日本には51の単位弁護士会があります。そのうち47弁護士会が、「集団的自衛権行使容認の閣議決定は手続き上で憲法違反である」として、合計86本の会長談話・会長声明・総会決議を発表しています。ここにはほかに連合会の決議・声明6本を合わせて92本をリストアップしました。
日本中の大多数の弁護士会が「憲法違反」と判断しているものを、きわめて少数の、特に与党の政治家弁護士だけが「合憲」だと言い募っています。自民党・高村副総裁、公明党・北側副代表ともに弁護士です。
次に一覧表を記します。できることなら、それぞれの弁護士会のホームページを開いて内容をご覧ください。そしてもし、「憲法違反である」と同意していただけるなら、居住地の弁護士会にハガキなどの書面で、違憲訴訟提起のお願いをしてみましょう。私たち一人一人は無力ではあろうとも、平和を作るために力を尽くしてみようではありませんか。
日本弁護士連合会
・集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014-07-01.
・重ねて集団的自衛権の行使容認に反対し、立憲主義の意義を確認する定期総会決議 2014-05-30
・集団的自衛権の行使容認に反対する定期総会決議 2013-05-31
札幌弁護士会
・憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し、即時撤回を求める会長声明 2014-07-02
釧路弁護士会
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-07-02
東北弁護士会連合会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に強く抗議し、その即時撤回を求める決議 2014-07-04
仙台弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に強く抗議し、その即時撤回を求める会長声明 2014-07-01
福島弁護士会
・憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認することに反対する決議 2014-05-31
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-03
山形県弁護士会
・集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014-07-08
・集団的自衛権の行使容認に反対する憲法記念日会長声明 2014-05-03
岩手県弁護士会
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-02
秋田県弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議し、その撤回を求める会長声明 2014-07-11
・集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014-07-02
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-22
青森県弁護士会
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-19
東京弁護士会
・集団的自衛権行使を容認する閣議決定に強く抗議し、その撤回を求める会長声明 2014-07-01
・憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認を認めず、立憲主義を堅持する会長談話 2014-05-03
第一東京弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議する会長声明 2014-07-01
・憲法記念日における会長談話 2014-05-03
横浜弁護士会
・閣議決定に抗議し撤回を求める会長談話の閣議決定に抗議し、撤回を求める会長談話 2014-07-02
・憲法解釈の変更により集団的自衛権行使を容認することに反対する総会決議 2014-05-20
埼玉弁護士会
・憲法解釈の変更により集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長談話 2014-07-01
・憲法解釈の変更により集団的自衛権行使を容認する閣議決定に断固反対する会長談話 2014-06-18
・解釈改憲による集団的自衛権行使容認に反対し、非軍事恒久平和主義、立憲主義の堅持に向けた諸活動に取り組む決意を表明する総会決議 2014-05-22
・憲法記念日に当たっての会長談話 2014-05-03
千葉県弁護士会
・憲法解釈の変更により集団的自衛権行使を容認する閣議決定に関する会長談話 2014-07-02
・憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対し立法府および行政府に対して憲法を尊重し擁護することを求める会長声明 2014-02-28
茨城県弁護士会
・閣議決定によって憲法解釈を変更し集団的自衛権行使を容認することに反対する決議 2014-05-24
・閣議決定によって憲法解釈を変更し集団的自衛権行使を容認することに反対する会長声明 2014-05-01
・閣議決定によって憲法解釈を変更し集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する会長声明 2014-02-13
栃木県弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014-07-07
・集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明 2014-03-27
群馬弁護士会
・集団的自衛権行使容認の閣議決定に抗議し「撤回」を求める会長声明 2014-07-03
静岡県弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議する会長声明 2014-07-03
・憲法解釈の変更により,集団的自衛権の行使を容認することに反対する決議 2014-06-06
山梨県弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014-07-05
・集団的自衛権の行使を容認する解釈改憲に反対する総会決議 2014-05-26
・憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認と国家安全保障基本法案の国会提出に反対する会長声明 2013-11-09
長野県弁護士会
・集団的自衛権を容認する閣議決定がなされたことに抗議する会長声明 2014-07-07
・「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書を受けて発表された「基本的方向性」に対する会長声明 2014-06-05
・集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する総会決議(臨時総会) 2013-11-30
新潟県弁護士会
・集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014-07-02
・憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に反対する決議(定期総会) 2014-05-26
・憲法記念日を迎えるに当たり集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-02
中部弁護士連合会
・今こそ立憲主義の意義を再確認し、憲法第96条の発議要件緩和及び集団的自衛権の行使の容認に反対する決議 2013-10-18
愛知県弁護士会
・集団的自衛権行使容認を内容とする閣議決定の撤回を求める会長声明 2014-07-03
・「憲法解釈変更」による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-03(憲法記念日)
岐阜県弁護士会
・会集団的自衛権の行使容認などの閣議決定に強く抗議し、速やかな撤回を求める会長声明 2014-07-04
三重弁護士会
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-14
福井弁護士会
・集団的自衛権行使容認の閣議決定に強く抗議する会長声明 2014-07-04
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-04-30
富山県弁護士会
・憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-27
金沢弁護士会
・性急な閣議決定による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明 2014-06-27
・集団的自衛権行使の容認に反対する会長声明 2014-05-02
大阪弁護士会
・集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に反対し撤回を求める会長声明 2014-07-01
・政府の憲法解釈を変更する閣議決定によって集団的自衛権の行使を容認することに反対する会長声明 2014-06-17
・安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」報告書を受けて安倍首相により発表された「基本的方向性」に対する会長声明 2014-05-20
・憲法記念日にあたっての会長談話 2014-05-03
京都弁護士会
・「安全保障を巡る憲法問題と立憲主義の危機に関する会長声明」 2014-06-10
兵庫県弁護士会
・集団的自衛権の行使容認に改めて反対する会長声明 2014-06-20
奈良弁護士会
・解釈による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-04-16
滋賀弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014-07-15
・憲法9条の解釈変更により集団的自衛権の行使を容認しようとする動きに反対する決議 2014-05-28
和歌山弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議する会長声明 2014-07-10
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-06-13
広島弁護士会
・憲法第9条の政府解釈変更による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明 2014-07-02
・憲法第9条の政府解釈変更による集団的自衛権行使に反対する決議(総会) 2014-06-06
・憲法第9条の政府解釈変更による集団的自衛権行使容認に反対する会長声明 2014-05-02
山口県弁護士会
・現憲法のもとで集団的自衛権行使を容認することに反対する会長声明 2014-05-27
岡山弁護士会
・集団的自衛権行使を容認する閣議決定に強く抗議し,その撤回を求める会長声明 2014-07-09
・憲法解釈の変更により集団的自衛権行使を容認することに反対する総会決議 2014-05-20
・集団的自衛権行使容認に反対する会長声明 2014-05-14
鳥取県弁護士会
・解釈改憲によって集団的自衛権行使を可能とする政府方針に改めて抗議する会長声明 2014-05-02
・集団的自衛権行使の容認及び国家安全保障基本法案の国会提出に反対する会長声明 2013-11-01
島根県弁護士会
・集団的自衛権行使に関する政府解釈を閣議決定により変更することに反対する会長声明 2014-06-19
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-03-27
香川県弁護士会
・集団的自衛権の行使を容認する閣議決定に抗議しその即時撤回を求める会長声明 2014-07-09
・閣議決定による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-02
愛媛弁護士会
・重ねて、集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-06-03
・憲法解釈変更 による 集 団的 自 衛権の行使容認 に反封する会長声明 2014-03-18
徳島弁護士会
・憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に反対する決議 2014-04-21
九州弁護士会連合会
・憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認に反対する理事長声明 2014-05-21
福岡県弁護士会
・集団的自衛権の行使等を可能とする閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明 2014-07-16
・集団的自衛権の行使を可能とする内閣の憲法解釈変更に反対する決議 2014-05-28
・憲法記念日会長声明 2014-05-02
佐賀県弁護士会
・集団的自衛権行使容認に反対する会長声明 2014-4-28
長崎県弁護士会
・集団的自衛権の行使等を容認する閣議決定に抗議し撤回を求める声明 2014-07-15
・閣議決定に基づく憲法解釈変更によって集団的自衛権の行使を容認することに反対する声明 2014-06-17
熊本県弁護士会
・集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明 2014-05-21
大分県弁護士会
・憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の容認に反対し、立憲主義に基づく国政運営を求める会長声明 2014-05-26
宮崎県弁護士会
・憲法解釈の変更による集団的自衛権行使の容認に強く反対する決議 2014-06-26
沖縄弁護士会
・憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使容認に反対する決議 2014-05-28
2012年12月26日、第2次安倍政権が発足しました。2014年6月末日で政権発足から550日を超えています。安定政権です。
この安倍政権の強さは、2012年12月衆院選、2013年7月参院選での自民党大勝によってもたらされた。期待をかけた民主党のふがいなさに国民の失望は大きく、多くの国民が自民党に希望をつなぎました。私たちは、政治の安定と長く希望を閉ざされてきた国民生活の改善を期待しました。
私たち国民は尖閣問題に不安を感じてはいたが、軍事力による解決、すなわち戦闘による解決を願っていたわけではない。日中双方がミサイルを積んだ艦隊やジェット戦闘機で張り合うような、危ないことをやってほしいと望んだわけでもない。平穏な暮らしを望んでいるだけです。尖閣の外交的な危機緩和を望んでいます。抑止力対決姿勢は危なくて危なくて‥‥。
尖閣問題は、現職都知事であった石原慎太郎の無責任な扇動によって強引に、引き起こされた。そして石原都知事(当時)は東京都で買おうとした。これに対して、東京都に買わせると石原が何をするかわからないから、国で買おうとする動きが起こった。2012年6月、当時の丹羽駐中国大使は、東京都による購入計画にが「日中関係に重大な危機をもたらすと警告しました。この発言は「中国側に立つ」という自民党筋を主に批判を受けた。週刊誌などでも異常なほどの一斉批判が巻き起こり、丹羽大使は同年11月に退任した。事実上の更迭と言われている。
2012年9月9日APEC開催中のウラジオストックで、中国の胡錦濤主席(当時)が日本の野田首相(当時)に、尖閣は中国の領土ですよと話して、尖閣国有化を自重するよう示唆した。その僅か2日後の9月11日、政府は尖閣の購入契約を実行した。野田首相は胡錦濤主席の話に耳を貸すそぶりも見せなかった。これでは外交にならない。中国の最高指導者に日本の最高指導者が喧嘩を売った形です。尖閣危機はここに発したのです。
私は尖閣危機を日本が挑発した結果だと見る。安倍首相やその先走りをする論客らの対中姿勢は「対決」を主軸にしているので、中国が領土主権を言い張って今日の尖閣危機が起きたと主張する。いずれにせよ、安倍首相らは、年来の考えを実行に移すチャンスとして尖閣危機を利用しました。安倍首相は憲法9条解釈変更閣議決定の記者会見で、母子救出の画像パネルを国民に見せました。この母子を見捨てるのか……。この画像は安倍首相が尖閣危機をとことん利用した結果の産物です。
尖閣危機があろうがなかろうが、安倍首相は第1次安倍内閣のときから、自衛隊の軍事活動の地理的範囲をインド洋にまで広げることを目指してきました。日本側から寝た子を起こしてしまった尖閣危機を平和的に解決する外交努力をしないで、危機を煽る軍事的抑止力政策をおし進めています。
私は思います。習近平政権は10年の任期。安倍首相はもっと短く、2年半後の総選挙後も総理であり続けるとは限りません。10年だって短いものです。安倍首相が今から敷こうとしている抑止力政策(=軍事対決)を少しでも早く平和外交に転換できるよう、安倍政権打倒を志していきたいと思います。これを読んでくださっている方々も、考えの方向が私と同じであるときには、家族や友人に話してください。そこから世論が作られ、世論が動き、やがて政治が動きます。
私は、このたびの憲法違反の閣議決定に際して、戦後民主主義の時代にこれほどの暴挙を行う総理大臣が出たことに驚きました、こんなことは考えもしませんでした。そして、平和を守るという守りの姿勢ではダメだと思うようになりました。平和を日夜作りつづけることこそ大事と思うようになりました。
集団的自衛権行使容認の閣議決定に反対する香川県弁護士会の会長声明を転載します。
<閣議決定による集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明>
2014年(平成26年)5月2日
香川県弁護士会
会長 籠 池 信 宏
1 声明の骨子
現在、集団的自衛権の行使について、これまでの政府見解及び憲法解釈を変更することにより、これを容認しようという動きがある。
そして、政府においても、安倍晋三首相は、本年2月20日の衆議院予算委員会において集団的自衛権の行使容認に向けた憲法解釈の変更を閣議決定によって行う方針を明らかにしている。また、菅義偉官房長官も、本年4月10日午後の記者会見で、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定を行う方針を改めて示している。
しかし、以下に示すとおり、集団的自衛権の行使を容認することは、現行憲法の解釈としては限界を超えるものである。
集団的自衛権の行使の是非は、現行憲法の根幹に関わる事項であり、行政機関に過ぎない内閣の閣議決定によってその是非を決することのできる事柄ではない。もしその是非を問うのであれば、全国民的な議論に基づき、現行憲法に定められた憲法改正の手続を通じて行われるべきである。
2 集団的自衛権の行使が現行憲法の解釈としては限界を超えていること
憲法9条は、「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使」を国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄するとともに、その目的を達するため、「陸海空軍その他の戦力」の保持を否定している。
これらの文言からすれば、何らの実力を保持することすらも禁止しているとの解釈すら考えうるところである。
もっとも、何らの実力を保持することなくして、国民の生命・財産の保持という国家の任務が遂行できるかといえば、それは現実には困難である。そのような国民の生命・財産が危険に晒される事態を、国民の生命・財産を守るために存在するはずの憲法が強制しているとは解釈しがたいところである。
したがって、憲法9条の文言との整合性も踏まえ、自国の安全を保障するための必要最小限の実力は保持できるし行使も可能であるが、それ以上のことはできない、というのが憲法9条の文言の解釈として導き出されうる限界であり、この解釈は、これまで内閣自身が踏襲し、積み重ねてきた解釈でもある。
一方、集団的自衛権は、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力を持って阻止する権利」と定義されるところ、このような集団的自衛権の行使は、未だ自国民の生命・財産が直接危険に晒されていない状態での実力の行使であるから、自国の安全を保障するための必要最小限度という憲法が認める範囲を超えることが明らかである。
このように、憲法9条の解釈として、集団的自衛権の行使が認められないのは、当然の論理的帰結である。
集団的自衛権の行使は、憲法9条に反するものと解するほかないのであるから、行政機関に過ぎない内閣が閣議決定で容認することを打ち出したとしても、それが違憲であることに変わりはなく、閣議決定及びそれに基づいた具体的措置は憲法98条により法的に無効となる。
3 立憲主義に基づく憲法は中長期的な国家ビジョンを示したものであること
そもそも立憲主義に基づく憲法は、中長期的な視野に立って、国全体の基本原則を定めたものである。立憲主義とは、このような中長期的な視野に立った憲法を制定し、それを政府に遵守させることにより、その時々の短期的な政治的多数派の意向をもっては覆すことのできない中長期的な国家理念を定め、それを実現していくことにその意義がある。
憲法9条が定める平和主義は、現行憲法の根幹をなす理念であり、中長期的な視野に立って日本の国益に資するものとして定められた、国全体が守るべきとされる基本原則である。集団的自衛権の是非が、この基本原則に関わる以上、時々の政治的多数派である内閣による閣議決定で覆すことは立憲主義の理念に反するものと言わざるを得ない。
4 憲法は国民が政府に対して制約を課したものであること
憲法は、主権者である国民が、政府を含めた国全体の行動に対し、中長期的に制約を課し、いわば政府を縛っているものである。憲法の存在により、時々の政府が主権者たる国民の権利を侵害することを予防しているのである。
その憲法の解釈を、他ならぬ縛られている立場である政府自身が変更することにより、国民に是非を問うこともなく、これまで行使できないとしてきた集団的自衛権を行使できるようにすることが許されるはずもない。
このようなことが強行されれば、もはや憲法はその担うべき役割である「政府への制約としての役割」を果たせているとはいえず、憲法によって守られるべき国民主権が危機に瀕すると言わざるを得ない。
5 集団的自衛権の行使の是非は憲法改正の手続に委ねられるべきであること
なお、本声明は、集団的自衛権の行使自体の政治的・政策的是非について意見を述べたものではない(集団的自衛権の行使自体の是非については、全国民的な議論に基づき、現行憲法に定められた憲法改正の手続を通じて、改めて全国民に問われるべきである。)。
しかし、その実現しようとしている政策自体(集団的自衛権の行使)の政治的・政策的是非にかかわらず、この問題について閣議決定による憲法解釈の変更で対応しようとすることは、手続面において、憲法及び立憲主義に対する理解が不足していると言わざるを得ない。
6 結語
本声明は、司法の一翼を担う者として、現行憲法の解釈及び立憲主義に基づき、集団的自衛権の行使が現行憲法の解釈としては認められず、集団的自衛権の行使の是非は憲法改正手続に委ねられるべきで、閣議決定による集団的自衛権の行使の容認は違憲であり、閣議決定それに基づいた具体的措置が法的に無効となることを明らかにしたものである。
政府関係各位には、憲法99条に定める憲法尊重擁護義務に従い、現行憲法の定める手続の遵守を強く求める。
それとともに、国民全体として、憲法の果たしている役割について、今一度充分な関心を持っていただき、各種議論を深めていただきたく、憲法記念日にあたり、本声明を発表する次第である。
集団的自衛権の行使容認に反対する岐阜県弁護士会の会長声明を転載します。声明発表日付は昨年末、2013年12月12日です。
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集団的自衛権の行使容認に反対する会長声明(岐阜県弁護士会)
日本国民は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起きることのないようにすることを決意し、」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」(憲法前文)そして、憲法第9条第1項では、戦争を永久に放棄し、第2項で戦力を保持しない、交戦権も認めないと明言した。憲法前文や第9条は、非戦・非軍事の平和主義を宣言した点で世界の憲法の中でも先駆的な意義を有するものであり、ほとんどの国民は、これを支持して来た。
憲法第9条の本来の意味からすれば、自衛権が存在することは当然としても、戦力や武力の行使を伴うこととなる自衛戦争の放棄も当然に含まれていると理解することができるものの、政府は、自衛隊が現実に存在していることを前提に、「憲法第9条の下において許容されている自衛権の行使は、我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものである」と解してきた。そして、集団的自衛権については、「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力をもって阻止する権利」であると解し、「この集団的自衛権を行使することは、その範囲を超えるものであって、憲法上許されない」としてきた。これは、30年以上にわたって一貫して維持されてきている。
ところが、現在、政府は、この政府解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認しようとしている。
安倍首相ほかの要人は、各所で、集団的自衛権の行使を容認する旨の発言、見解を述べているし、今年8月には内閣法制局長官を容認論者に交代させた。今臨時国会では、日本版NSC(国家安全保障会議)設置法が成立し、特定秘密保護法案も衆参両議院で強行採決されている。その先には、国家安全保障基本法が予定されている。いずれも国民の目・耳・口をふさぎ、「戦争をしない国」から「戦争ができる国」に改変するエンジンの役目を果たしている。
とりわけ、国家安全保障基本法案は、「国際連合憲章に定められた自衛権の行使」というタイトルの下に、「我が国、あるいは我が国と密接な関係にある他国に対する、外部からの武力攻撃が発生した事態」であれば、国際連合憲章が定める集団的自衛権を、憲法第9条の制約なしに行使できるということを定めている(同法案第10条)。まさに、外国のために戦争するという集団的自衛権を認めているのである。
しかしながら、集団的自衛権の行使は憲法前文、第9条に反するし、自国が直接攻撃されていない場合を前提とする集団的自衛権の行使は許されないとする確立した政府解釈にも反する。また、憲法尊重擁護義務(憲法第99条)を課されている国務大臣や国会議員がこのような違憲立法を進めることは許されることではない。しかも、下位にある法律によって憲法の解釈を変更することは、憲法に違反する法律や政府の行為を無効とし(憲法第98条)、政府や国会が憲法に制約されるという立憲主義に反するものであって、到底許されない。
我が国の安全保障防衛政策は、立憲主義を尊重し、憲法前文と第9条に基づいて策定されなければならないものである。戦争と武力紛争、そして暴力の応酬が絶えることのない今日の現実の国際社会においては、一層、現行日本国憲法の理念を高く掲げるべきである。日本国民が全世界の国民とともに、恒久平和主義の憲法原理に立脚し、平和に生きる権利(平和的生存権)の実現を目指す意義は依然として極めて大きく、重要である。
よって、当会は、憲法の定める恒久平和主義・平和的生存権の今日的意義を確認するとともに、集団的自衛権の行使に関する確立した解釈の変更、あるいは集団的自衛権の行使を容認しようとする国家安全保障基本法案の立法に強く反対する。
2013年(平成25年)12月12日
岐阜県弁護士会
会長 栗山 知
元防衛官僚であり、現職の加茂市長(新潟県)の総理大臣宛て意見書を転載します。
<小池清彦市長略歴>
1937年2月22日、新潟県加茂市生まれ。東京大学法学部卒業。1960年、防衛庁に入庁、英国王立国防大学に留学。帰国後は防衛庁防衛局計画官、防衛庁長官官房防衛審議官、防衛研究所長を歴任。1990年、防衛庁教育訓練局長。1992年6月、防衛庁を退官。同年7月、防衛大学校学術・教育振興会理事長に就任。1995年4月、加茂市長選挙に初当選。以後4期連続当選。
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平成26年7月2日
内閣総理大臣 安倍晋三 様
元防衛庁教育訓練局長
新 潟 県 加 茂 市 長 印 小 池 清 彦
憲法解釈の変更により集団的自衛権を容認する閣議決定に
対する意見書の提出について
拝啓
時下益々御清栄のことと心からお慶び申し上げます。
標記の件について、去る6月26日意見書を提出いたしましたが、このたび
7月1日に閣議決定がなされたところでございます。
しかし、この閣議決定は、憲法違反のものであり、将来徴兵制につながる
ものであるほかに、その内容は、集団的自衛権行使の事態ではなく、個別的
自衛権行使の事態であると考えます。また、日米安保条約においては、日本
が行使するのは、個別的自衛権のみであって、集団的自衛権を行使する場面
はありえません。従って、この条釣の下部の取決めである「日米防衛協力の
指針(ガイドライン)」に集団的自衛権の行使を規定することはできません。
このような次第でございますので、再度別添の意見書を提出いたします。
総理大臣様におかれましては、くれぐれも御自愛下さいまして、益々御健
勝で御活躍下さいますよう、心からお祈りしてやみません。 敬具
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
平成26年7月2日
内閣総理大臣 安倍晋三 様
元防衛庁教育訓練局長
新 潟 県 加 茂 市 長 印
小 池 清 彦
憲法解釈の変更により集団的自衛権を容認する閣議決定に対する意見書
○このたびの意見書において新たに指摘する重要事項の要点
(1)この閣議決定の内容は、集団的自衛権行使の事態ではなく、個別的自衛
権行使の事態である。従って、この閣議決定は、集団的自衛権の行使と
いう観点から見れば、虚偽の閣議決定であり、この閣議決定によって
は、「憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認」は行われなかったこ
とになる。
(2)日米安保条約においては、日本が行使するのは、個別的自衛権のみであ
って、集団的自衛権を行使する場面はありえない。従って、この条約の
下部の取決めである「日米防衛協力の指針(ガイドライン)」に集団的
自衛権の行使を規定することはできない。
1、集団的自衛権の行使は、いかに小さなものであっても、憲法第9条第1項
に定める「国際紛争を解決する手段としての武力の行使」であり、すべて
憲法違反であります。従って、この閣議決定は、憲法違反の閣議決定であ
ります。
2、憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認は、憲法を改正したと同じ結
果を生じ、もはやアメリカからのアメリカ並みの派兵要求を断ることがで
きなくなります。その結果やがて自衛隊は、世界のし烈な戦場でおびただ
しい戦死者を出すことになり、自衛隊へ入る人は、きわめて少なくなりま
す。しかし、防衛力は維持しなければなりませんので、徴兵制を敷かざる
を得なくなり、日本国民は、徴兵制の下で招集され、世界のし烈な戦場で
血を流し続けることになります。
3、この閣議決定は、形式的には、集団的自衛権行使の事態について記して
おりますが、実際の内容は、個別的自衛権行使の事態であります。従っ
て、この閣議決定は、集団的自衛権の行使という観点から見れば、虚偽の
閣議決定であり、この閣議決定によっては、「憲法解釈の変更による集団
的自衛権の容認」は行われなかったことになります。その理由は、次のと
おりであります。
(1)この閣議決定には、「わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻
撃が発生し、」とありますが、この武力攻撃に対して武力の行使がで
きる場合は、1972年の政府の憲法解釈の基本的な論理の枠内で、「こ
の武力攻撃により、わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び
幸福追求の権利が根底から覆される町白な年険がある急迫、不正の事
態」となっております。 、
(2)さて、そこで、「明白な危険がある急迫、不正の事態」とは、他国に
対して武力攻撃が行われていると同時に、① わが国に対しても武力攻
撃が行われている事態か、② わが国に対してまさに武力攻撃が行われ
ようとしている事態か、の2つのみとなります。これは、公明党が文
言をトーンダウンさせて「おそれ」の文字を削り、「明白な危険」の
みとなったため、このたびは特に明確に、この2つの事態のみとなった
のであります。
(3)自衛権の論理は、正当防衛の論理でありますが、正当防衛が成立する
のは、まさに急迫、不正の侵害がなされた事態であり、これは、① 現
実に不正の侵害がなされた場合と、②まさに不正の侵害がなされよう
としている場合の、2つのケースなのであります。
(4)そうなりますと、この2つの事態即ち、外国に対して武力攻撃が行わ
れていると同時に、① わが国に対じても武力攻撃が行われている事態
か、② わが国に対して、まさに武力攻撃が行われようとしている事態
の2つの事態は、いずれも、わが国に対する武力攻撃の事態でありま
すので、当然明確に個別的自衛権行使の事態であります。
(5)従いまして、この閣議決定の内容は、個別的自衛権行使の事態であ
り、この閣議決定は、集団的自衛権の行使という観点から見れば、虚
偽の閣議決定となり、「憲法解釈の変更による集団的自衛権の容認」
は、行われなかったことになります。
4、次に形式的なものであるにせよ、この閣議決定が記す集団的自衛権行使
の事態を日米防衛協力の指針(ガイドライン)に規定することは、不可能
であります。なぜならば、日米防衛協力の指針(ガイドライン)の上部の
条約である日米安保条約では、日本が発動できるのは個別的自衛権のみだ
からであります。その理由は、次のとおりであります。
(1)日米安保条約第5条は、「各締約国はこ日本国の施政の下にある領域
における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を
危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従
って共通の危険に対処するように行動することを宣言する。」と定め
ています。
(2)ここで、「日本国の施政の下にある領域」とは、「日本国の領土、領
海、領空及びその周辺海空域」とされています。
(3)即ち、日米安保条約第5条では、日米両国は、日本国の施政の下にあ
る領域におけるいずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安
全を危うくするものであることを認めているわけであります。従っ
て、わが国の施政の下にある領域においては、米国に対する武力攻撃
であっても、日本は、これが自国の平和及び安全を危うくするもので
あることを認めて、日米は共通の危険に対処するように行動すること
になっているのであります。 .
(4)この場合、日本の施政の下にある領域において米国に対して行われた
武力攻撃は、日本の施政の下にある領域に対して行われた武力攻撃で
すから、同時に日本の主権を侵害しております。従って、同時に日本
に対する武力攻撃になります。従って、日本にあっては、個別的自衛
権の行使となります。この場合、日米共同作戦が行われることが多い
と思われますが、日米共同作戦は、日本にあっては個別的自衛権の行
使であって、集団的自衛権の行使ではありません。
(5)従って、日米安保条約における武力行使は、日本は個別的自衛権の行
使、アメリカは集団的自衛権の行使となるのであります。
(6)一方、日本国の施政の下にある領域の外の区域においては、日米安保
条約は適用されませんので、その区域において、日本が「日米安保条
約に基づき集団的自衛権を行使する」ということはありえないのであ
ります。
(7)この閣議決定に関連して、政府が示した一問一答では、「日米安保条
約の改正は考えていない。」と記されています。-方、集団的自衛権
の行使には、条約が必要です。しかし、安保条約は改正しないのです
から安保条約は現行のものとなり、この条約の下で、日本が集団的自
衛権を行使することは、ありえません。
5(1)このように、このたびの閣議決定は、内容は集団的自衛権の行使では
ありません。また集団的自衛権の行使について、日米防衛協力の指針
(ガイドライン)に規定をおくことはできません。
(2)このように虚偽の閣議決定は、早急に撤回すべきものであります。
(3)もし、撤回されない場合は、きわめて危険なことになります。それ
は、この閣議決定は、現在のところは虚偽の閣議決定であるとして
も、これがエスカレートの火種となることがあるからであります。虚
偽の閣議決定であっても、これがエスカレートして行く過程におい
て実となり、実の集団的自衛権となって行くおそれがあることは、十
分に警戒すべきことであります。
6、なお、安倍総理は、前回に引き続き、今回の記者会見でも、日本人を輸送
しているアメリカの輸送艦を日本の軍艦が護衛する行動を集団的自衛権行
使の例としてあげておられます。しかし、日本の軍艦が護っているのは、
日本人であり、日本人の生命や安全を害する行為は、日本の主権の侵害で
ありますので、日本国に対する武力攻撃となります。従って、本件は個別
的自衛権の事例であることを申し添えます。日本人を輸送しているのが、
米軍の輸送艦であっても、民間の輸送船であっても同じことです。
TBSニュースから転載します。出所は、
http://news.tbs.co.jp/20140702/newseye/tbs_newseye2239786.html 動画もアップロードされています。
◇ ◇ ◇
1日に閣議決定された集団的自衛権です。舞台となった自民・公明の与党協議は密室で行われ、内容は明らかにされていません。「NEWS23」では、その「議事録」を独自に入手しました。ここには、閣議決定に向けての自民・公明の生々しい議論が記されています。
「私たちはまだ国民から十分理解を得られていないというのは、そのとおりだと思いますし、それを理解を得るべく説明責任を果たしていく」(自民党 高村正彦副総裁)
自民・公明の与党協議では何が話されたのでしょうか。密室で行われたため、その内容は明らかにされてきませんでした。それを知る手がかりがここにあります。11回に及ぶ協議で誰がどう発言したのかをまとめた議事録の概要です。
集団的自衛権についての議論は4回目から始まりました。政府・自民党側は、「米艦防護」などの具体的な事例について議論を進めようとしましたが、公明党・北側副代表が疑問を呈しました。
<従来の法制でどこまで対応できて、どこから対応できないのか説明してほしい>(公明党 北側一雄副代表)
政府側は、「個別的自衛権では対応できない“隙間”が存在する」と一般論に終始。各事例について突っ込んだ議論が行われていなかったことが議事録からはうかがえます。そして、5回目の協議で高村氏がついに切り出しました。
<今国会中に閣議決定を行えるような与党の合意を得たいと考えている>(自民党 高村正彦副総裁)
同時に、ある提案を行いました。
<北側副代表と自分の間で閣議決定案を与党協議会に出すのがよいのか話をさせてほしい>(自民党 高村正彦副総裁)
与党協議の場を離れ、2人だけの水面下で段取りを進めていく意向を示したのです。
そして、協議終盤。政府・自民党は、「機雷掃海」などに限り国連決議に基づく多国籍軍と一体になって行うことも自衛権の新たな要件に含まれるとしたのです。しかし、公明党は反発。機雷の掃海は武力行使とみなされるほか、集団安全保障を認めてしまえば、イラクやアフガニスタンであっても認めることになるというのが理由です。
<党の中の議論をまとめようと努力している中で、議論をまとめられるか自信がなくなる>(公明側)
政府・自民党側は先送りを提案しました。
<(集団安全保障は)今は何も決まっていない。少なくとも閣議決定が行われるまでは静かにしているべき>(自民党 高村正彦副総裁)
実質最後の協議となった第10回目。公明党幹部は党内を説得するため「解釈改憲」という言い回しの変更を求めました。高村氏は・・・
<解釈改憲は行ってはいけないことであり、解釈の変更だ」(自民党 高村正彦副総裁)
<解釈の適正化の方がいい>(公明党 北側一雄副代表)
言葉の言い回しをどうするかで頭を悩ます自公幹部たち。最後は高村氏が・・・
<それぞれがそれぞれの言葉で説明すればよい>(自民党 高村正彦副総裁)
毎日新聞からニュース転載します。山中光茂・三重県松阪市長は38歳。慶応大学法学部と群馬大学医学部を卒業、医師免許取得。松下政経塾、県議を経て、松阪市長2期目。若く力のある人が違憲訴訟を起こすというのですからありがたい。私自身は違憲提起する力がありませんが、全国各地で違憲訴訟を起こす人が現れることを待ち望みます。
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集団的自衛権 松阪市長、違憲確認求め提訴へ
毎日新聞 2014年07月03日 12時55分(最終更新 07月03日 15時03分)
安倍政権が集団的自衛権の行使容認を閣議決定したことに対し、三重県松阪市の山中光茂(みつしげ)市長(38)は3日、記者会見し「平和国家の原点を壊す政府の行為にしっかりと行動を起こさねばならない」として、違憲確認を求めて国を提訴することも視野に行動することを明らかにした。
政府見解について山中市長は「安倍総理がいう『武力による抑止』ではなく、『徹底した平和主義による抑止』を目指すべきで、それが次世代に引き継ぐ日本の誇りだ」と指摘。今後の活動としては「市民レベルで事務局をつくり、『ピース・ウイング』活動と名付け、国民的議論を深めたい」と述べた。
早稲田大学法学学術院の長谷部恭男教授の評論を転載いたします。出所は『YOMIURI ONLINE=WASEDA ONLINE』http://www.yomiuri.co.jp/adv/wol/opinion/gover-eco_140623.html です。
◇憲法は集団的自衛権を禁止
日本政府は、憲法9条について、日本を防衛するための必要最小限度の実力の保持とその行使は禁じていないとの立場をとってきました。国連憲章51条の規定する自衛権のうち、自国を防衛するための個別的自衛権は行使できます。
他方、自国と密接な関係にある外国が攻撃を受けたとき、それに対処するために実力を行使するという集団的自衛権は、日本を防衛するための必要最小限度の実力の行使とは言えないため、憲法の認めるところではないとされてきました。
この概念が、ソ連によるチェコスロヴァキアへの侵攻やアメリカによるベトナムへの攻撃等の際、不当な軍事力の行使を正当化するために使われ、集団的自衛権への懸念を深めてきたことも背景にあります。
◇国内法としての効力――憲法が国連憲章を上回る
国連憲章が認めている権利を憲法が否定するのはおかしいと言われることがありますが、別におかしくはありません。タバコを吸う権利は大人であれば誰にもあるが、健康のことを考えて、私はやめておくというのがおかしくないのと同じです。
また、国内法の効力としては憲法の効力が条約の効力を上回ります。国連憲章も一種の条約です。国連憲章を根拠として憲法による禁止がおかしいと主張するのは、逆立ちした議論です。
◇集団的自衛権行使には憲法改正が必要――従来の政府答弁
政府はこれまで国会での答弁等で、集団的自衛権の行使は憲法で禁じられているだけでなく、こうした憲法解釈は変更できないもので、集団的自衛権を行使するなら、憲法改正の手続に訴える必要があるとしてきました。
◇立憲主義を覆す行使容認への動き
現在の安倍政権は、この憲法解釈を変更しようとしています。この動きは多くの深刻な問題をはらんでいます。まずこの変更は、憲法によって政治権力を制約するという立憲主義を覆すものです。中長期的に遵守すべき、そしてどんな政党で構成される政府であっても、その権限をしばるべき憲法の意味を、特定の時点に政権の座にいる人々の考えで変えてしまうのですから。
集団的自衛権の行使容認はアメリカとの同盟関係強化につながるとも言われますが、それが日本の国益に適うかも明らかでありません。「集団的自衛権は行使できない、だから協力できません」と言うより、「集団的自衛権は行使できるが、政府の判断で協力しません」と言う方が、アメリカとの同盟関係はよほど深く傷つきます。つまり、集団的自衛権の行使に踏み出した以上、日本の立場から見てどんなにおかしな軍事行動でも、アメリカに付き合わざるを得なくなります。そして、イラク戦争やリビアへの軍事攻撃に見られるように、アメリカは、国際法上の諸原則に忠実に行動するとは限らない国家です。
◇限定容認論――空虚な内容で歯止めにならない
集団的自衛権の行使に条件を付ければよい。日本の安全を損なうことにはならない、と言われることもあります。しかし第一に、この主張は、違憲であるはずのものを合憲にする論拠にはなりません。
違憲か合憲か判断が難しい微妙な問題については、条件を付けることで、ここまではギリギリ合憲だという判断を示すこともあり得るでしょう。靖国神社の公式参拝について、政府はそうした見解を示しています。
しかし、はっきり違憲だとされてきたものが、条件を付ければ合憲になるという主張は、およそ理解ができません。
他方、条件と言われるものが意味のある実効的な限定になるか否かは、条件の中身によります。
たとえば、被害国からの援助要請があることや、第3国の領海・領空を通過する際にその国の同意を得ること、実力の行使の内容が、攻撃に対処する上で必要最小限のものであること等は、国際法上、当然に要求されることで、わざわざ「限定」と言うには値しません。
また、行使の是非を首相が判断することや、自衛隊の出動について国会の承認を得ることは、現在の自衛隊法上の防衛出動、つまり個別的自衛権の行使についてすでに要求されていることで、集団的自衛権の行使だからと言って、外すことがむしろおかしい条件です。
さらに国際法上の当然の条件以外に、集団的自衛権の行使に日本独自の条件を付けるとしても、それは憲法が要求する歯止めにはなりません。
集団的自衛権行使を容認すべきだと主張する人々は、国際法で認められている権利が憲法で制約されるのはおかしいと言ってきた人々です。今更、憲法で集団的自衛権の行使が限定されているとは言えないはずです。
つまり「条件」と言われているのも、現在の政府の政策的判断に基づく条件にすぎず、政府の判断で簡単に外すことができるということになります。これで歯止めになるはずがありません。
もっとも、憲法の解釈でさえ、その時々の政府の判断で変えられるという人たちからすれば、この点の違いはさしたるものではないのかも知れません。
この人たちに、国民の生死にかかわる問題についての判断を無限定なまま委ねてよいのか、そこまでこの人たちを信用できるのか。それが問われています。
※1 ソ連によるチェコスロバキア侵攻
1968年8月20日夜11時頃、ソ連率いるワルシャワ条約機構の諸国軍が国境を突破し侵攻。民主化運動が広がっていたチェコスロヴァキア全土を占領下に置いた。「プラハの春」として知られる。
※2 ベトナム戦争
米国は1961年から軍事顧問団を派遣してベトナム戦争に関与する。1964年トンキン湾事件(北ベトナム魚雷艇が米国駆逐艦マドックスを魚雷攻撃)を契機に米軍の大量派遣が始まった。南ベトナム派遣米軍は最大時で54人。1975年4月、南ベトナム首都サイゴン陥落で戦争が終わる。他の派兵国は韓国、ニュージーランド、オーストラリア、タイ、カンボジア、ラオス。米軍の大規模介入の契機となったトンキン湾事件は後に、米国のでっち上げだったことが判明。イラク戦争でも米国の開戦目的である大量破壊兵器は結果的に無かった。米国を一概には信用できないところである。
◎長谷部 恭男(はせべ・やすお)/早稲田大学法学学術院教授
1956年生まれ。1979年東京大学法学部卒業。学習院大学法学部教授、東京大学法学部教授等を経て、2014年より現職。ロンドン大学客員研究員、ニューヨーク大学客員教授、国際憲法学会副会長、東京大学法科大学院長等を歴任。
(主な研究テーマ) 立憲主義の理論的基礎、放送・通信法制
(主な著書) 『憲法学のフロンティア』(岩波書店、2013年)、『憲法の円環』(岩波書店、2013年)、『憲法の境界』(羽鳥書店、2009年)、『憲法の理性』(東京大学出版会、2006年)、『比較不能な価値の迷路』(東京大学出版会、2000年)、『憲法学のフロンティア』(岩波書店、1999年)、『テレビの憲法理論』(弘文堂、1992年)、『権力への懐疑』(日本評論社、1991年)