寒椿というと、秩父の父がよく、備前の壷に投げ入れていたことをおもいだします。
萩の花と同じく、父が愛したのが寒椿の花でした。
そんな父の生けた寒椿を見て、母が、
「花弁ごと散ってしまう椿は、好きじゃない」
と、嫉妬とも思える眼差しで言っていたことを思い出します。
雪景色と、灰色の冬の空。
モノトーンの世界に浮かぶ、真っ赤な寒椿のあでやかさ。
妖艶とも思える、紅の色です。
一面の雪景色のなかに、真っ赤な花弁がぽとりと落ちていく。
そのさまは、いさぎよいといったら、いさぎよいのかもしれません。
でもうつくしく咲いた花なら、はらはらと花びらを散らしてくれるほうが、女にとっては心が落ち着きます。
春の桜がそうであるように・・・。
あるいは、さびしさをただよわせた寒椿のいさぎよさのなかに、母は、大胆で奔放なすがたを見たのかもしれません。
そんなすがたに、思わず嫉妬する・・・。
いまとなっては、すでに亡くなってしまった母に、そんな話は聞くことができませんが。