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「妖談」 車谷長吉

2013-08-07 | 読書

夏の太平洋 先月高知県桂浜で


34の掌編から成る作品集。面白くかつ深い。欲に駆られた人間の救いがたい姿を様々なパターンで活写、どんな人間も一皮むけば物欲、名誉欲、所有欲、性欲・・・あらゆる欲に振り回される卑小な存在。そのものの見方と書き方が徹底しているので面白い。作者は惨めなものにも同情しない。切って捨てるような短い文章。小気味よい。

しかし、欲はまたうまくコントロールすれば人が成長する糧であると私は思う。欲は捨てきれるものでもないだろう。

捨てたらどうなるのかな。張り合いのないつまらない人生になると思う。

欲を捨てて純粋無私な稀有な人の例が、末尾に近い「文盲のおばあさん」。国夫の母方の祖母は家が貧しくて学校へ行けず字が読めなかったが、心の優しい人。よそでもらった御馳走を娘夫婦が働く田んぼまで持ってきて食べさせる。自分のようなものが婚家に出入りして娘に迷惑かけてはいけないと自制しているのである。

国夫はうちへ来てご飯食べろと誘う。お母んが眼張炊いてくれるからと。眼張に私はしびれた。少し前の日本にはこんなおばあさんや孫がたくさんいたのです。

今は「業が沸く」の勝子のように、ツアーで乗鞍へ行ってクロユリを移植ごてで掘り取り、見つかって後日、地元警察に呼び出され、頭下げてやっと許してもらったのに全く反省していない人間ならたくさんいそう。

私が遭遇したのは、四国カルストのツアーで花を盗る人、牛窓のツアーでオリーヴの実を盗る人、いずれも中年女性。つい注意したけど、全く悪びれないのであきれた。それもまた欲に駆られた人間の浅はかな姿か。

私はこの人のそう熱心な読者ではないし、どう位置づけられるのかもわからないけど、読んで損はありません。人間って一皮めくるとこうだよなあと、膝を打つ、その快感。

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