審査を免れる方向で動いているものもある。

□天笠啓佑(ジャーナリスト)「RNA干渉技術にゲノム編集技術 新しい遺伝子操作が続々」(「週刊金曜日」2015年4月10日号)
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【詩歌】自由な街

2015年04月17日 | 詩歌
 軍帽は鳥籠の中に放りこんで
 かわりに鳥を頭にのせて外出する
 ふん すると
 もう敬礼はせんというのか
 司令官がたずねた
 そう
 もう敬礼などしませんよ
 鳥が答えた
 ははあ なるほど
 これは失礼 だれでもわしには敬礼すると思っておったが
 司令官はいった
 なあに 結構 まちがいはだれにもあります
 鳥が答えた。

□ジャック・プレヴェール(大岡信・訳)「自由な街」(橋本一明・安東次男・大岡信・訳『アラゴン詩集・エリュアール詩集・プレヴェール詩集 ~世界詩人全集 第18巻』(新潮社、1968)所収)
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【古賀茂明】テレビコメンテーターの種類 ~テレ朝問題(7)~

2015年04月17日 | 社会
 (1)3月27日のテレビ朝日「報道ステーション」における古賀発言をめぐり、「古舘伊知郎vs.古賀茂明のバトル」という面ばかりがクローズアップされ、面白おかしく報道されている。
 官邸から見れば願ってもない展開だ。より本質的な
   「権力による報道の自由の抑圧」
という論点が全く陰に霞んでしまうからだ【注】。

 (2)「官邸からの圧力があった」ことについて異論を唱えるコメンテーターがいる。これが、本質論がなかなか展開されない原因の一つだ。
 現実に取材をしているまともなジャーナリストなら、権力側がいかにして(直接的な圧力も含めて)、異例なまでのマスコミ工作を繰り広げているかは周知の事実だ(すでに報道も行われている)。
 自分で取材しないか、偏った取材をしている自称「ジャーナリスト」だけが、こうした愚かなコメントを繰り返す。彼らの罪は重い。視聴者が、これに騙されて、「圧力はあったか」という入口の議論に関心を向けてしまい、本質論にたどり着けないからだ。

 (3)市民を惑わせる(2)のようなコメンテーターは多いのだが、彼らは3つに分類することができる。
   (a)そもそも政権寄りなので、政権側から圧力を受けるはずがない人たち。
   (b)テレビ局に媚びて出演機会を確保する人たち。その多くは自分の信念などなく、自ら局側の意向を汲んでコメントする。このグループが一番多い。テレビ出演で名前と顔を売ることが最優先。他番組への出演や講演の依頼が増え、ギャラが上がり、本が売れる。彼らも圧力とは無縁だ。
   (c)政権の監視や批判がマスコミの重要な役割だ・・・・ということは分かっているのだが、人間が弱く、信念を貫けない人たちだ。
      ①テレビの外では、けっこう政府批判もするが、在京キー局の本番では本質を避ける。番組外でのイメージがあるので、もやもやした発言でも真面目なコメントとして視聴者は受け入れてしまう。
      ②「出られなくなれば政権批判も何もできない」と、彼らは必ず言い訳する。・・・・しかし、その考えでは、政権の圧力によってテレビ局が自粛を強めるに従って、自分の発言の自主規制ラインも自動的に狭まってしまう。
      ③②のような行動を続けていると、最初は常に問題意識を持っていた人でも、いつのまにか自動的に政権の言うことに合わせるように変わってしまい、さらには、自分が変わってしまったことにさえ気づかなくなる。

 (4)(3)-(c)は、コメンテーターだけではなく、現場の記者やディレクターについても言える。
 古賀茂明が自分の考えを妥協しないで発言するのは、それを続けなければ自分自身が変わってしまう、と思うからだ。
 そのことをマスコミの人たちに考えて欲しい・・・・そう思ったから、古賀茂明は「報道ステーション」で、最後にマハトマ・ガンジーの次の言葉を紹介した。
 「あなたのすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである」

 【注】記事「「放送法」でTV局を牽制 そもそもの理念は?」(朝日新聞デジタル 2015年4月16日)によれば、
 <(3月27日の報ステにおける発言の)真意について朝日新聞の取材に応じ、「(テレビ局側に)政府批判を自粛するムードが広がっている。背後には政権与党の(テレビ局への)圧力と懐柔があると考えている。この二つを伝えたかった」と語った。
 「圧力」とは、首相がフェイスブックで民間人を非難したり、政治家が「放送法」を持ち出してメディアを牽制したりすることなどを指すという。
 古賀氏によると、第一に権力が圧力と懐柔でマスコミを抑え、第二にマスコミのトップが戦わなくなり組織全体として自粛し、第三に、現場の記者らが問題意識さえなくしてしまうとして、「今は第三段階の入り口まできており、危機感を抱いている」と話した。
 実際、政権側がテレビ局に注文を付ける例がこの半年で相次いでいる。自民党は昨年11月、報ステのアベノミクスの取り上げ方を問題視し文書で「公平中立」を求め、NHKと在京民放キー局にも衆院選報道での街頭インタビューに偏りがないようになどと注文を付けた。>

□古賀茂明「テレビコメンテーターの種類 ~官々愕々第151回~」(「週刊現代」2015年4月25日号)
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 【参考】
【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~
【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~
【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~
【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~
【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~

【報道】古賀氏ら降板の裏に新事実 ~テレ朝問題(6)~

2015年04月16日 | 社会
 (1)官邸の圧力によって、テレビ朝日「報道ステーション」のM・統括プロデューサー、古賀茂明・コメンテーター、恵村順一郎・コメンテーターは同時期に更迭・降板させられたのか否か。
 3月27日の同番組で、古賀氏は、楽屋における古館伊知郎・キャスターとの会話を録音したことを明らかにした。
 <(報ステに出演した)3月6日、古館さんは僕の楽屋に来てこう謝罪しました。「自分は何もしなかった」「Mプロデューサーと、恵村順一郎さんが降板することについて、気付いても自分はわざと知らないふりをした」と打ち明け、「大変、申し訳ない」と頭を下げました。>

 (2)古館氏はしかし、番組中に、
   ・早河洋・テレビ朝日会長と佐藤孝・古館プロジェクト会長の意向で古賀氏が降板になった・・・・ことを否定し、
   ・メディアの政権監視機能が低下している・・・・という古賀氏の批判に対しても、「(報ステで)いい番組を作っている」と反論した。

 (3)実は、古館氏のいわゆる「いい番組を作って」いた中心人物こそ、Mプロディーサー(古賀氏が「更迭」と訴えた)なのであった。彼は、報ステの前身「ニュースステーション」時代からディレクターを務めたベテランで、古賀氏は次のように高く評価する。
 <政府を批判するとニュースをもらえなくなると横やりを入れる政治部や経済部の記者たちを一喝。抗議が来たら真正面から反論、幹部の圧力にも自分が矢面に立った。>
 権力監視・批判番組を作ってきた報ステの屋台骨のような存在だった、というのだ。

 (4)菅義偉・官房長官は、3月30日の記者会見で、古賀氏の発言を「まったくの事実無根」と反論した。さらに、放送法に言及しながら「テレビ局の対応を見守りたい」と付言した【注】。
 しかし、古館氏が、
    Mプロディーサーの更迭を(1)で示したように古館氏自身も問題視していたのに、、
    番組では更迭を否定する虚偽発言をしていた
・・・・のであるならば、古館氏の方こそ、放送法に違反する発言をしていたことになる。
 古館氏が楽屋における発言内容を認めた場合、官邸の圧力がテレ朝の人事に影響を与えた実態が明らかになる。

 【注】記事「「放送法」でTV局を牽制 そもそもの理念は?」(朝日新聞デジタル 2015年4月16日)は指摘する。
 <放送法は戦後間もない1950年、日本の非軍事化、民主化の一環として生まれた。改正を重ねたが基本は変わらず、第1条では目的として、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現を確保すること」を定め、「健全な民主主義に資する」とうたう。
 放送法に詳しい大石泰彦・青山学院大学教授(メディア法)は「放送法は戦時中の教訓に学び、権力から放送を独立させるためにできた。放送局を締めつけるものではない。権力側が振りかざすものではなく、むしろ介入を抑制すべき性質のものだ」と指摘する。
 第3条は「番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」とあり、権力側が「報道は事実をまげないですること」など第4条だけを取り上げてメディア側を牽制するのは、「自分たちに都合のよい解釈で、法律をはき違えている」と大石教授は批判する。(中略)
 日本民間放送労働組合連合会は自民党の報ステへの注文について「報道への介入だ」と抗議したが、テレ朝をはじめ放送局側が抗議する姿勢はみられない。
 放送に詳しいジャーナリストの坂本衛さんは「本来なら放送法を武器に、政治圧力をはねのけなければならない。いくらテレビ局が『政権による圧力の影響は受けていない』といっても、視聴者からの疑念はぬぐえない。はっきり声をあげるべきだ」と話す。>

□横田一「報ステ、古賀vs.古舘論戦の裏側 Mプロデューサーと恵村氏、古賀氏降板に新事実」(「週刊金曜日」2015年4月10日号)
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【報道】ジャーナリズムの役目と現状 ~テレ朝問題(5)~
【古賀茂明】氏を視聴者の7割が支持 ~テレ朝問題(4)~
【古賀茂明】氏、何があったかを全部話す ~テレ朝「報ステ」問題(3)~
【古賀茂明】氏に係る官邸の圧力 ~テレ朝「報道ステーション」(2)~
【古賀茂明】氏に対するバッシング ~テレ朝「報道ステーション」問題~