山と渓谷 12/11(金) 8:00

アイヌ語研究の第一人者、故・萱野茂氏が、祖母や村のフチから聞き集めたアイヌと神々の13の謡(うた)を収録した『アイヌと神々の謡』。ヤマケイ文庫『アイヌと神々の物語』の対となる名著です。北海道の白老町に「ウポポイ(民族共生象徴空間)」もオープンし、アイヌについて関心が高まる今、本書からおすすめの話をご紹介していきます。第11回は鳥たちの楽しい宴の席で起きたできごとの謡です。
カケスとカラス
ハンチキキ シネ・アマム・プシ
一つのヒエの穂
ハンチキキ チ・プ・イカレ
倉から降ろし
ハンチキキ チ・キソキソ
その穂を皆で白にした
ハンチキキ サケ・ネ・チ・カラ
酒を醸(かも)しに
ハンチキキ イワン・シントコ
六つの行器(ほかい)
ハンチキキ ロロ・チョ・ライェ
上座へ据え
ハンチキキ イワン・シントコ
六つの行器
ハンチキキ ウトゥル・チョ・ライェ
下座へ据え
ハンチキキ トゥク・コ・レレコ
二日か三日
ハンチキキ シラン・テッ・コロ
過ぎたある時
ハンチキキ トノト・カムイ
酒の神が誕生し
ハンチキキ カムイ・フラ
神の芳香
ハンチキキ チセ・オンナイ
家懐(ふところ)に
ハンチキキ エ・トゥシナッキ
渦(うず)を巻いた
ハンチキキ ウ・キ・ルウェ・ネ
それをかいだ
ハンチキキ タポロタ
わたしは
ハンチキキ カムイ・オピッタ
神々全部を
ハンチキキ アシケ・ア・ウッ
招待して
ハンチキキ イク・マラプト
飲みの宴(えん)を
ハンチキキ イペ・マラプト
食いの宴を
ハンチキキ ア・ウコマシテッカ
繰り広げた
ハンチキキ タポロタ
そのうちに
ハンチキキ エヤミ・オッカヨ
カケス男が
ハンチキキ タプカラタプカラ
立ち上がり
ハンチキキ ソイワ・サムワ
舞(まい)を舞いつつ
ハンチキキ オ・シ・ライェ
外へ出て
ハンチキキ シラナイネ
しばらくして
ハンチキキ シネ・ニセウ・ヌム
ドングリ一つ
ハンチキキ エ・クパ・カネ
口にくわえて
ハンチキキ アフプ ・キワ
入ってきた
ハンチキキ サンシントコ・オロ
酒桶(さかおけ)の中へ
ハンチキキ エカッタナ
トポンと入れた
ハンチキキ タンペクス
それを見た
ハンチキキ カムイ・オピッタ
神々全部が
ハンチキキ エ・ウ・ミナレ
笑い転げた
ハンチキキ タプ・シリキヒ
その様子を
ハンチキキ パシクル・オッカイ
横目で見ていた
ハンチキキ ヌカラ・キ・ワ
カラスの男
ハンチキキ タプカラタプカラ
舞を舞いつつ
ハンチキキ ソイワ・サムワ
家の外へ
ハンチキキ オ・シ・ライパ
出ていった
ハンチキキ シラナイネ
しばらくして
ハンチキキ ウェッ・シリ
入ってきた
ハンチキキ エネ・オカ・イ
その様子は
ハンチキキ ポロ・シ・タッタッ
大きな糞(くそ)の塊
ハンチキキ エクパ・カネ
口にくわえ
ハンチキキ サンシントコ・オロ
酒桶の中へ
ハンチキキ エカッタナ
トポンと入れた
ハンチキキ タポロワ
それを見た
ハンチキキ ウェン・サカヨ
神々は
ハンチキキ ア・ウコ・プンパ
大いに怒って
ハンチキキ ア・ヌヌケ・サケ
大事な酒
ハンチキキ ウプソロロケ
その懐(ふところ)へ
ハンチキキ フンナ・ネ・クル
どこの者が
ハンチキキ シ・オマレ・パン
糞を入れる
ハンチキキ セコラン・サカヨ
そういいながら
ハンチキキ アン・ルウェ・ネ
カラスの男へ
ハンチキキ キ・ロッ・アイネ
群がり襲った
ハンチキキ パシクル・オッカヨ
カラスの男
ハンチキキ アウコプップク
今はもう
ハンチキキ ア・ライケ・ノイネ
殺されそうに
ソッソキヤッ タンペ・クス
なってしまった
ソッソキヤッ エソッソキ・オッカヨ
シギの男 私は
ソッソキヤッ アコアスラニ・クス
仲裁(ちゅうさい)頼みに
ソッソキヤッ トアニウンワ
あちらへ行き
ソッソキヤッ タアニウンワ
こちらへ走り
ソッソキヤッ アラパ・アナヤッカ
したけれど
ソッソキヤッ カムイ・ウタラ
神々が
ソッソキヤッ エネ・イターキ
異口同音に
ソッソキヤッ サケ・エチ・コロワ
いう言葉は
ソッソキヤッ イタカ・ヤクン
最初から
ソッソキヤッ アラパ・アン・ワ
招待するなら
ソッソキヤッ ア・タンネ・タミ
走っていき
ソッソキヤッ ア・トゥリトゥリ
長い刀や
ソッソキヤッ アタッネ・タミ
短い刀を
ソッソキヤッ ア・トゥリトゥリ
私ら伸ばすと
ソッソキヤッ キ・ワ・ネヤクネ
どんなけんかも
ソッソキヤッ サカヨ・ラッチ
すぐ静まるで
ソッソキヤッ キ・ワ・ネコロカ
あろうけれど
ソッソキヤッ サケ・アニ・タ
酒がある時
ソッソキヤッ イ・ヨイラ・ヒネ
われらを忘れ
ソッソキヤッ サカヨ・アニタ
けんかがあって
ソッソキヤッ イイェシカル・ンヒ
思い出される
ソッソキヤッ ア・ルシカ・クス
腹が立つから
ソッソキヤッ ソモ・アラパ・アンナ
行かないよ
ソッソキヤッ カムイ・オピッタ
神々全部が
ソッソキヤッ エネ・ハウォカ
そういった
ソッソキヤッ タイェクス
そういわれて
ソッソキヤッ イワカナクス
帰ってくると
ソッソキヤッ パシクル・オッカヨ
カラスの男は
ソッソキヤッ ア・ラ・コ・タタ
羽根の先まで
ソッソキヤッ ア・ラ・コ・フムパ
斬りきざまれて
ソッソキヤッ トゥライウェンライ
死んでいた
キ・ワ・イサム・クス
だから
タネ・オカ・ウタラ
今いる人よ
サケ・コロ・パ・チキ
酒をもったら
カムイ・ウタラ
神々を
ソモ・オイラ・ノ
忘れないで
アシケ・アアニプ
招待を
ネシコロ
するものですよと
アマメチカッポ
スズメの神が
ハウェアン・シコロ
いいましたと
語り手 平取町二風谷 貝沢とぅるしの
(昭和41年1月18日採録)
※アイヌ語本文の次の行に、日本語訳を置いています(ただしアイヌ語本文と訳文とはその位置が必ずしも一致していません。訳すにあたって、日本語の言葉の流れをよくするため、3行から5行くらい先取り、あるいは後の行へ移した場合があります)。
解説
このカムイユカラ(神謡)の主役はアマメチカッポ(スズメ)です。たった一穂(いっすい)のヒエを精白にして、六つの酒桶を家の中の上座と下座へ据えます。大勢の神を招待して飲みますが、カケスはドングリを酒桶へ入れて笑いを呼び、カラスは糞の塊を入れ、殺されてしまいます。
サケヘが、前半はハンチキキといって、後半はソッソキヤッになります。
貝沢とぅるしのフチ(おばあさん)の語りには、いい忘れがかなりありましたので私が補足しましたが、補足できるわけは、この話は子どもの時に祖母てかってから何回となく聞かされていて、よく記憶していたからです。
この話の教えは、酒があって人を招待する時には、招待もれのないように、ということです。けんかが始まってから、仲裁が必要であわてて思い出されても行きませんよ、と神々は怒っているわけです。
「私たちなら長い刀や短い刀を伸ばすと、けんかなどはすぐやむのに」といっている神は、くちばしの長いツルとか、その他大形の鳥でしょう。
したがって、この酒宴に集まっているのは形の小さいスズメなどで、大きくてもカケスにカラスというところです。仲裁を頼みに走った鳥はチピヤッ(シギ)です。そこでサケへの後半はソッソキヤッと、前半とは違う鳥の羽音(はおと)というか鳴き声になっています。
酒を醸す時は、ヒエとかアワあるいはトウモロコシを精白にして、それで粥(かゆ)を煮て人肌ぐらいに冷ましてから麹を混ぜます。二日か三日で甘味がついて、四日から一週間すると、アルコール分が増してきます。長く置いた方がきつくなりますが、だいたい二週間ぐらいで発酵が止まるので、それ以上長く置かないことになっています。
※本記事は『アイヌと神々の謡~カムイユカラと子守歌~』(山と溪谷社)からの抜粋です
https://news.yahoo.co.jp/articles/1cfa772741c251cdd71eaee47a61a331129010d4