尾道の海辺はすっかりきれいになって・・・「東京物語」のラストシーン、笠智衆と東山千栄子が海を眺めていたのはこの付近でしょうか。尾道では早く東京に着きすぎるので、今回はフェリーで渡る島にしたとのこと。
評判の邦画、「東京家族」を見た。小津安二郎の「東京物語」へのオマージュであるこの作品は、作品の設定は踏襲しつつも、次男は戦死ではなく、非正規雇用で舞台芸術の仕事をしているように替えている。
その他はほぼ同じ。松竹風の人の心の動きを淡々と追っていく映画は、見ていて疲れないし、もののあふれた三人の子供の家がものすごくリアリティがあってよかった。どの家も狭くて、整理してなくて、つい掃除をしてあげたくなった。
そういう細部へのこだわりが、映画のリアリティを支えているんだと思う。長男の家で吉行和子演じるとみこが急死し、家族が慌てふためき、お骨にして瀬戸内の島へ持ち帰り葬儀が営まれる。この辺りがこの映画のクライマックス。
どんな人も必ず体験するのが身内の死。それを過不足なく描き、見るものは自分の体験に照らし合わせてグッとくる。
考えてみれば、人は生まれて育ち、やがて人と出会って家庭を持ち、子供が育ち、歳とって死んでいく。この当たり前の営みの繰り返し。その人生の中に、喜びも悲しみも、あらゆるものが詰まっている。
多少ぎくはゃくしても、お互い最後は分かり合えるという家族への静かな賞賛を、私はこの映画で感じました。また次男の恋人を通じて、心の優しさがどれだけ人を力づけるか、そのこともこの映画の見どころと思いますが、むしろ脇役の長男のお嫁さんも出過ぎず、しかもよく気もつくし、義父母の泊まる部屋を確保するため、子供の部屋を提供するし、あんな人、今の時代にいるんだろうかと思うほどよくできた人に私は思いました。
見てない方は見られてもいいと思います。人が死ぬところはやっぱり泣けるし、涙は心にたまった澱を洗い流してくれる働きもあります。普段の生活ではなかなか喜怒哀楽を前面には出せないので、泣くのも心が癒される感じです。
映画の中で、「広島の東洋座で第三の男を見た」というセリフがあり、ハッとしました。今こうしてこの映画を見ている映画館こそ、松竹東洋座が閉館した同じ場所に、三年前にリニューアルしてできた映画館だったから。
この映画館は、とっても楽に映画が見られます。座席は地元高級家具メーカー、マル二の特注品。ゆったり広くて、前にはテーブルがあり、下は荷物が置けるし、脚は伸ばせるし、言うことなしですね。トイレもきれいだし。
交通の便のいい繁華街、デパートの8階にあるし、シネコンのあのけたたましいインフォメーションがないし、今度は閉館せずに頑張ってもらいたいものです。
映画の中で、長男と次男、俳優さんの年が離れすぎてるように思った。逆にお父さんと長男はあまり年の違わないおじさんに見えたし。
そもそも今の時代、上京して子供たちの家に泊めてもらえるなんてある意味贅沢かも。高級ホテルよりは子供と過ごしたいのが親の本音。でも遠慮して、初めからホテル予約する人も多いんじゃないかな。
とみこは68歳の設定。でもあんな純真な60代、私の周りにはいませんね。もちろん私も。あんなに虚心に家族のことを思えるなんて。。。。
でも夫に一通りの家事をさせていなかったのは手落ちだと思う。子供が当てにならない今の時代、夫に家事能力を付けさせるのも愛情のうち。最後は隣の人が家事をしてくれるなんて、どこまで男を甘やかせてるんだあ。洗濯くらい簡単だから、自分でやってもらいたいもんだ。
せっかく感動してたのに、やや興ざめ。その心配もせずに東京に引き上げた長男長女の薄情さを強調したいためかもしれんが、いくら瀬戸内の島だってそこまで人情に篤くないだろと思う私はすでにしてすれっからし。