シンポジウム 「時間のなかの建築」 ─リノベーション時代の西洋建築史─
近代的な「開発」に対して「保存」で対抗するという「開発vs.保存」の二項対立に対して、「リノベーション」は第3極として位 置付けることが可能だろう。古い建物を開発する(破壊し、更地にして建てる)のでもなく、古い建物を保存する(究極的には、建 築の時を止める)のでもなく、古い建物を「再利用する」のがリノベーションであると言うことができる。そう思って振り返ってみ ると西洋の建築は、歴史のなかのきわめて長い期間「再利用」を当たり前の手法としてきたことがわかる。 都市の再開発という現象は、16世紀以降の西ヨーロッパにおいて、顕著に登場してくる。中世に建設された高密度に建ち並んだ都 市住宅が破壊され、新たな直線道路や広場といった要素が都市のなかに散りばめられる。こうした「破壊」を伴う「開発」に対して、 「文化遺産」という観点から「保存」という概念が登場するのはようやく19世紀になってからのことである。すなわち、「開発vs.保 存」という対立は、16世紀に端を発して現代まで続く問題と、19世紀に端を発して現代まで続く問題の対立軸なのである。 それに対して「リノベーション」は断じて近年の一時的流行などではない。上記の構図で言えば、16世紀にはじまる「都市の再開 発」という近代的なコンセプトが登場する遥か以前から、建築は当たり前のように既存構造物や部材の再利用を続けてきたのである。
たとえばゴシック建築誕生の瞬間として知られるサン=ドニの教会堂。1140年前後に修道院長シュジェールが行ったのは、8世紀 に建設された聖堂のリノベーションであり、新しいファサードと初期ゴシック様式の内陣を建設して古い身廊とつなぐことだった。 シュジェールは「古い建物と新しい建物の適合性と一貫性」に心を砕いたことを強調している。シュジェールは、イエス・キリスト その人が出現し手を触れることで聖別したという伝説ゆえに古い身廊をそのままに残したが、13世紀になると聖王ルイ9世の下で建 築家ピエール・ド・モントルイユが身廊と交差廊を壮麗なレイヨナン式の盛期ゴシック様式に改築した。この建築家は、シュジェー ルの時代に建設された内陣の外側をめぐる周歩廊部分を残しながら、彼がリノベーションした新しい身廊と融合させたのである。こ のとき、カロリング時代の身廊は破壊されたが、初期ゴシック時代の周歩廊は残された。 一部が破壊され一部が保存されたといえば簡単に聞こえるが、シュジェールの言う新旧の「建物の適合性と一貫性」をデザインす ること、そして両者を構築的につなぐことには、すべてを新築するのとは異なる難しさがあるはずである。彼らはどのようにリノベー ションをデザインし、どのように構築したのか。こうした観点から西洋建築史を再考してみたい。
竣工時点で建築を評価しようとする価値観を、「20世紀的建築観」と呼んでみよう。建築は竣工年代によって並べられ、建築のク ロニクルとなってきた。それは新築されるたびに建築雑誌で発表されていく現代建築についても、竣工年代ごとに「様式」として体 系化されてきた歴史的建築についても同様である。実際には時間の流れのなかで多くの改変を受けて、「竣工時点」という観点から は語りえない西洋の歴史的建築を、これまでわれわれは「20世紀的建築観」によって見てきた訳である。本シンポジウムではこのよ うな「20世紀的建築観」から脱却し、新たな建築観の構築を目指したい。
パネリスト(50音順) 伊藤喜彦(東海大学) 岡北一孝(大阪大学) 黒田泰介(関東学院大学) 中島智章(工学院大学) 松本 裕(大阪産業大学)
コメンテーター(50音順) 島原万丈(Home’s総研) 宮部浩幸(SPEAC,inc.) 横手義洋(東京電機大学)
総括
三宅理一(藤女子大学)
趣旨説明・司会
加藤耕一(東京大学)
問い合わせ
東京大学 大学院工学系研究科 建築学専攻 加藤耕一研究室(k-kato@arch.t.u-tokyo.ac.jp)
息子が主催しているシンポジウムだそうです。
blogで宣伝してくれなくてもいいけど参考までにと、チラシを送ってくれました。
リノベーションという現代的なテーマなので、ご興味のおありの方がいらしたら、と・・・。
11月29日〔土)13:00~ 東京大学工学部1号館15号講義室 入場無料。