〇 [自殺] [自害] [自決] の用例分類
現代国語例解辞典第二版(小学館)に、
[自殺] [自害] [自決] の用例分類が載っています。
〈自殺〉 〈自害〉 〈自決〉
①責任をとって [**] する 〇 〇 〇
②高齢者の [**] が増えている 〇 ── ──
③敵に囲まれて [**] する ── 〇 〇
④大坂夏の陣で [**] ── 〇 △
⑤捕らえた敵将に[**] を促す ── △ 〇
①の用例は [自殺・自害・自決] の3つともに使われています。
②の用例は、長幼を問わず普通の生活人が死ぬことを選ぶと 、一般的に [自殺] と
いうことばで表すということになります。
③④⑤は戦闘に関係する事柄であるので、①も含めて戦闘に関係する職業人、すなわち軍隊の将校・下士官・兵士の自殺を特に [自害] [自決] と称するということになります。
〇 [自決] は軍隊のシステムです
昭和戦後の世になってから、軍歴のない民間人が切腹したという寡少な例外はありましたし、手首を切って自殺を図るという自刃(自害)の例もあります。しかしこれらは個人的なことです。個人的な自殺行為を自決と呼ぶわけにはまいりません。
広辞苑に [自殺] は、みずから自分の生命を絶つこと。
[自決] は、みずから決断して自分の生命を絶つこと
[自害] は、自ら傷つけて自分の生命を絶つこと。
[自刃] は、自ら刃で生命を絶つこと。
自分で自分を殺す [自殺] も自分で死ぬ [自死] も 自分で決断する [自決] も、自殺という意味を表すその他のすべての類語にあっても、その行為は、みずから決断して自分の生命を絶つ行為です。
しかし[自決] には、強制された[自決]がありました。
軍隊の倫理慣習に反すると判定されれば、生きることが許されない強制自決。
軍隊の倫理慣習に反すると判定されれば、生きることが許されない強制自決。
生きることが許されないと覚悟を定めた突撃死、戦場自決もありました。
これは、方面軍や師団の大中少の将軍を満足させる死のあり方でした。
これは、方面軍や師団の大中少の将軍を満足させる死のあり方でした。
自決しないで生還すれば、上位司令官が責任をもって自決を強制する。強制自決が完了すれば、この上位司令官は自決の責めに問われません。転属(多くの場合左遷)するか予備役編入(退役)となる。この考えは軍隊に貫徹されていました。
こういう自決のシステムは現代の私の目に、士官学校や陸大出の高級将校クラブが国家の戦争を牛耳っていたように見えます。
[自決] は軍隊のシステムなのです。
失敗や敗北の責任を取って自殺するよう奨励されるのが [自決] です。
失敗や敗北の責任を取って自殺するよう奨励されるのが [自決] です。
一方、現に軍隊の将兵でもなく、将兵の経歴も無い人が、自殺の予告や遺書において、自分の死を[自決] と称する場合は、自分の自殺という行為について、普通の人とは異なる価値があるのだと思いたい心があるのだと思います。
また、ある人の自殺を [自決した] と表現する人は、その人の自殺には普通の人とは異なる立派な動機があったのだと、周囲の人々に対して称揚したいのだと思います。ある人を [自決した] と表現する人自身が、称揚する人の死に方を通して何か自分の思いや主張を表現しているのです。
沖縄戦で住民の集団自殺を「集団自決」と呼ぶならわしは、それは国家のために必要な尊い死なのだと言い募りたい名付け親たちの気持ちの表現だと、私は思います。
次回は1939年(昭和14年)の「ノモンハン事件」の自決や突撃死の例を二つ三つ、紹介しようと思います。「事件」と呼ばれていますが、実際には日本軍とソ連(現代のロシア)軍がお互いに全力で戦い、日本が敗北した戦争です。