私たちの乗った、引き揚げ船「信濃丸は
緑の場所を目指して進んでいます。
その緑にどんどん接近していくと突然、
緑が開いて水路が見えました…
さすが元軍港だけあって、陸地に近付いても
港がなかなか見えません。
… … …
いよいよ桟橋が近付いてきて
私らは「信濃丸」の長い階段を
下りて、小さな船に乗り換えます
… … …
私は下船に際して、私を可愛がってくれた
船員さんに別れの挨拶を交わしました。
私たちの乗った小さな船は桟橋に着きました
… … …
桟橋に下りた私たちの財産は
それぞれのリックサック一つです。
私たち引き揚げ者たちは並んで
桟橋を歩いて行くと、
大きな噴霧器を持った係員が
桟橋の外れで待ち構えていました。
並んで歩いて行く私たち引き揚げ者の
頭の上からその係員は白い粉を
浴びせます…
… … …
白い粉を浴びせられた私ら
引き揚げ者は全身、真っ白になりました。
あとでわかったのですが、頭から浴びせられた
白い粉は、DDT(ディディティ) と呼ばれる
殺虫剤でした…