川本ちょっとメモ

★所感は、「手ざわり生活実感的」に目線を低く心がけています。
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国会審議の重要さを示す「法規の間の順位」 法律 → 政令(施行令) → 省令・府令(施行規則) → 告示・通達……このうち「政令」以下のすべては政府の専権事項

2018-11-27 23:14:17 | Weblog

2018-11-26
<安倍政府> は「法令私物化」「官僚私物化」の点で戦後最悪ではないのか



政治行為によって決まったことは、行政を通じて実行に移されます。
行政行為は、国会で採択された法律に従って行われます。

法律に基づいて政令(施行令)、省令・府令(施行規則)、告示・通達が決められます。

しかし、法律以外のこれらの制定は政府単独で執行されます。
一般的には、政府の外の人間が政令以下の制定過程に関与することはできません。

野党国会議員は、政府と異なる意見を持つ人たちや政府が気づいていない事柄について要望のある人たちを代表しています。

国会議員が、意見を開陳したり、政府案の改善を求めたりできる場所は、国会の法案審議しかありません。

政府提出法案が可決された後に、野党議員が関与できることはありません。

ですから、政府法案を事細かく検討して、政府法案の欠点を指摘し、改善を慫慂できる国会審議に全幅の期待をかけるよりほかに、わたしたち力のない普通人にできることがありません。

国会審議はそれほどに貴重です。悪政ばかり次々にくりだしてくる安倍政府の時代は、普通の人々にとって生活水準が下落していく時代です。

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法律(△△法)は、国会の議決によって成立します。
政令(△△施行法)は、内閣が制定します。
省令・府令(△△施行規則)は、各大臣が制定します。
通達・告示は法令規則に基づいて局長等が発する行政上の解釈・告知です。
地方自治体は、政府本省から発せられる「通達」に忠実に行政を執行しなければいけない立場にあります。

こうしてわたしたちの生活は地方自治体や警察を経由して政府の国家統治に服しています。法律の国会審議がわたしたちの生活を左右します。

きょう2018.11.27.のような、政府・与党の乱暴な国会運営では、法律の審議について政府・与党の見識や国民を思いやる気持ちなどこれっぽっちも見当たりません。


〇「法令」=「法律」+「命令」の総称である

〇「命令」=「政令・省令」の総称である
      裁判所の判断という意味の命令とは別の概念


(種別)  (制定機関) (名 称)
 法律     国会    △△法
 政令     内閣    △△施行令
 省令・府令  各大臣   △△施行規則
 告示     公的機関  △△表


<法律>
 成立(憲法59条1項)……国会の議決により成立する
 署名(憲法74条)  ……主任の国務大臣が署名する
              内閣総理大臣が連署する
 公布(憲法7条1号) ……天皇が公布する

<政令>
 内容 (ア)法律の実施に必要な規則
    (イ)法律が委任した事項
 制定(憲法73条6号)……内閣が制定する
 署名(憲法74条)  ……主任の国務大臣が署名する
              内閣総理大臣が連署する
 公布(憲法7条1号) ……天皇が公布する

<省令>
 内容 ……法律・政令を施行するための規則
 制定 ……各省大臣
 

■国家行政組織法

第十一条 各省大臣は、主任の行政事務について、法律又は政令の制定、改正又は廃止を必要と認めるときは、案をそなえて、内閣総理大臣に提出して、閣議を求めなければならない。

第十二条 各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる。
2 各外局の長は、その機関の所掌事務について、それぞれ主任の各省大臣に対し、案をそなえて、省令を発することを求めることができる。
3 省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。

第十三条 各委員会及び各庁の長官は、別に法律の定めるところにより、政令及び省令以外の規則その他の特別の命令を自ら発することができる。
2 前条第三項の規定は、前項の命令に、これを準用する。

第十四条 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、公示を必要とする場合においては、告示を発することができる。
2 各省大臣、各委員会及び各庁の長官は、その機関の所掌事務について、命令又は示達をするため、所管の諸機関及び職員に対し、訓令又は通達を発することができる。



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<安倍政府> は「法令私物化」「官僚私物化」の点で戦後最悪ではないのか

2018-11-26 23:03:59 | Weblog

2018-11-27
国会審議の重要さを示す「法規の間の順位」 法律 → 政令(施行令) → 省令・府令(施行規則) → 告示・通達……このうち「政令」以下のすべては政府の専権事項


政治は、法律を新たに作ったり、条文内容の変更・新たな条文の追加・既存の条文の廃止を行います。これら法律の新設・追加・変更・廃止の案文、すなわち「法案」の大方は、政府が作成して国会に提出します。国会議員には立法権があるので、議員作成になる「法案」も国会に提出されます。

こうした法案を審議し、採決するのが、国会の仕事です。しかしながら、安倍政府に際立っている強権政治では、次に書くような国会運営が行われて、なかなか審議が進みません。

それでいて、形ばかりの審議の最後には強行採決で、法案が安倍政府お望みどおりの「法律」になります。「安倍政府の法令私物化」と呼ぶゆえんです。

安倍政府は、「憲法9条の解釈変更は政府の行為として合憲である」という理屈を通すために、最初の作業として、政府内部の法案解釈機関である内閣法制局長官を更迭しました。

内閣法制局というのは政府が作る法案のお目付け役で、時の政権に対して公正な立法や法解釈を提言する役割があります。ところが、新しい内閣法制局長官はそんなことを意に介さず、安倍首相の小間使いとして、十二分な働きをしました。

自民党議員の口ぐせである「国家国民のために」働くべき高級官僚であるはずが、法制局長官「安倍首相個人の下僕」である立場を忠実に実行しました。

「森友学園・国有地ほぼ無償払下げ問題」では、財務省理財局の局ぐるみ「森友関連公文書改ざん問題」が発覚しました。これは多くの公文書を組織的に書き換えるもので、実質は「公文書変造」または「公文書偽造」であり、本来は「犯罪」です。

自民党議員の口ぐせである「国家国民のために」働くべき高級官僚であるはずが、財務省理財局長もまた、自らの地位を犠牲にし、国会で幾重にも恥をさらし、部下の自殺をも顧みない冷血ぶりを露わにしてまで、「安倍首相個人の私利」に尽くしました。加計学園問題における首相秘書官も同類です。2、3年過ぎてほとぼりをさました後に、両人とも、「安倍様御奉公」の賜物として良い天下り先を与えられるでしょう。

前国会では、政府自称「働き方改革法案」の国会審議資料として、厚生労働省が提出したデータにとんでもないまちがいがありました。政府にとって「有利な方向へのまちがい」なので、「意図的なもの」と受け取られてもしかたありません。

「働き方改革法案」経団連御用達法案と言えます。労働者派遣法の制度化が定着して、正規社員減少=非正規社員増加への転換が進み、経済界全体としての人件費切り下げが完了しました。第2弾は正規社員の全体的な人件費切り下げを狙う法案でした。

今国会では目下の争点になっている「外国人労働力輸入法案」でも、外国人労働者の労働実態調査の報告書にまちがいが発覚しました。これも政府にとって「有利な方向へのまちがい」なので、「意図的なもの」と受け取られてもしかたありません。「安倍政府の官僚私物化」が招いた政府組織の荒廃です。

目下の争点である外国人労働の規制緩和は、日本人非正規社員と同様か、実態としてはもっと安い給与で外国人労働者を使おうとするものです。これまでの出稼ぎ外国人に対する日本政府の取り扱い方を見る限り、給与以外の点の職場環境や労働環境に非正規社員と同様の、あるいはそれ以上の課題がのこされたままになっています。

「外国人労働力輸入拡大法案」は、英国のEC脱退の引き金にもなり、仏・伊で選挙結果に影響を与えるほどにもなった移民問題をわが日本国内でも醸成していくきっかけになるでしょう。この法案の乱暴さ、粗雑さは、まったく信用ならないデータをもとにして国会質疑が行われ、そのことについて担当大臣が陳謝するという事態を引き起こしました。

国会質疑では時間制限があって、時間はたいへん貴重なものです。大臣や政府側委員は質問趣旨に的確に応じた答弁をしなければいけません。

ところが安倍首相答弁に顕著な特色は、ときには質問議員をせせら笑い、ときには説教を交えて質問趣旨とは関係のない事柄を「関係ある」こととして長々しゃべって、答弁時間を潰してしまいます。

安倍首相の国会答弁のこうした流儀は意図的なもので、実質的には野党議員の質問潰しであり「答弁拒否」です。悪質です。それでも安倍政府を応援する人々の良心はどうなっているのでしょう。生活上の利害や仕事上の利害でつながりがあるというのなら、浮世の人情として気持ちはわかりますが…。



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琉球新報が9月30日沖縄県知事選でファクトチェック記事とツィッター分析記事を書いていました

2018-11-06 23:07:00 | Weblog

9月13日告示、9月30日投票の沖縄県知事選に関して、琉球新報がファクトチェック記事とツィッター分析をした記事を発信していました。投稿分析はツイッター上での検索サービスを手掛けるスペクティの協力を得て実施している、ということです。選挙にからむファクトチェックやツィッター分析はめずらしいので、記録を取っておこうと思います。以下、琉球新報の記事に依ります。


琉球新報 2018年9月25日 10:14 政策集「携帯料金4割削減」

 県知事選を巡り、候補者の一人(注:佐喜真淳氏)が掲げる公約となる政策集で「携帯電話利用料の4割減を求める」と記載している。

 本人のユーチューブやツイッターでは「携帯料金の4割削減を進め家計を助けます」「携帯代4割削減」と記載しており、不特定多数が目にするインターネットでは「求める」という表現は省かれ、知事の権限で実現できるかのように書かれている。

 16日に那覇市内で街頭演説した菅義偉官房長官も、この候補者が公約に掲げていることを歓迎し「4割程度引き下げる。そうした方向に向かって実現したい」と主張していた。

 携帯電話会社など通信事業者を所管する総務省によると、携帯電話料金を引き下げる法律や国の権限はなく、地方自治体の長である知事にも権限はない。

携帯電話料金については格安スマホ会社が増加する中、携帯電話料金やサービスは市場原理で変動していて、国による値下げへの働き掛けは一候補者の公約とは別に、従来から進められている。


琉球新報 2018年9月27日 06:00 遠山衆院議員、釈明

 公明党の遠山清彦衆院議員は26日、自身の短文投稿サイトツイッターでの書き込みについて報じた琉球新報の一括交付金を巡る「ファクトチェック」の記事に関して、沖縄知事選の候補者を「ゆくさー」(うそつき)と表現したのは「少し感情が入って強い表現だったかもしれない」と釈明した。

 その上で、一括交付金創設に関する候補者の発言について「当時の与党の一員として関与はしていたと思うが、(候補者の言う)『直談判して実現にこぎつけた』は、一人でやったようで誇大宣伝だ」と改めて強調した。

 公職にある立場として、真偽が確認できない内容の書き込みをリツイート(共有)することについては「自分が作ったわけではないものだが、今後は自分がリツイートして事実上、拡散する中身について、少し細かく精査をして慎重にやりたい」と語った。


琉球新報 2018年9月28日 05:30 ツィッター分析

 琉球新報社が実施している沖縄県知事選に関するツイッター(短文投稿サイト)への投稿の分析で、告示日前日の12日から25日に取り上げられた言葉を調べたところ、候補者のうち玉城デニー氏が佐喜真淳氏の2・5倍の件数つぶやかれていたことが分かった。

 ただ玉城デニー氏についてつぶやいている内容は、玉城デニー氏を批判し攻撃するものが大半だった。

 つぶやかれた件数は、名字や名前だけの表記も数に入れて、

  玉城氏デニー氏……3万7494件
  佐喜真淳氏  ……1万4708件
  
 両候補以外で多くつぶやかれたのは、

  故翁長雄志さん……3506件
  安室奈美恵さん……2802件
  安倍晋三首相 ……2129件
  小沢一郎自由党代表……1068件
  小泉進次郎衆院議員…… 652件

 9日から25日までの候補者本人の投稿数は、
  玉城デニー氏……257件
  佐喜真淳氏 ……194件

 上記候補者本人の投稿件数に対するリツイートやリプライは、
  玉城デニー氏……3万1073件
  佐喜真淳氏 ……2万6783件


琉球新報 2018年9月29日 05:00 ツィッター書き込み内容

 9日から27日までの候補者本人の投稿数は
  玉城デニー氏……315件
  佐喜真淳氏 ……217件。
 
 26日と27日のツィッター投稿を調べたところ、佐喜真淳、玉城デニー両氏の主張に対し賛同したり、批判したりする内容が目立つようになった。

〇ツイッター文で支持する候補を推す内容では

 佐喜真氏に対して
  「沖縄県の経済、暮らしを良くする具体的な施策がある」
  「県民の生活のことを考えているのは佐喜真氏だけ」 ――など。

 玉城氏に対して
  「知事選が始まり、こんなにすてきな人だと新たに知った」
  「玉城氏の演説に大変な感動を覚え、涙を流した」 ――など。

〇相手候補を批判、攻撃する内容では

 佐喜真氏に対して
  「携帯料金引き下げは業者の業績悪化を招き実現できない」
  「『女性の質』と言う候補を選ぶのか」 ――など。

 玉城氏に対して
  「沖縄を外国勢力から守れるか。中国に洗脳されている」
  「基地負担を取り除いた実績があるのか」 ――など。


琉球新報 2018年10月4日 10:28 ファクトチェックについて

 今回の知事選でのファクトチェックで対象にした言説は、「世論調査の数字」「一括交付金の制度創設」「安室奈美恵さんの候補者支援」「携帯料金の削減の公約」の4本。9月8日付から25日付まで断続的に報じた。

 さらに直接的にファクトチェック記事ではなかったが、検証不能な真偽不明の情報が国会議員などによって大量拡散されている実態をまとめた記事も26日付で掲載した。

 この企画で留意したのは、分析などは交えずに事実を並べて読者に判断してもらうことだった。もう一つ意識したのは、選挙期間中に記事を掲載することだ。有権者に正しく判断してもらうためには、選挙後に検証記事を出しても投票行動にとっては意味がないと考えたからだ。

 ただ検証には困難も伴った。ツイッターで疑惑が書かれて当事者は否定しても、それだけでは検証対象の書き込みが「偽」とは断じられない。ある犯罪を行ったかのような印象を与える書き込みもあったが、対象となる言葉自体は検証がほぼ不可能で、明確に「偽」のチェックができないものも少なくなかった。候補者のマイナスイメージを振りまくだけで、それが事実かどうかは本人が証明すべきだと言い放つ書き込みも目立った。


琉球新報 2018年10月6日 05:30 ファクトの重み実感

9月30日の県知事選で、琉球新報は選挙取材班の「ファクトチェック」と同時に、SNS(会員制交流サイト)のツイッターに発信される内容を調べた。選挙の際にSNSで情報が大量に流れているのを漠然と感じていたが、今回の調査で、その投稿内容の傾向を知ることができた。

 若い世代の情報入手先は新聞やテレビ、ヤフーニュースなどの大手ポータルサイトでもなく、SNSになっている。自分と考えの近い人たちのつぶやき、共有したニュースから情報を得ている現状で、知事選を巡り、どのような情報が飛び交うか探りたかった。投稿を集める作業はネット上に書き込まれた事件や災害などの情報をリアルタイムで発信するスペクティ(東京、村上建治郎社長)に依頼した。

 一般ユーザーの投稿について、内容が肯定的か否定的か、正確に把握するには一件一件読んだ方が確実だと判断した。

 9月9日~同29日に発信された投稿のうち、リツイート(再投稿)分も含め約20万件以上に目を通した。初回の分析では夜通しで半日以上かかった。

 特定の候補者を批判、攻撃する内容が多いとは思っていたが、露骨な誹謗(ひぼう)中傷を含めた攻撃、批判の内容がほとんどだったため驚いた。約9割は玉城デニー氏を攻撃する内容だった。政策や沖縄の課題を議論するやりとりや互いの支持候補を褒める内容は少なかった。

 人の悪口を大量に読むのは気が滅入ったし、単調で膨大な作業の途中、何度も眠気に襲われた。しかし過激な内容が目を覚まさせた。「玉城デニーは中国のスパイ」「裏に中国共産党がいる。沖縄が破壊される」などだ。

 候補者本人の投稿のリツイート(再投稿)数が多い人も分析した。佐喜真淳氏のリツイートが多い上位を見ると、プロフィル欄に「日の丸」をあしらい、普段から「ネトウヨ」とみられる内容の投稿をしている人が目立った。

 一般の投稿では新聞や雑誌、ネットメディアが特定の候補者に関する内容を掲載した際、リツイートを含め投稿数が飛躍的に伸びた。琉球新報が行ったファクトチェックの記事も拡散が見て取れた。どれだけフェイクニュースを打ち消すことができたのかは不明だが、一定の効果はあったのではないかと思う。

 スマホがこれだけ普及し、誰もがSNSで気軽に発信でき、情報を得ることができる時代になった。SNSを意識して有権者が求める分かりやすい記事を書いていくことも、報道機関には必要だと実感した。


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安倍晋三首相の明治礼賛(書評から)

2018-11-04 16:22:54 | Weblog

きょう11月4日毎日新聞朝刊の書評ページから、伊東光晴・評 『「明治礼賛」の正体』=斎藤貴男・著(岩波ブックレット)を下に転載いたします。

岩波ブックレット上掲書中に書かれていることとして、評者が吉田松陰「幽囚録」をとり上げています。

このことは、当ブログ「2015-04-12 安倍研究(7) 吉田松陰の日本国防策、そして滅びた明治維新型日本」で、吉田松陰の国防策と明治体制大日本帝国の対外侵略との関係を取り上げていますので、あらためてお読みいただければ喜びとするところです。あわせて、「2015-04-11 安倍研究(6) 東京育ちの長州人――敗戦で滅びた明治維新型日本のリメーク版をめざす」で、安倍首相の長州維新への思い入れもご覧ください。

安倍首相の情緒では、明治維新は長州オンリーの明治維新、すなわち長州維新としてクローズアップされているにちがいありません。

安倍首相は、国家や世界をしばしばスピーチで語りますが、彼の情緒や心は小さく狭く、長門の国すなわち長州にとらわれています。

彼の心の母国、長州で名を上げ、長州の歴史に残ることに囚われています。彼は高杉晋作の一字を採って名づけられた安倍「晋三」なのです。


伊東光晴・評 『「明治礼賛」の正体』 斎藤貴男・著(岩波ブックレット)

 今年は明治一五〇年である。

 明治、明治維新というと、私は東京外国語大学の最初のロシア人教師、メーチニコフを思い出す。かれが在日したのは、明治七~九年とわずかであったが、明治維新は、西欧では例を見ない徹底した革命であるという評価と、この国の将来に関する危惧が忘れられない。

 事実は、かれの危惧が現実のものとなった。「富国強兵」、そのための「殖産興業」、そしてその中で努力に努力を続ける明治人。安倍首相がことあるごとに言う明治礼賛の正体はこれなのか、と、鋭く批判するのが斎藤氏の本である。氏らしく首相の所信表明演説等から、その言辞を追っている。一例をひこう。

 「一五〇年前、明治日本の新たな国創りは、植民地支配の波がアジアに押し寄せる、その大きな危機感と共に、スタートしました。

 国難とも呼ぶべき危機を克服するため……あらゆる日本人の力を結集することで、日本は独立を守り抜きました。

 ……未来は、私たちの手で、変えることができるのです。」

 「……一五〇年前の先人たちと同じように、未来は変えられると信じ、行動を起こすことができるかどうかにかかっています。」

 どう変えるか--富国強兵なのか。平和憲法を改正しようという安倍首相の意図が、明治礼賛の裏にあると斎藤氏は、言いたいのであろう。

 斎藤氏の本から、私は二つをとりあげる。ひとつは吉田松陰である。『幽囚録』でかれは、「急いで軍備をなし……北海道を開墾し……琉球にも参覲(さんきん)させ……朝鮮を攻め……従わせ、北は満州から南は台湾、ルソンの諸島まで一手に収め、次第次第に進取の勢を示すべきである」と書いていると。

 朝鮮、大陸へ進攻しようとする明治の政治家の多くが彼を師としたのはゆえなしとしない。

 第二は、司馬遼太郎批判である。かれの代表作『坂の上の雲』は、テレビ化され、明治礼賛という点では、安倍首相とはくらべられない大きな影響を与えた。ナショナリズムの高揚であり、戦争の美化であり、明治の明るい一面の強調であった。




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