川本ちょっとメモ

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「給与所得控除の圧縮に反対」(論者・田中直毅)は、まっとうな論ではない

2011-01-13 13:24:47 | Weblog


毎日新聞 2010年12月14日 コラム「経済観測」――『給与所得控除の圧縮に反対』(論者=国際公共政策研究センター理事長・田中直毅)があまりに的外れなものなので、以下対比的に考えを述べます。

評論は囲みの中に元の文章をそのまま掲載し、その段落の間に<私考1>というように考えを述べます。

 高所得者の給与所得控除の大幅な制限が、民主党政権のもとで実現しそうな情勢だ。もしこうした案が通るようであれば、給与所得者から自営業者への転換を、税制が後押しすることになるはずだ。

<私考1>
 上記に「給与得控除の大幅な制限」とあるが、「大幅」という認識はまちがっている。このことは、高所得者や高資産家への増税を避けるという田中直毅氏の基本的立場を示すものです。これが田中氏の立論の目に見えない前提になっています。

<私考2>
 この制限案が実行されれば、給与所得者から自営業者への転換を税制が後押しすることになるという。これはひどいこじつけです。

<私考3>
 制限案の対象になる人は、勤め人としては比較的収入の多い人です。このていどの制限案で、会社をやめて自営業者になって、生活上の大冒険をする人は皆無に近いはず。自営業に転換して人並み以上に所得を得るのは難しいことです。失敗している人の方が多い。

 節税を動機として、一人一人の国民が特定の方向に誘導されてはならないという意味で、税制は「中立」でなければならない。社会のあり方が課税の仕組みの変更で変化するようなことは誰も好むはずがない。また政府のそうした介入は社会のゆがみに直結する。ところがこの原則がゆるがせにされかねないのだ。

<私考4>
 給与所得控除の制限案に反対する論拠として、「税制は中立でなければならない」というのはお門違いです。これは、人々を幻惑する物言いです。というよりも、嘘だ。

<私考5>
 鳩山前首相が脱税で摘発されなかった事実を見よ。いったん納税したうちから税法対象外として返還された多額の金を見よ。

<私考6>
 これらはすべて、国の制度に従って合法的に行われました。資産関係や株取引・配当関連、消費税の輸出関連優遇その他、「中立でない」税制はいくらでもあります。

<私考7>
 「政府の介入は社会のゆがみに直結する」という。不当な論理の飛躍です。自論を強調するあまり、無理にこじつけている観がある。

<私考8>
 主に経済界の要請によって、政府は毎年のように税制の改正をやっています。田中氏の物言いでは、これすべて政府の介入であり、社会のゆがみに直結することになります。そんなことはない。

<私考9>
 政府には、国民のためになることをしてもらわねばなりません。それは「政府の介入」と言えます。しかし政府の介入そのものは、非難されるべきではない。問題にするべきは、そのあり方やその中身です。その中身が問題なのですが…。

 必要経費とみなす額を、年間給与から無条件で控除することを認めてきたのは、自営業者との間にバランスをとるためである。

 「クロヨン」という言葉が黒部川第4発電所をおとしめかねないかたちで使用されたのはさほど昔のことではない。これは給与所得者は9割、自営業者は6割、農民は4割の所得を、税務当局に把握されているとの推計から出た呼び名である。

<私考10>
 「クロヨン」は、自営業者や農民が不当に税金をごまかしていると非難する意味で世間によく知られています。富裕層や大きな会社への富の偏在という税制の不公平から目をそらすため、為政者が相対的に所得の低い国民同士に足の引っぱりあいをさせている構図、というのが真の姿です。実質所得の点で、自営業者の多くは、勤め人より苦労しています。

<私考11>
 勤め人に対する源泉徴収は収税当局の利便のための制度で、そのためには条件の平準化が必要であり、そして各種の給与所得控除制度があるわけです。

<私考12>
 論者のような日本の指導的立場にある人が、どちらにしても経済社会的には底辺といえる立場の自営業者や農民をあてこすっているのでは、卑小に過ぎて頼りにならない。自営業者や農民に比して給与所得者が不利であるとするならば、給与所得の源泉徴収制度を廃して申告制にせよと主張するのが筋でしょう。

 一人一人の国民への納税者番号の付与ができないでいる現状において、今回の給与所得控除の圧縮のように、所得の把握が容易な層への、実質上の負担の押しつけは決して好ましいことではない。

<私考13>
 所得の把握が容易な層に対する増税はよくない、ということには賛成です。

<私考14>
 しかし、納税者番号の有る無しと、増税しやすい層に増税するということとは関係が薄い。増税は政治の力学で決まり、頭数において大多数派である一般国民はこの力学の弱者であります。

 財政健全化のために増税が必要という判断が下されたとする。日本列島における消費に対して一律に課税する消費税を増税するとともに、所得把握を容易にする共通番号を導入。消費税増税による低所得層の負担増を回避するため、一人一人の該当者に直接的な給付を行うことが望ましいと私は考える。

 課税上のゆがみを是正するためにも、一人一人の国民が番号を保有する制度を早急に導入する必要がある。

<私考15> 田中直毅氏の立論は、消費税増税を当然のこととしています。消費税課税をしなくても国の財政を維持していく方法がありそうなものですが…。

<私考16> 消費税増税をする場合に低所得層の負担増を回避する、という主張には賛成です。

<私考17> 低所所得者の消費税負担増回避の手法として、「直接的な給付」ということには反対です。これは具体的には、役所から、一定資格の低所得者わずかな1人当たり、もしくは1世帯当たり、1年間に1万円とか2万円とかを、役所で支給するものです。しかし人は、自立して暮らしたいものです。「ものもらい」の生活をしたい人はいません。その、「ものもらい」の心的ダメージを与える政治は最悪です。「金さえやればいいだろう」というのは、オピニオンリーダーとして、なんと心根の貧しい人であることか。

<私考18>
食料、家賃、光熱費など、生物として生きていくに必要なものは非課税にするべきだ。消費量に対しての制限が必要であるにしても。田中直毅氏は、消費税増税によって、低所得者対策の現金をもらう立場に貶められる人の気持ちを考えて見よ。冒頭に、田中氏が言った「政府のそうした介入は社会のゆがみに直結する」とは、こういうことにこそ当てはまるのではないでしょうか。

<私考19>
高所得個人や高所得法人は、優遇税制の恩恵受けていて、それは合法なことです。法律で保証されています。従って、国民番号制を採用して税金を補足しやすいと言ったところで、それは枝葉末節ということになります。田中直毅氏をはじめ、有力政治家たちやオピニオンリーダーたちは、いつもそのことから目をそらしています。






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記事2009・2010年

2011-01-10 19:19:31 | Weblog


<全記事目次 2009年>

01/09 ■ミニノート ASUS EeePC 1000H 使用感想

02/03 ■公務員改革で人事院総裁が記者会見して抵抗
02/04 ■谷人事院総裁の天下り・渡り経歴
02/14 ■郵政四分社見直し、かんぽの宿払い下げ見直し、大賛成!
02/16 ■宮内義雄オリックスとはこんな会社!
02/18 ■ほかにもある中川昭一酔っ払い大臣の酔っ払い経歴
02/25 ■人間社会はそんなに単純でない=竹中氏の理論を一蹴
     (与謝野財務相)


03/01 ■人と生まれた以上は道端で寝かせてはいけない
03/03 ■「かんぽの宿」売却劇を新聞社説はどう見たのか?
03/05 ■天下り規制を妨害したのは誰か?(渡辺喜美代議士)
03/07 ■母と離れて暮らした思い出
03/15 ■私の生活現場で「不況聞き書き」
03/19 ■ことばにクエスチョン『グローバル化、ホワイトエグゼンプション、
     百年に一度の不況』

03/30 ■09210330 メモ書きにつける日付の書き方
03/31 ■メモ書き用紙に何を使っていますか?

04/02 ■日本海軍事緊張、海自イージス艦出撃
04/06 ■新聞書評:「砕かれた神」 渡辺清著、岩波現代文庫
04/06 ■吉野山桜見行
04/09 ■介護現場には希望がないように思えます(毎日新聞読者投稿から)
04/20 ■ペダルの踏みまちがい事故とメーカーの改良責任
04/22 ■自動車任意保険、ダイレクトは安いですねえ
04/26 ■瞬間燃費計は一挙四得、法定装備にしてほしい
04/29 ■豚インフルと1等航海士と豪華客船

05/03 ■「日本国憲法の誕生」過去記事ご紹介
05/18 ■平和の日常感覚(1) 英雄――「好き」から「きらい」へ
05/25 ■民主党・小沢代表代行の泣き所「不動産蓄財疑惑」
05/28 ■「政府のパフォーマンスに利用された」発言に怒りを覚えた

07/07 ■皇后の失語症と皇太子妃の神経症
07/23 ■続く血統総理、「民主、おまえもか?」
07/27 ■夏の夜話――蚊のしとめ方 (^O^)

08/03 ■徒歩30分で「町」境界を越えてしまう事情
08/11 ■09衆院選、この閉塞感はなんだろう (※転載記事)
08/19 ■民主党の「比例定数80削減」に反対、大変革を望まず
08/26 ■毎日新聞が手放しの民主党礼賛――評論人は軽薄無責任「上から
     目線」


09/15 ■私の世代から人の気持ちが変わった(1/4)
09/18 ■私の世代から人の気持ちが変わった(2/4)
09/28 ■私の世代から人の気持ちが変わった(3/4)

10/04 ■私の世代から人の気持ちが変わった(4/4)―列島大移動世代の罪
10/19 ■『ネタ』をもれなく集める『日記フォルダ』 その1
10/20 ■おかあちゃん、チイが亡くなったよ
10/28 ■企業は自己責任と言って弱者を切り捨て、不況になれば政府の補助
     金頼み


11/01 ■デジタル放送がテレビの息の根を止める
11/15 ■『ネタ』をもれなく集める『日記フォルダ』 その2
11/16 ■『ネタ』をもれなく集める『日記フォルダ』 その3
11/18 ■『ネタ』をもれなく集める『日記フォルダ』 その4
11/19 ■『ネタ』をもれなく集める『日記フォルダ』 その5
11/20 ■『ネタ』をもれなく集める『日記フォルダ』 その6(完)

12/10 ■民主党政権初国会の感想
12/16 ■小企業社長のささやかな脱税
12/17 ■首相の「脱税」:鳩山首相実母が上申書提出 「使途は知らず」と
12/18 ■首相の「脱税」:9億円贈与と相続税法に見る贈与税
12/19 ■首相の「脱税」:鳩山9億円とほかの脱税事件を比べましょう
12/27 ■首相の「脱税」:鳩山首相6億円納付手続き、脱税に非ず、修正申告
     に非ず

12/29 ■首相の「脱税」:鳩山首相8年間12億6千万円無申告をつづけきても
     脱税に非ず、不可解なり



<全記事目次 2010年>

01/15 ■大和工業脱税:8160万円脱税、社長に有罪判決
01/19 ■クレーム? 圧力? 「小沢」放送中に何かがあった……
01/22 ■小沢疑惑で明らかになってきた民主党政権の金権体質と危険な権力
     体質

01/23 ■政治献金→融資→個人資金…小沢氏の説明転々 (読売新聞)
01/28 ■小沢疑惑の元は闇献金、その簿外資金作りの流れを想像しますと…
01/30 ■札束1億円は重かった、小沢資金4億円なら当然重さ4倍

02/02 ■子への贈与――鳩山は恵まれた育ちで、小沢は心臓病でうろたえて
02/06 ■脱税首相と容疑不十分幹事長―鳩山と小沢(毎日コラムから)
02/18 ■税務当局が権力者・鳩山首相を守る――怒りがおさまりません
02/21 ■鳩山総理、重加算税です
02/27 ■鳩山総理脱税シリーズ 目次

03/11 ■「弱い人、恵まれない人に対する施し」という政治観と政治資金への
     不信

03/16 ■政権与党の「政治とカネ」――毎日新聞から
03/26 ■バブル民主党の品質不良議員―不倫三人衆に政治資金三人衆、そして
     プラスワン


05/10 ■普天間――結果的に国外・県外移設は選挙目当ての甘言だった(東京
     新聞社説5月5日)

05/26 ■普天間問題 鳩山首相は間違いなく大罪を犯した(毎日新聞)
05/30 ■普天間回帰は首相のアリバイ作りとしか思えない(毎日新聞)
05/31 ■未熟な政権のゆえにもてあそばれた安保(毎日新聞)

06/04 ■小林議員に議員辞職を促しても鳩山氏は議員辞職しない/石井議員宅
     で千万盗難

06/07 ■郵政法案の取り扱いが菅首相のリトマス試験紙
06/09 ■郵政法案強行採決連発 民主党衆院5月26日~31日
06/14 ■惑星探査機「はやぶさ」後継機は政権交代で製造着手できず、学校
     耐震化も6割減額

06/27 ■参院選投票の目安は「国家財政再建のための消費税増税=家計浸水」

07/01 ■菅新政権の、財政再建ではなく財源確保のための大増税への道
07/09 ■消費増税とセットになった「法人税引き下げ」公約のごまかし数字
07/10 ■輸出有名企業が大もうけできる消費税のからくり
07/30 ■消費税増税は正社員から派遣労働者への転換―貧困化を促進する

08/24 ■人を見分ける単純な基準
08/27 ■民主党は分裂して出直した方がいい
08/31 ■買いだめと大商社魔女狩り批判の記憶

09/19 ■会社の社会的責任に気づいたとき
09/26 ■乙武さんのように尊敬できる人を知っています
09/30 ■ポータブルタイプライターとひらがな書き

10/14 ■食料採集のために熊が命を落とす
10/22 ■飢饉無きにしも非ず
10/31 ■フリーソフトの多大な社会貢献に対して公的顕彰制定を望みます

11/10 ■尖閣流出ビデオ――追いつめた側が「違法」レッテルでさらに追い
     つめる


12/04 ■海老蔵事件で思い出したビジネスエリート――手本(師匠)
12/14 ■地方生活からずれていく東京移民型国会議員
12/20 ■海江田経財相:年収1500万円所得層 「金持ちでない」
12/22 ■大学生の新聞投稿から――報道を疑ってみることも必要
12/23 ■高所得層対象の軽微な増税案に冷淡な人たち

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明の万城目学、暗の高橋和巳

2011-01-07 16:17:46 | Weblog


1年か2年前のことでしたか、「鹿男あをによし」というテレビドラマを見ました。奈良が舞台の連続ドラマは珍しいので見ました。これがほんとにおもしろくておもしろくて、欠かすことなく見ました。ストーリーの発想も、頭の固い私にはユニークそのもの。

連ドラを見つづけている間に、原作が小説であることを知りました。万城目学という人の第二作で、前作が「鴨川ホルモー」であることを知りました。

オーッ、ふるさと京都ではないか。本屋でひろい読みしてみると、これもおもしろいおもしろい。おまけに物語の舞台が京都市中心部のなつかしいところばかりです。買って読みました。後に文庫版があるのを知って、これも買いました。この作者の「プリンセス・トヨトミ」という映画が今年公開されるそうですね。

――さて、ここで話題が、「明の万城目学」から「暗の高橋和巳」に変わります。

私は就職してしばらく後の20代半ばまで、ドストエフスキーと高橋和巳を耽読しました。京都に職を見つけて東京を離れるとき、ドストエフスキー全集と高橋和巳作品集を売りました。飲み代のツケ払いの一部にあてたのです。後年、後悔しました。

ドストエフスキーについては読みたいときにいつでも文庫本を買うことができます。高橋和巳はそうはいきません。それで奈良県に住むようになった後に出版された文庫本を買いそろえました。

「高橋和巳」には読むといつでも、激しく心動かされます。なぜそうなのか、未だ明確な答えを見つけることができません。


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謹賀招福卯年 青年の「謹ンデ陛下ニ白ス」公遺言に身を引き締める

2011-01-02 10:36:28 | Weblog


謹賀招福卯年。本年もよろしくお願い申し上げます。

新年を迎えるにあたって、「佐久間艇長の遺書」(TBSブリタニカ刊)を読み返しました。「事に処する覚悟・自己の責任感・人への思いやり」を30歳青年に学び、新年に臨む心がまえとして我が身を引き締めています。


明治43年4月15日午前、瀬戸内海で潜航訓練中の潜水艇が浮上できなくなりました。故障によるものでした。4月17日潜水艇を引き上げたとき、乗組員14人全員が持ち場を守ったまま窒息していました。


佐久間艇長は事故調査に資するため次の一文で始まる遺書を残しました。明治時代のことですから天皇宛てになっています。

  小官ノ不注意ニヨリ
  陛下ノ艇ヲ沈メ
  部下ヲ殺ス、
  誠ニ申訳無シ

遺書中にはまた、「我レハ常ニ家ヲ出ヅレバ死ヲ期ス」という一文もあります。


佐久間艇長「公遺言」に次の一節があります。

  謹ンデ
 陛下 ニ白ス、
 我部下ノ遺族ヲシテ
 窮スルモノ無カラシメ給ハラン事ヲ、
 我ガ念頭ニ懸ルモノ之レアルノミ

この短い公遺書に「十二時三十分呼吸非常ニクルシイ」とあり、「十二時四十分ナリ」で切れて終わっています。極限状況の中で、息絶えるそのときまで任務を尽くしました。

「我部下ノ遺族ヲシテ窮スルモノ無カラシメ給ハラン事ヲ」。息絶えるそのときまで部下遺族の生活の行く末を案じておりました。


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