中里保子さんの「富士山」をご紹介します。凹凸のあるガラスにはまるで絵画のような色模様があり、美しい景色を映し出しています。
同じアートガラスでも部分によって表情が違うので、表側と裏側で少し違った景色になっています。
ガラスの凹凸が陰影を演出し、独特の表情を見せますが、このガラスは手に取るとその感触が気持ちよいのです。
底面はオーバル型で覗き口のあるトップから見るとかなり広がっています。
このボディの中には先に向けて広がった逆テイパードのミラーシステムが組み込まれています。 映像の中心が偏ることなく、しかも大きな映像を生み出すことができますが、通常のミラー組みに比べて、さらに精度の高さを必要とされます。
中里さんの作品へのアプローチはいくつかあると思いますが、よくおっしゃるのが魅力的なガラスとの出会いです。
このガラスではこんなものを表現したいと感じ、デザインや仕組みを練り上げて、形に仕上げるそうです。
「富士山」シリーズは本物の富士山が見せる変化に富んだ様々な美しさを、アートガラスから作り上げることに挑戦するシリーズ作品ですが、同じもののない中里さんの「富士山」との出会いを生み出しています。
背景のガラスの模様も映り込み、映像に陰影を与えます。
4ポイントという比較的鏡の角度の広い組み方、そして逆テイパードで広がりのある大きな映像においては、それぞれのオブジェクトの形や多きさ、質感が映像に大きく影響します。バランスの取れた美しい映像を生み出すために選び抜いたオブジェクトであることがわかりますね。
感性と想像力と創造力がアート万華鏡を生み出し、共感を呼ぶのだなあといつも思わされる作家さんです。