昨年、我が家の庭で。今年は雨続きでまだ現れない。
7つの短編から成る、10年前の作品集。作者は大阪池田市の小学校の襲撃事件をきっかけにこれを書いたという。
どの作品にも死とか、重い障害を負った人が出てくる。しかし、絶望せずに生きる方に舵を切る。悪い時はずっとは続かない、希望を見つけて生きて行こうという応援歌のような作品ばかりだった。
その気真面目さ、前向きな姿勢がややもするときれいごとで気恥ずかしかったりするんだけど、達意の文章力で分かりやすく、これはこれでいいのだと思う。
何も気難しく書くばかりが文学ではあるまい。というか、たいていの人は読んですっきり、生きるっていいことだという感動をこそ読書から得たいと思うので。
殆どが子供が主人公の作品で、ひとり桜だけは大人の男女の恋愛のお話。写真家の僕は毎年撮る小さな桜がある。そこにたたずむ桜の聖のような若い女性は、生前の夫が僕のサクラの写真を好み、自分が死んだら幸せになってほしいと遺言を残す。
宿まで車で送り、僕は別の部屋を取り、女性から誘われて愛を交わす。女性は翌朝早くいなくなっているが、二人が人生を共にしそうなところで短編は終わる。
ええなあ、こんないい話が現実に転がっていたらどんなにいいことか。で、やっぱりこれって男の描く、男の理想=妄想かもしれないと思う。
現実には、桜の木の下には地元のおばちゃんグループしかいなくて、こんなに心の奥底までさらけ出して理解しあえる人とはなかなか巡り会えないけれど、まあ一つの理想として。
理想を語るのも小説の大切な役割の一つ。弱った心に効く栄養剤。どこからでも読めるのでよかったらどうぞ。