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核酸医薬を脳内に効率よく到達

2021-08-24 10:25:37 | 
東京医科歯科大学の研究チームが、細胞内の特定の遺伝子に直接作用する「核酸医薬」を脳や脊髄内の神経細胞に直接届ける手法を開発したと発表しました。

神経難病の治療には、神経伝達物質やホルモンのように働いたり、逆にこれらの働きを抑えたりする役割を果たす「低分子薬」が使われてきました。しかし症状を抑えたりする対症療法にはなるものの、根本的な治療はできませんでした。

近年は病気の原因となる細胞の表面にあるタンパク質にだけ結合して阻害する「抗体医薬」や、タンパク質を作り出す細胞内遺伝子を調節するDNAやRNAを人工的に合成した核酸医薬によって、根本治療につながることが期待されています。

しかし血管と脳の間は「血液脳関門」と呼ばれる脳血管内皮細胞で隔たれており、小さい分子や特定の栄養分は通過できますが、既存の抗体医薬や核酸医薬は分子が大きく通過できませんでした。

このため脳内の神経細胞に届けるには、患者の負担が大きい脳脊髄液への注射が必要で、神経難病への応用が課題となっていました。私のように創薬研究をしていると、膜の透過性は非常に大きな問題となっていました。

私が一時取り組んだのは、抗生物質の中にアミノ糖系と呼ばれる非常によく効く種類があるのですが、これが全く腸間膜を通過しません。つまり飲んでも吸収されず注射しか投与法がないのです。

そこで体内で外れるような物質を結合させ、腸から吸収されるような変換を試みたわけです。それほど長期間やったわけではありませんが、それでも10%ぐらいは吸収されるものを作ることができましたが、このくらいの吸収率では薬として使うことはできず断念しました。

さてこの研究チームは、核酸医薬をDNAとRNAを組み合わせた2本鎖で設計しました。そこに脳関門に取り付いて侵入しやすいコレステロールを結合させることで、通過させられることを発見しました。

マウスを使った実験では、静脈内に投与すると、脳内の各部位で狙った遺伝子の発現を70〜95%抑制することができたようです。

従来の核酸医薬は、DNAかRNAのいずれかの1本鎖か、RNA2本で構成されていました。研究チームが開発した2本鎖の核酸医薬は、細胞内に入ると標的の遺伝子と結合し、切断して機能を失わせ従来より効率よく作用しました。

例えばアルツハイマー病では、原因とされる異常タンパク質が神経細胞内に蓄積し、脳細胞が死滅して発症するとされています。この異常タンパク質を作り出す遺伝子を壊せば、発症の抑制や症状の改善につながる可能性があります。

ただし今回の研究成果は、核酸医薬という膜を通過しない物質を入れることができたという基礎的なものですので、これをどう治療に使うかは今後の課題と言えそうです。


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