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「声の残り」 ドナルドキーン

2013-08-09 | 読書

妙覚寺大門。聚楽第の遺構だそうで。2010年3月、京都で。


ドナルドキーンはアメリカ生まれ、現在91歳。長年、古典を含む日本文学の研究、評論、欧米への紹介をした人で2008年には文化勲章も受けている。

この本の元になるのは、20年以上前に朝日新聞に連載していたもの。一週間に一度だかのペースがまどろこしくて、今回改めてまとめて読んでみた。よかったです。

取り上げられた作家は火野葦平から安部公房までの18人、谷崎、川端、三島などそうそうたる顔ぶれ。執筆当時は存命だった人も次々と鬼籍に入り、今はわずかに大江健三郎だけが生きている。

全編を貫くのは文学者への敬愛、こういう空間があったことがつくづく羨ましい。そして、作家も意外な一面を見せる。川端康成がとても気を遣う人で、かつ謙虚な人柄だって知らなかった。気難しい人とばかり思っていた。

谷崎潤一郎との交遊も面白い。京都の風雅な邸宅の手洗いは「陰影礼賛」のイメージを覆す明るくて清潔だったこと、谷崎の葬儀には「細雪」の四姉が眼前で焼香をして目をぱちくりしたとか、身近に接した人にだけ分かるエピソードが、他の作家についても満載。

三島は天人五衰を書き上げた日に自衛隊へ突入して自決したことになっているが、実はその年の八月、著者は出来上がった原稿をすでに見せられていたとか。

川端がノーベル文学賞を受けなければ、川端も三島も死ぬことはなかったのでは・・・と著者はふと思う。深く交流した人だけがそのような感慨を抱けるのだろう。

戦後文学も遠くなってしまったけど、このようなよき理解者を得たことを幸いとしなければと思った。そして著者は東北大震災をきっかけに、日本へ帰化した。日本文学と日本に捧げた長い年月に敬意を表したい。

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