http://photo.yu-travel.net/ この写真は「フリー写真素材集 食べもの」よりお借りしました。ありがとうございます。
以前この人の「女装するおんなたち」という新書を読んだ記憶がある。切り口が新鮮で、なるほど都会で働く女性ってこんなことになってるのかと思った。
雑誌二誌に連載したものを、2004年に単行本として出したもの。内容はズバリ、女一人でいろいろな寿司屋へ行って食べてみた体験記。
ひとり寿司のきっかけは、仕事のあと、気晴らしに寿司屋へ行き、とてもひどい扱いを受け、その仕返しのつもりとのこと。一人で出かけた店で、味、雰囲気、客層など、しっかり観察しているのが面白い。
寿司屋には、常連客と店主が醸し出す一種の雰囲気があって、いきなり飛び込んでも上から下まで値踏みされるだけで、とても入り辛い。それをあえてした勇気。えらい。
初めはこわごわ、でも一流店ほど、客の緊張を解き、味と雰囲気でいい感じにして帰してくれるらしい。客層は接待に使うビジネスマン、水商売の女性とそのパトロンが主流で、東京の高級住宅地の店などは家族で来て、子供も各自注文して寿司をつまむんだそうな。
女が一人で寿司を食べるときのルールは三つ
予約を入れて女一人だと告げる
自分についた職人にいい感じを持ってもらう。
敵は二通り、おばはん主婦(夫か友人と来ているのかな。一人ではなさそう)と若い女連れの、三十代~四十代の男だそうで。専業主婦と自分で稼ぐことのできる女との宿命的な対立、あとの方は若い女の関心がひとり寿司している女に向いてしまうんだとか。なるほど、場数を踏んだだけに鋭い観察。
寿司屋とは、庶民には分からない高級なものを出し、それを享受する高級な客が醸し出す、一種スノッブな雰囲気。女子供は初めから締め出されている。男におごられ、男の威張るのを受け入れる場合のみ、女も行っていいところだった。
その常識に風穴をあけた功績は大きい。どのくらい大きいかというと、この本に触発されて上野千鶴子が「おひとりさまの老後」を書いたそうな。面識ないけど本を送ったら、行きつけの隠れ家レストランに招待され、のちにその店がミシュラン三ツ星になったとか。さすがと褒めていた。いい店を見分ける嗅覚は超一流。
で、この二人がレストランで「おひとりさま」について語り合う。いいなあ、こういうの。
私はこの中ではおばはん主婦というカテゴリーだけど、隣で女の人が一人でお寿司食べてても敵意は持たないと思う。かっこいいなあと感心すると思う。この人と私と、どこでどう違って今の境遇なんだろうかと、ちょっと考える。
でもそれぞれいいときもあるし悪い時もあるし、羨んでもしようがない。自分の人生を生き切るしかないんだと、気持ちを新たにするかも。だからたまには違う立場の人と出会うのも大切。
私など、高級寿司屋にはとてもひとりで行けない。夫と行っても家の延長でときめかないし、それならジャスコの盛り合わせを30%オフになってから買って家で食べればいいし、話するだけでいい、という山羊さんみたいな大金持ちのお爺ちゃんに誘われたら行くかもしれないけど、そんな場面あるわけないしね。
で、最後に思ったのはつくづく飽食の時代だなと。食べ物のちょっとした差異で人は一喜一憂し、高級寿司店で差別し、差別し返すそのシビアな世界。逆に、身構えて入った寿司屋で親切にされてホッとするなんて、考えてみたら寂しい時代でもあると思った。