愛媛県内子町大瀬、作家の実家はミツマタを買い入れて造幣局へ納める仕事をしていたそうです。ビールケースの向こうがその実家。
集落の後ろは清流小田川。
この本では家の後ろ=川に向かった家の南側は畑があって、子供の頃、木の上に本を読むための自分専用の小屋を作ったこと、川の中の大きな岩の窪みに頭を入れて泳ぐウグイを見るうち、頭が抜けなくなっておぼれかけたこと、店の奥で事務を執る父親の記憶など、分かりやすく語られている。
先月行ったばかりなので興味深く読んだけど、この人のを読むのは何年振りだろう。「治療塔惑星」のあとは記憶がない。25年ぶりくらい???
10年以上前、若い人に向けて書いたエッセイ集で週刊朝日に連載していたもの。難しい言い回しは全然なくて、自分の生い立ち、読書に対する姿勢、渡辺一夫に憧れて東大仏文科に進んだこと、障がい者のご長男と家族のことなどが率直に語られる。
著者は本好きで、ちょっと変わった子供としていじめやからかいの対象になることもあった。その経験を踏まえて、若い人に意地悪をしても何も生み出さないと思うだけでいいとアドバイスしている。
また地区の教師から「仏文科出ても愛媛県では職がない」と家族まで注意される(難癖付けられる)。人間は自分の見聞の範囲でしかものごとを理解、判断できないいい例だと思うが、狭い地域社会で、少年時代の著者は本をたくさん読むことで広い世界へ出て行こうという思いを育てたのだと思う。
私は長い間、小説の森の話は大げさに描いているとばかり思っていたけれど、内子への近さは別にして、深い森と清冽な流れが作家の感性を育てたことが理解できた。行ってよかったと思う。
権威に惑わされることなく、自分のしたいことをたゆまずやり続けること。若い人に向けて放つ言葉はやはりその人となりをよく顕していると思った。大人が読んでも充分面白かったです。