川本ちょっとメモ

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「美しい国」は「滅びの美学」につながる

2007-01-02 13:26:03 | Weblog


安倍首相は「美しい国」を作りたいという。私は思う。四季折々の日本の景色は、言われずとも美しい。

私は京都出身だが、キモノ文化は美しい。華道の宗家も京都に多いが、生け花は美しい。書でさえ、私は美しいと思う。このあたり、日本文化に安倍首相がつけ加えるものは何もない。

それとは別に「滅びの美学」ということばがある。

平家の壇ノ浦での滅亡、源義経の平泉での敗死、赤穂浪士の討ち入り、明治維新・内戦での会津藩の敗亡と白虎隊の自殺、西郷隆盛と薩摩士族の敗亡、昭和・日米戦争での回天特別攻撃隊や神風特別攻撃隊の若者の非業の死。こういったものに「美」を見出すものだ。

国のために戦死した者への賛美の源には、文化の観点において、「滅びの美学」があると思う。

壇ノ浦で那須与一が平家の女官の持つ扇を射落とす場面は、魅力的で私も好きだ。赤穂浪士の討ち入りの映画やテレビは、何度見ても飽きはしない。会津藩の抵抗は涙を誘う。私も「滅びの美学」は好きなのだ。特別攻撃隊は戦争指導者の無情酷薄の証しで、「美」とは無縁だが……。

「滅び」をめざす者はいない。そういう指導者もいない。しかし、安倍首相の「美しい日本」は「滅びの美学」につながっていくと、直感的に怖れる。彼は「靖国」が好きだ。

日本文化の美は、そして伝統美は、能楽や歌舞伎にしても、和歌にしても舞にしても、すでに厳として確立しているのだ。平成日本にそのうえ何かをつけ加えるとしたら、そういうものしか残っていないではないか。

 「滅びの美学」は情緒的には美しい。しかし、実生活の上では、このうえなく苦悩を招く。自分や家族が、その死傷の当事者や遺族になりたいと思う者はいないはず……。安倍首相はきっと、自分だけは逃げて生き延びるだろう。


           ※安倍晋三 著『美しい国へ』(文春新書 2006/7/21刊



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