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「死のある風景」 吉村昭

2021-06-14 | 読書

引き続き姑様の本を読む。

一つ前に読んだ昭和歳時記はエッセィ、同じ内容を小説にしたのもあり、10の作品からなる短編集はどれも戦争末期から戦後の、作者の身の回りにあったことをもとにして書かれている。

どれも破綻なく、よくできているけれど、特に面白かったのは東京から東北へ、闇米を買いに行く話の「煤煙」。殺人的な混雑ぶり、帰りには取り締まりで没収されることも多かったが、この主人公と同行者はそれぞれ2斗の米を持ち帰る。その様子が詳しくわかってよかった。

「金魚」は拝むと爆撃から逃れられると信じられていて、主人公の家の池にあるのをもらいに来る人がいた話から始まり、進んで戦争に志願する同級生と、病気で兵役に就くのが遅れ、結局生き残った主人公のその後の話など。

戦争という非常時には、人の境遇も激変し、生死の境もほんの偶然。その運命に翻弄されるとき、人の本質が垣間見える。感動する話もあり、見たくなかったすさんだ話もある。そこのところをうまく掬い取っている。戦争はよくないけど、小説の題材はたくさん転がっていたことでしょう。

でも、私はこれからもうこの作家は読まないと思う。男で旧世代の人だと、批判的にしか考えられなくなった。

その作品は「初富士」。富士山麓にある家の菩提寺に弟夫婦、嫂と連れ立って私は新年のあいさつと墓参りに行く。先代の住職の妻から手紙をもらっていたからである。

それは、小説家の主人公が小冊子に書いたエッセイについての問い合わせ。そのエッセィとは、戦前、東京で行われた主人公の祖母の通夜のあと、父親と先代の住職が酒を飲みに出かけて待合に行き、翌朝まで帰らなかったという話。

初めて知った彼女はショックを受け詳しく知りたいというのである。

「信じていただけに・・・裏切られたような悲しい気持ちになった」という相手に、主人公は「夫の生前の遊びを知って、嫉妬を感じている老女が微笑ましかった」と書き、最後にまた「老女が今でも女らしい感情を失わずにいることに微笑ましさを感じた」ですって。なんか上から目線。ご自分の書くことで人が傷ついたことへの反省がないと思う。当人にしたら微笑ましいでは済まない感情の波立ちがあったと思う。

いやいや小説です。作者を責めてはいけない。いけないのだけど、登場人物は作者の考えを代弁している。男にとっては大したことなくても、女にとっては一大事。相手が死んでいて、文句言えないのが一層悔しい。その感情に年は関係ない。

それにやたら「老女、老女」と書いてますが、70代後半。いまのその年代の人は若く個性的。決して老女とひとくくりにされていい存在ではありません。

このあたりが、もう時代に合わない作品と思いました。

あなたがこの女性の立場ならどうしますか。しかも知ったのが、読書会の仲間に教えられて。つまり恥ずかしい思いをしたということ。

私なら「絶対許さん」と腹立てるでしょう。墓石を蹴るかもしれかもしれんけど、相手は石、バランス崩して転んだら危ないので、うーーーん、どうするかな。死んだ人への仕返し、難しいけど、残された人生楽しく過ごして鼻を明かしたつもりになるかな。(性格わるうーーー!!!)

題名通り、どの作品も死を扱っている。結核にがん。がんも30年くらい前までは不治の病と恐れられ、患者には知らせず、本人は苦しみぬいて死ぬというのが一般的だった。今はがんも治るし、完治に向けて長く付き合う病気。告知もする。

この本読んでがん告知するようになったのは、今の時代の人が動揺しない人格者になったのではなく、がんが治るようになったからと気が付いた。治療を続けるためには本人に正しく伝えるのが前提条件。時代が変わったと思った。

姑様がこの本を読んだのは舅様が亡くなった後しばらくしてだったらしい。なんでこんな暗い小説集読んだのかなと思うけど、いっぱい悲しんで死の意味を考え、それまでを有意義に過ごそうと立ち直るために読んだのかなあと思う。

気丈な人で寂しいと一言も言わず、法事をして人が来てくれることを楽しみにしていた。

この本読んで、少し前までは死は社会的なもの、人のつながりが密で、人は人の死を悼み葬式にもマメに出かけていた。今は死は世間から隠され、ほんの近い人だけで送る。負担がなくていいけれど、そうまで死を忌み嫌っていると、死について考えることも減り、自分の死について覚悟ができなくなる恐れがあり。

特に今コロナ、身内も死に立ち会えず、寂しい時代になったのだと思った。

コメント (2)
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