〇 川勝静岡県知事の奮闘には意義がある
静岡県の川勝平太知事が国策のリニア新幹線工事を巡って、妥協なき戦いをしています。
国策工事の圧力にさらされようが、近隣県や当の静岡県内の国策工事を早く進めたい群れから非難批判にさらされようが、地下水を守ろうとする姿を見て応援せずにはいられません。
4月11日午前11時ごろ、JR東海の丹羽新社長が前社長であった金子会長とともに、静岡県庁の川勝知事を新任あいさつのため訪ねました。そのニュースが一斉に伝えられましたが、どのニュースも静岡工区が着手できないためにリニア新幹線開業時期の目途が立たないことも併せて伝えました。
事実はその通りなんです。しかし、リニア新幹線の完成予定が大幅に遅れているという事実と、川勝静岡県知事が静岡工区の地下水流出の件で着工許可を出さないからという事実が何年も続いている間に、「わからず屋の知事のおかげで」という空気がまん延してきているように思います。
しかしながら、同じJRでJR東日本の「信濃川不正取水」という悪例があります。川勝知事が「二リア工事地下水流出課題」について厳格に取り組むことは当然のことです。
〇 リニア計画を捨てて南鳥島海底のレアアース開発を最優先国策工事に
4月13日だったと思いますが、お昼番組のワイドスクランブルを見ておりましたら、丹羽新社長の川勝知事訪問ニュースを取り上げて、リニア新幹線の静岡工区未着工のためにリニア開業時期の見通しが立っていない事情を実に簡単に紹介しました。
それと同時に、中国のリニア鉄道計画がどんどん進んでいて、このままでは日本のリニア先端技術が中国の後塵を拝するというかのような話を紹介しました。
中国の国土は広大な大陸に広がっており、さらに習近平主席の「一路一帯」という野心的な経済侵略構想には必須なのでしょう。
しかし日本の将来にとって二リア鉄道技術は、必須のものではありません。日本の将来にとって原発輸出が必要ないのと同じです。
さまざまな問題を抱えているリニア計画は早く廃止した方が良い。同じ国策工事をするなら、ちっぽけなリニア計画を捨てて、それとは比較にならないほど重要性の高い南鳥島周辺海域のレアアース大規模開発に、一刻も早く国力を傾けるべきです。この海底のレアアース埋蔵量は実に世界需要の数百年分と言います。
〇 ワイドスクランブルでの中室牧子教授のコメント
そのうえで司会の大下容子アナが、コメンテーターの中室牧子慶応大学教授にコメントを求めました。
わたしは中室教授は実務家タイプで、非常に優秀な人という好印象を受けています。
近年、データサイエンティストという肩書の若い優秀な人が出てきていますが、中室教授もそういうタイプの人です。コメントを求められると何であれ即座に、スピードの速い話しぶりでにこやかに、しかも理路整然と、大方の場合は語り口に何か一つのデータを折りこんで、実務的説得力のあるコメントを終わる──というスタイルの人です。
この日、中室教授は、「静岡工区未着工のためにリニア新幹線の工事の進捗の目途が立っていないので、なんとかしなければ」という視点でコメントしました。
大下容子アナが、地下水の問題が焦点になっていると、未着工のポイントを中室教授に振りました。
中室教授は「そういうことがあるにしても、これほどの大事業で莫大な資金を投入しているのだから、計画を断念したり、工事が遅延するという無駄はできません」と、工事を急ぐべきいう趣旨のことを話しました。
中室教授のお話はいつものごとく説得力のあるものでしたが、残念ながらここには、経済的実利主義の価値観しか見られません。仮に地下水の持つ重要性に無知であったとしても、立ち止まるくらいの視点があっても良いだろうと思います。
このように優れた知性であっても、その人の知性の方向は一様ではないということに、わたしたちは常に注目しておかねばなりません。
知性の方向はその人の視点に固有のものであり、その人の視点はその人の価値観によるものであり、その価値観はその人の成長過程や次々と積まれていく学問環境や実務環境などの人生経験と交錯しつつ、形成変化してきたものだと考えます。それぞれの人の知性の方向性は、その人の知性の優秀さとは無関係にわたしたちの生活に影響を及ぼします。
〇 静岡県の地下水依存率は大きい
静岡県の年間水使用量に対する地下水依存率は「62.3%」で、水道水の地下水依存率は58.6%です。
※これは2005年現在の数字で2009.5.20.発行、講談社ブルーバックス『見えない巨大水脈 地下水の科学 』P33に拠ります。国土交通省はじめ種々の最新統計を探しましたが、県別地下水使用量の最新統計をほかに見つけることができませんでした。
水利用は地球生活にとって、地球温暖化の問題と2本立てになる重要な課題です。地下水の利用や保全問題は、目前の経済問題ではかることはできません。
地下水帯水層の工事による切断がたいへん無駄な地下水流出をもたらすことは、トンネル工事やそのほかの大規模建設工事で数知れず起きています。
〇 わたしが聞いた地下水出水の実話
大きな建設会社の工事事務所長をしていたわたしの叔父(故人)から聞いた経験談があります。それは大型宅地造成工事中の地下水出水の話です。
そのとき、200ヘクタール(60万坪)の丘陵地のニュータウン宅地造成工事に数社の大手建設会社が取り組んでいて、叔父は6分の1ほどの分工区の工事所長をしていました。掘削土工をしていた現場で突然、ものすごい勢いで水が噴き出しました。地下水の流水帯か帯水層を切断してしまったのです。
なんとか止めようとして臨時の土の堤で遮るのですが、地下水の流出が止まることはなく、何日も続いたといいます。結局は流路を確保して流水の影響をなんとかしのいで、工事を続行することができたけれども、その造成工事は赤字で終わったと言います。この赤字工事のことで社内的にたいそうな非難を浴びて、それを契機にして退社する羽目になりました。東電福島第一原発メルトダウンで流行語になった「想定外」の地下水出水事故でした。