面白かった。400ページ以上の長編だけど、すぐ読めた。
国交省の若手官僚の佐藤弘は、現場を志願して今は群馬の山奥のダム管理の現場にいる。ある日、黒人男のフランス人、イルベールが訪ねてくる。佐藤の別れた恋人、乃緒を探しているのだと。
彼女は女優で、その後フランスに渡り、子供ができたが彼に預けたまま失踪したと言う。
関わりたくない僕だが、パリのユネスコ本部に出向になり、イルベールと乃緒の情報交換をするうち、次第に彼女を中心とした謎の多い、不思議な事柄のなぞ解きにと引き込まれて行く。
彼女はイスラエルの映画に端役で出ていたことがあるし、第二次大戦中のヨーロッパで、ユダヤ人をアメリカに逃がす仕事の手助けもしていたらしいことが、イルベールが古物商から手に入れた古い暗号文からわかってくる。
同一人物?あり得ないことだけど、あり得ることとして読ませてしまうのが小説の力技。
人が生まれ変わることは、昔はけっこう信じられていたと思う。全く同一人物が違う時代に生まれ変われるわけがないと、今の科学だとそうだろう。死とは肉体が滅びること。魂も肉体の一部なら、魂だけが残るわけもないし、同一人物が違う時代にいるはずもない。
そう決めてしまえば原文を暗号化した日本人の老僧侶の創作かとも思うが、詮索しても詮無いこと。一つの謎の周りの人たちの人間関係が、この小説の一方の読ませどころだと思う。みな自立していて、そしてそれだからこそ他者に優しい。その風通しの良さに私自身心が洗われ、救われる気がする。
佐藤はフランス女性を日本に連れ帰り結婚する。しかし結婚は幸せなことばかりではなかった。乃緒の子は大きくなり、イルベールは癌にかかる。そして乃緒の消息は・・・
読後、他者を思いやり、自分のすべきことをきちんとやっていく。人生とは結局それに尽きるんじゃないかと愚考した。