20階の窓辺から

児童文学作家 加藤純子のblog
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新刊2作ご紹介

2011年12月06日 | Weblog
 親しい作家、おふたりの新刊をご紹介いたします。
         

『ワンス★アホな★タイム』(安東みきえ・理論社)
 ご存知、『頭のうちどころが悪かった熊の話』(理論社)の作者・安東みきえさんの、7つのお伽話集です。
「おめざめですか、お姫さま」
「バカなんだか利口なんだか」
「きみの助言」
「魔法のパンの実」
「ウミガメの平和」
「呪われた王子たち」
「木霊の住む谷」
 いずれも、エスプリとウィットに富んでいる短編集です。
 こうしたお伽話集は『頭のうちどころ・・・』『まるまるアルマジロ』(理論社)に続くものです。
 けれどこの作品で、安東みきえさんは、ますます筆の冴えを見せています。
 言葉をかえれば、安東さんは、こうした物語を描くための世界観への性根が座ってきたというか、さらに肝が座った気がします。
 その開き直りが、とても小気味いいです。
 お話の味つけには「人間へのいとおしさ」というスパイスが、こっそりと隠されています。
 そうした味つけで、人間の持っている「毒」や「滑稽さ」を思いきりデフォルメして描くことで、人間の真実をつかまえようとしています。
 喉もとを駆け上がってくるような苦みと、「なるほど!」と思わず膝をたたきたくなるような快感。
 そのバランスが絶妙で、お見事です。
 今回の作品で、安東みきえは、前2作よりさらに吹っ切れたような気がします。
 そのすべてを吹っ切ってしまった安東みきえの強さと小気味よさに、読んでいて胸をゆさぶられました。

          

『夏のサイン』(最上一平・角川学芸出版)
 ご存知、最上一平さんの新刊です。
 最上一平という作家も、文章のお上手さには定評のある人です。
 この作品でも、主人公の「つばさ」と、もうじき転校するため別れる、親友の「りんちゃん」を描きながらも、脇役として登場する人たちの描写には、唸らされます。
 
 とうもろこし畑の「よしえばあさん」
 ひとり暮らしの「ナナばあちゃん」
 ロン毛の「きいちゃん」
 
 老人を描かせたら、最上一平の筆は天下一品です。

 また、その端役たちから生まれてくる「食べ物」のおいしそうなこと。
 おいしそうな食べ物は、物語の山場、「つばさ」と「りんちゃん」ふたりっきりのキャンプへつながっていきます。
 転校していく「りんちゃん」とふたりのキャンプで作ったカレー。こっそり冷蔵庫から盗んできたビール。スナック菓子やクッキー。
 それらをたらふく食べて、寝ころんだふたりの目の先には・・・。
 ふたりで見つめた宇宙の銀河。
 夏の夜の特別な時間に、読者は胸を打たれます。

 物語を流れている「獅子舞」の唄いも、印象的です。

 皆さま、どうぞこの2作、お読みになってください。
コメント (2)
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