京のおさんぽ

京の宿、石長松菊園・お宿いしちょうに働く個性豊かなスタッフが、四季おりおりに京の街を歩いて綴る徒然草。

空から見ても大文字

2009-08-16 | インポート

    「(前略)京都へ来て叡山が見えなくなっちゃ大変だ」

 

 夏目漱石『虞美人草』の冒頭に近いところで、このような主人公のセリフがあります。

 「叡山」というのは、いうまでもなく、比叡山のことです。

 この小説は明治時代後期のもので、漱石自身、執筆に先立って京都を訪れています。

 この作品も同時代を舞台としており、つまり、ここでいう京都、というのは、明治後期の京都というわけです。

 さて、その心積もりで現代の京都を歩いてみると、こいつは大変だ、となってしまいます。

 現代の京都では、街中で比叡山が見える場所はかなり限られてしまいます。

 それは西の愛宕山にしても、あるいは東山三十六峰にしてお、事情は似たようなもの。

 まるで見えないわけではないですが、見渡せるような場所もほとんどありません。

  

 さて、本日は五山送り火。

 五山の送り火も、やはり同じような事情。

 年配の方の話によく出てくるのは、

「昔はうちから五山全ての送り火が見えたんだけど……」

 といったような言葉。

 全てではなくても、鳥居形以外は全部見えた、といったような具合です。

 今では望むことのできない光景。

 その時代に生きていなかった者としては、知っているだけでも羨ましい話。

 しかし、知っているからこその寂しさ、というのもあるのでしょう。

 

 かく言う当館も、低い建物ではないんです。

 そのお詫び、というわけではないですが、この日、宿泊のお客様に屋上を解放させていただいております。

 五山全部、というのはちょっと無理ですが。

 大文字に関しては、かなり間近に見ていただけます。

 自慢にしてしまっては、近隣の方に申し訳ないですが。

 なかなか贅沢な時間をすごすことができます。

 今年間に合わなかった方は、是非来年にでもお越しください。

”あいらんど”