今朝(2009.8.26.)の毎日新聞『記者の目』欄は、論説室・倉重篤郎が書いています。趣旨は次の通り。
①1996年に始動した小選挙区制度は政権交代を促進させる目的で導入された。
②だから「民主300議席」世論調査予測は当たりだろう。
③自民党は1990年の冷戦、経済バブルの同時崩壊でその使命を終えていた。
④自民党の衆院議席は96年239、00年233、03年237と過半数を割り、公明党の取り込みで延命し てきた。
⑤民主党は政策、人材両面で政権担当能力を向上させてきた。
⑥特に今回のマニフェストは出来がいい。子ども手当5兆円は少子高齢化の時代に応じて重点配分する 良策だ。農家への所得補償、高速無料化、高校授業料無料化もしかり。
⑦必要な財源17兆円は官僚会計の無駄からすべて調達する、自信ありますというのだからお手並み拝 見しよう。
⑧選挙による政権交代は民主国家の証明だから驚き慌てることはない。当然のことが起こらんとしている だけだ。
⑨政権交代の妙味は、従来の政権ではできなかった中長期の課題設定と実現にある。それを二つあげた い。
⑩一つ。円安・外需依存・成長率重視という日本経済の発展モデルは、新興国台頭、地球環境・エネルギ ー制約の壁に阻まれている。内需をうまく回転させ、GDPだけに頼らない幸せ感をどう作り上げるか。
⑪10人が1人のお年寄りに仕送りする時代(1980年実績)から、3人で1人(2013年予測)という時代 の社会保障制度をどう作り上げるか。民主案を軸に抜本改革をするチャンスだ。
⑫二つ。日米関係の対等化。外交・安全保障は米国に委ねて経済発展に専念してきた日本のやり方は 正解だった。その反面、国家としての自主性を著しく劣化させた。見直しが必要だ。在日米軍基地の扱 いと日本の外交力強化がカギにぎるだろう。核の傘から普天間移転まで難題山積だが、「緊密なる対等 化」というキーコンセプトは正しい。明治維新、戦後復興に匹敵する知恵とエネルギーが必要かもしれ ない。
8月30日投票の衆院選は、追われる自民・公明にとっては死にものぐるいの戦いになっています。追う民主党にとっても、単独過半数が視野に入って死にものぐるいの追いこみです。それぞれの政党支持有権者も必死です。無党派の有権者は是々非々ですから、各党のマニフェストや候補者の人柄の見極めに力をふりしぼっています。
そういう投票直前の緊張した時期に、あっけらかんとして、民主党圧勝前提で新聞読者を啓蒙するかのような評論が掲載されてびっくりしています。……倉重さん、お気楽な立場のようですね。
記事を読めば、毎日新聞論説室の倉重さんが民主党政権を心待ちにしているのはよくわかります。各党議席分布が判明する9月1日まで待ちきれなかったのでしょう。しかし、このていどの辛抱ができない倉重さんに啓蒙されるほど、有権者は浅はかではありません。
上記①~③と⑧は、「今回の政権交代(※8月26日現在は未だ交代していませんが)は皆さんが驚くほど大変なできごとではありません。選挙制度と冷戦終結の当然の結果なんです」と、読者に呼びかけています。政権党を取り替えよう、そうはさせじと有権者のボルテージも上がっていますが、驚いているわけではありません。倉重さん、心配ご無用ですよ。
上記⑥は、民主党の主要政策に全面的賛成ということで、倉重さんの民主党への肩入れが並みのものではないことを示しています。
子ども手当て26000円、高速無料について、私のまわりには不安感を持っている人が多くいます。これはわかりやすいからです。中学生までの子どもには無条件に支給、高速を走る人は無条件にタダ。この「無条件」に不安を持っているのです。あんまりうますぎて、その見返りに選挙が終わってから何か損することが出てくるのではという警戒感です。私の身の回りの既婚女性には、そういう警戒心を持っている人が多いのです。
倉重さん、大新聞社の論説室の中で読者に教えようとするより、ドブ板取材をしてください。
上記⑦は、余りにも無責任な発言です。官僚会計のムダを省けば17兆円が出てくるというのを信用してみようと言う。お金持ちが家計を節約するのはしやすい。でも中堅以下の勤務先の給与所得者の家計は既にぎりぎりだ。国の会計も今はぎりぎり状態なんです。そこを節約すれば17兆円が出る、とは信じ難いというのが普通の人の感覚です。今回は民主党に勝たせたいという人だって、大方の人は財源論議に不安を感じています。
上記⑨の「政権交代の妙味」という言葉自体が、不快きわまりない。選ばれる側だけでなく、今回は選ぶ側だって気合が入っています。各候補は土壇場の死闘をくり広げている。選挙戦が終わっていない段階で、民主党政権を前提に「政権交代の妙味」などと軽く言える無責任な評論人など、新聞人失格です。
上記⑩⑪について、その課題の解決に向けて、「1/2税負担」などの改善策が採用されてきました。経済の内需主導型への転換と社会保障の機能確保・強化は、今では日本社会の共通認識になっています。今、この時期に毎日新聞の論説委員に教えていただかなくても、私たちの課題認識は十分にあります。
上記⑫について、外交力強化とは具体的にどうすれば良いのでしょうか。日本の外交力と言えば、日米安保条約とアメリカの核の傘が基本的に大きな柱です。戦後日本は日米安保条約とアメリカの核の傘の力に頼って、中・露・台・韓・朝の東アジア国際パワーの中を生き抜いてきました。平和を維持するためには、現実の国際政治の中では軍事力の計量・配備が前提になっています。こうしたことから、米軍基地の扱いが難題であることは、誰でも知っています。評論人として問題提起をするなら、具体的な解決策を私案として提示してください。それでなければ、上記の評論記事は無益な駄文にすぎません。
同じく上記⑫について、「明治維新、戦後復興に匹敵する知恵とエネルギーが必要かもしれない」とは、これもステレオタイプな感想です。現代日本人は、大改革や大変革などと積極的に思いを馳せると、ほとんどの人が明治維新を連想します。国難というように解体的出直しなどのイメージを浮かべると、昭和20年敗戦を連想します。
全体に、きょうの毎日新聞・倉重『記者の目』は、倉重自身が民主党圧勝予測に浮かれてしまい、民主党政権のスタートに当たって、早々と読者に教えを垂れるというものです。しかも、その中身たるや、得るところはゼロ。倉重さんの啓蒙気取り、上から目線、軽薄さが際立つばかりです。
新しい勢力分野が確定した後に、落ち着いて時代を憂い、あらためて時代の行くべき道をしっかりと提案してください。