◇提携ローン
姉歯建築設計事務所のマンション、ホテル、ビル建築構造計算書偽造問題では多くの問題がクローズアップされています。マンションを購入した消費者もホテルを建てた事業会社も、融資金の返済が大変ですね。きょうの焦点はこのローンのことです。
マンションであれ、自動車であれ、宝石や呉服であれ(以下「商品」と呼びます)、購入者が使うローンは提携ローンです。販売会社が特定の自社商品の購入者に融資してほしいと金融機関に申し入れます。販売会社にとってローン設定は、高額商品の販売に不可欠です。
金融機関は販売会社の申し入れの内容を検討した結果、申し入れしてきた販売会社が申し入れしてきた商品を売るときには、ローン貸し付けをすることにします。金融機関にとっても、金利稼ぎのビジネスで、これが提携ローンです。
◇提携ローンであっても融資契約は購入契約と無関係
消費者が何らかの商品を購入するとき、(1)購入者と販売会社との購入契約、(2)購入者と金融機関との融資契約の、独立した2本の契約が成立します。契約対象の商品に瑕疵がないことは、当然の前提です。
提携ローンの融資は、金融機関が承認した販売契約の成立を確認した後に実行されます。しかし融資実行の後は、販売契約と関係を断ち切って、世間のしがらみは存じませんとばかりに、貸し付け相手からの元金・金利共の回収に専念します。
◇欠陥品なので提携ローンの支払いを止める
提携ローンの対象商品が欠陥品であったらどうなる? 融資(貸し付け)実行時には販売契約の成立が条件で、融資(貸し付け)金はそっくりそのまま販売会社に振り込まれます。購入者の手元に借りたお金の姿はありません。
買った商品が欠陥品であったとき、販売会社への支払いを止め、商品を返すから支払い済みの代金を返してくれと、購入者は要求します。これは常識的で当たり前のことです。
ローンを使っている場合、同じ理屈でローンを止めるとします。金融機関は当然、ローンの支払い停止は不当だといってきます。強圧的に支払えといってきます。
こちらは、欠陥商品だからこんなものに金は払えないといいます。金融機関は、それはお宅と販売会社のもめごとで、うち(金融機関)とは関係ないことだといいます。うちの融資契約の相手はお宅であって、販売会社は関係ない。バカなことをいわないでくれ、と金融機関はいいます。
この理屈、おかしいとは思いませんか! 融資の条件は、関係ないといっているその商品を、その販売会社から買う契約をすることでした。契約の成立確認後にその販売会社に、融資金が振り込まれているのです。
それなのに、購入者はローン残金を払いつづけねばなりません。不合理であっても、そういう条件でないと、この日本ではお金を貸してくれる金融機関がありません!
◇普通の取引なら欠陥商品をネタにお金を取る人はいない
私が関係する仕事で、土地の取引の例をあげましょう。ある戸建ての建て売り会社に宅建業者が土地を仲介して売ります。
この場合、契約書には必ず「開発許可時に代金決済」「建築確認時に代金決済」などと記入されます。開発許可とか建築確認がおりないならば、販売用の住宅建築ができません。そんな土地は欠陥商品だからです。
この土地取引のケースでは、一度契約が成立しますので、建前では宅建業者は土地の仲介手数料をもらえます。ですが商売の実態としては、規制その他の事情で住宅建築ができない土地であると判明したならば、手数料をもらうことができません。
欠陥商品に関係した取引では、取引関係者すべてが利益の収受をあきらめるというのが、普通の人情、あたりまえの道徳だろうと思います。
ローン契約における金融機関のケースが、世間の取引一般の事情の中では、「特殊」なのです。
◇金貸しの論理-提携ローンが悪徳商法会社でも金融機関は「関知しません」
まったく別の問題で、宝石や呉服を強圧的な勧誘方法で販売し、ローンを設定して支払わせるという販売会社が犯罪者として摘発されたことがあり、類似の事件はほとぼりのさめたころに重ねて発生しています。この場合、宝石や呉服の購入者は悪徳商法の犠牲者です。
購入取引の対象が欠陥商品であったり、購入取引そのものが犯罪的であったり詐欺的であったりすれば、その購入取引そのものが原状復旧されて当然でしょう。
欠陥商品の返品と支払い対価の返戻、或いは取引契約の解消(契約の解約行為か契約未成立という解釈)ということが、購入取引の原状復旧に当たるでしょう。
ところが、販売会社と購入者との購入契約は原状復旧されても、金融機関とのローン(融資契約)はどんな場合でも有効とされています。金融機関は当初からあらゆる責任から逃れられるよう契約条項を定めています。
提携ローンの場合は、不当な購入取引と認定されれば、実際に金を握った販売会社から融資金の回収をするべきでしょう。
金融機関は融資金が、特定の販売会社に支払われることを承認しているのです。契約書の文言がどうであれ、実際は、使途と支払先を特定している融資契約です。瑕疵ある購入取引に関する融資契約ならば、特定している使途と支払先に瑕疵があります。
となれば、融資契約だって原状復旧され、金融機関は販売会社から融資金を回収するのがスジだろうと思います。しかし現実には、購入取引の被害者で損をしている購入者から、融資金を取り立てるのです。
金融機関は、貸し付ける相手の審査をします。貸し付ける金銭対価の素、すなわち商売のネタに欠陥があろうが、不法・犯罪的であろうが、いったん貸したお金は取り立てます。購入者が払いつづけなければ強引に取り立てます。元金だけでなく、金利も取り立てます。延滞金利だって上乗せします。非情な金貸しの論理です。
◇「合法的」が道徳的に正しいとは限らない!
合法的ということが正しいとは限りません! 弱者は強者との不当な取引にも従うよりほかありません。私のモットーである「手ざわり生活実感的」には、金融機関のポジションは不合理な取引があることを承知の上で、取引の犠牲者に追い打ちをかける「反社会性を帯びて」います。