大津市、石山寺。2005年5月。
紫式部が源氏物語の構想を練ったという伝説がある。寺は琵琶湖を望む岩塊帯(と私が勝手に造語)の上下にあり、琵琶湖の成り立ちを地勢学的に考えるにもなかなか興味深い場所でありました。
あの名著「負け犬の遠吠え」を顕した著者が、源氏物語を読み解くとどうなるか。はい、こうなるのであります。
物語には作者紫式部の欲望が隠されている。人には言えない醜い心も、作中の人物の言動に仮託して表現すれば心すっきり。読者も自分の中の思いに気が付き、なるほどと膝を打つ。そういう構造。
それを今の時代の感覚、言葉で表すのでとても読みやすい。元は何かの雑誌に連載されていたもの。巻末の登場人物と系図、夢浮橋までの各章の粗筋も親切。
教室で習う源氏物語はまどろこしくって退屈だったりするわけですが、日本最古の小説、不朽の名作などと構えず、お話として読めば楽しめる。そう気づかせてくれる本です。
源氏物語は日本人の基本的素養。「源氏」以後の文学作品は、少なからず影響を受け、それ知らずには意味に届かないものもある。当地の戦国大名毛利元就だって、京都から先生を呼んで広島の奥、吉田の地で源氏物語を読んでたんだから、これからも連綿と読み継がれていくことでしょう。解説本に至ってはそれこそ星の数。
わけてもこの本はとびっきりにcasual、入門書としてお勧めです。